48話。ヴァルム家の奥義を自分のモノにしてしまう。ほら、父さんお返しですよ

「この俺が間違っていたと言いたいのか……!? クソッ、侮るなよ!」


 父上の身体から魔力が噴き上がる。父上は高速詠唱で、複雑かつ強大な魔法を瞬時に編み上げた。


「【焔鳥】(バーンバード)!」


 翼を広げた超高熱の炎の鳥が、父上の手のひらから出現し、僕に飛びかかってきた。


「ヴァルム家に伝わる火属性の奥義だ! 消し炭になるがいぃいいい!」


 確かにすごい魔法だ。

 だけど、古竜と対峙して、竜魔法を修得してきた僕には、その術式の構造が瞬時に理解できた。


「【焔鳥】(バーンバード)」


 父上の詠唱を竜言語に翻訳し、竜魔法として放つ。竜魔法は、人間の魔法の上位互換だ。


「なにぃいいいい!?」


 父上の魔法の5倍近い大きさの炎の鳥が出現した。凝縮された熱量も、相手の比ではない。


「火竜王の操る炎にも劣らぬ威力じゃな!」


「すごいわ!」


 アルティナとティルテュが、感嘆の声を上げる。

 僕の魔法は父上の魔法を呑み込み、父上に襲いかかった。


「ぎゃあああああっ!?」


 父上は死の恐怖に絶叫した。

 だが、僕がパチンと指を鳴らすと、炎の鳥は幻のように消え去る。


「えっ、あ……」


 目を瞬く父上の股間は濡れていた。恐怖に失禁してしまったらしい。


「思えば、魔法を教えていただくのは、これが初めてでしたね。さすがはヴァルム家の奥義だけあって、強力です」


「い、一度、見ただけで【焔鳥】をモノにしてしまっただと……!?」


「しかも威力は5倍以上に増しておるのじゃ」 


「バカな! バカな!? おのれっ! お前の得意属性は火だったのか!? それでは、これはどうだ!? これこそ、俺の切り札だ!」


 父上はさらなる複雑な詠唱を始める。これは冥と水の複合魔法だ。父上はかなり珍しい冥と水、2つの魔法適性を持つ者だった。


「広範囲攻撃魔法ですって……!? あなた、私もいるのに!?」


 聖竜セルビアから非難の声が上がるが、父上は構わず魔法を放った。


「お前が助けようとした人魚ともども氷漬けになるがいぃいい! 【氷の監獄】(コーキュートス)!」


 極低温の冷気の嵐が吹き荒れ、地下空洞全体に、白い氷が広がった。


「【聖竜盾】(ホーリーシールド)!」


「きゃあぁあああ! ってあれ、何ともない……?」


 ティルテュが父王にしがみついて悲鳴を上げるが、キョトンとして身体を見下ろす。

 その周囲には、輝く聖なる魔法障壁が出現していた。


「これは聖竜の得意魔法じゃな!」


 アルティナが指を鳴らす。僕と彼女の周りにも僕は障壁を展開し、冷気をシャットアウトしていた。

 

「ノ、ノーダメージだと!?」


 平然と立つ僕を見て、父上が目を剥く。


「……ぐぅうう。私は甚大なダメージを受けたわよ……」


 セルビアだけが、痛みに顔をしかめていた。

 その間に、僕は今の魔法の解析に成功した。

 僕は冥属性に適性がないので、今の魔法を完全に再現するのは難しい……

 試しに水属性だけで、やってみようか。


「【氷の監獄】(コーキュートス)!」


 魔法詠唱を竜言語に翻訳。さらに水属性だけで、同じことができるように即興で改変して放った。


「ひゃぎぁああああ!」


 結果、効果範囲は狭いが、より絶対零度に近い冷気を放てた。

 父上は慌てて魔法障壁を出現させたが、そのガードを突き破って、両足を氷漬けにされる。


「おおっ。見事なアレンジじゃな! 単体の敵には、こちらの方が有効じゃ」


 アルティナが賞賛の声を上げた。


「……まさか、まさか、詠唱無しで俺以上の威力を!?」


「これが古代文明の叡智、無詠唱魔法です。いずれハイランド王国の魔法は、すべて無詠唱魔法に置き換わります。父上の魔法は……時代遅れです」


「うおぉおおおお!」


 父上は痛みにうめきながらも、回復魔法を発動する。その両足が、ゆっくりではあるが元通りになった。


「おのれ、化け物め! こんな、こんな力……! 人の域を超えているではないか!?」


 恐怖に震える父上は、すでに戦意を喪失していた。

 もう十分だろう、勝負はついた。天国にいる母上もこれ以上は望んでいないハズだ。


「父上、聖竜王に寝返ることで手に入れた情報をすべて渡して下さい。ヴァルム家を残したいのであれば、これが最後のチャンスです」


 僕は父上に最後通告を突きつけた。

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