49話。父、負けを認める
「ヴァルム家を残したければだと……?」
父上は愕然と目を見開いた。
「そうです。情状酌量の余地を作って、ヴァルム家の存続を許してもらえるようにシスティーナ王女殿下に頼んでみます」
「ザファル・ヴァルムよ。おぬしが聖竜王に寝返ったなどという事実が表沙汰になれば、ヴァルム家は取り潰しになるじゃろう。それを覚悟の上で、この暴挙に出たのではないのか?」
「ぐぅおおお……っ!」
唇を噛みしめる父上は、まさか自分が破滅するとは思っていなかったようだ。
栄光を求めて、すべてを失うとは救いが無い。
「僕はヴァルム家を滅ぼしたいとは考えていません。僕が生まれ育った家ですからね。引き返すなら今です。聖竜王について、知っていることをすべて話してください」
「カルよ。わかった……お、俺の負けだ。お前がこれほどの男だったとはな……」
父上は憑き物が落ちたようにうなだれた。
「俺は父からヴァルム家の栄光を守り続けろと厳しく躾けられた。それだけが、俺の人生のすべてだったのだ……
聖竜王について、知ったことを話そう」
「ザファル・ヴァルム! その口を閉じなさい! さもなければ、どのような手段を講じても、聖竜王様はあなたを殺すわよ!」
僕の魔法に拘束された少女セルビアが金切り声を上げた。
「構わん。どちらにせよ、俺は処刑されるだろう……俺は栄光に狂っていた。それで妻や息子にも辛く当たってしまった。せめて最後に、竜殺しのヴァルム家当主としての正道に戻りたいと思う」
父上は皮肉げに微笑した。
「カルよ。今やアルスター男爵家こそが、英雄カイン・ヴァルムの正当なる後継と言えるだろう。アルスター男爵家を盛りてて行ってくれ。それが、俺の最後の願いだ」
「はい、父上……わかりました」
もしかすると、父上も『栄光』という名の呪いに苦しめられていたのかも知れない。
栄光を失うことで、ようやくその呪縛から解放されたような気がした。
「聖竜王はこの俺のように、ハイランド王国内に内通者を作っているようだ。ヤツは力押しの戦略を変えてきた。そして、俺の見立てでは怪しいのは……」
その時、爆音と共に天井が破れ、大量の瓦礫が降ってきた。
「親子喧嘩はおしまいか? カイン・ヴァルムの末裔ども!」
「おぬしは海竜王リヴァイアサンか!?」
アルティナが叫ぶ。
天井を突き破ってきたのは、鋼のような肉体をした大男だった。まるで猛獣のような荒々しい闘気を放っている。
「リ、リリリリ、リヴァイアサン!?」
ティルテュが歯の根も合わないほどに震えた。
くっ、これはまずいな。
「アルティナ! 父上も連れて、みんなで【オケアノスの至宝】の元へ! 僕はここで海竜王を足止めする!」
「なんじゃと!?」
一目見てわかった。海竜王の力は、人間形態でも、今まで戦ってきた古竜をはるかに凌駕する。
これでドラゴンの姿になったら、どれだけの強さとなるのか、想像がつかない。
一刻も早くアルティナの封印を解かなくてはならなかった。
「わわわっ、わかったわ! お父様、至宝の元に案内してください! 冥竜王の封印を解きます!」
「なにぃ!? 冥竜王とな?」
事情を知らされていないオケアノス王は、仰天していた。
「海竜王! その男を、裏切り者のザファル・ヴァルムを殺しなさい!」
光の鎖に縛られたセルビアが叫ぶ。
「情けないヤツだなセルビア! それでも聖竜王の腹心か? 殺りたければ、てめぇの力でやるんだな! 俺は久々に全力で戦えそうで、たぎってんだよ」
「くっううう! この筋肉ダルマの戦闘狂が!?」
「情けねえ冥竜の小娘になんざ興味はねぇ。俺の軍団を翻弄してくれた、カル・アルスター! ここからは、大将同士の一騎打ちと、しゃれこまねぇか?」
海竜王リヴァイアサンは、僕を指名してきた。
「望むところだ」
僕はみんなを庇うために、前に出た。
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