50話。父との和解。海竜王との決戦
「カルよ。海竜王は物理攻撃を得意としているのじゃ。七大竜王の中で、最もパワーが強い。接近戦は絶対にさけよ!」
「わかった。ありがとうアルティナ」
この地下空洞は、広いとはいえ閉鎖空間だ。
ここでなら、逃げ回っての魔法攻撃の撃ち合いになりにくい。
海竜王にとって、有利な地形と言えた。
「行きましょう、お父様! ほら、ザファル・ヴァルムも、行くわよ!」
「ぬっ……わかった」
ティルテュにどやされて、父上もその後に付いて行く。
「海竜王はまだ、カルをあなどって人間の形態を取っておるのじゃ。ドラゴンの姿になる前に決着をつけるか……もしドラゴンになったら、わらわが駆けつけるまで、全力で逃げるのじゃぞ!」
アルティナは警告を発すると、僕を気にかけながらも駆け出した。
今、何を優先すべきなのか、彼女も良く理解しているのだろう。
「アルティナ。おそらく、そちらも海竜王の手下に阻まれると思うから、気をつけて」
僕は【筋力増強(ストレングス・ブースト)】を自分自身にかけた。呪文詠唱を竜魔法に翻訳して、より増幅率を高めた筋力バフ魔法だ。
かつてない力が全身にみなぎる。
「父上! ティルテュたちのことをよろしく頼みます」
「わかった。ヴァルム家当主の名にかけて、この者らを守ろう……武運を」
父上が力強く頷いた。
聖竜セルビアと父上は決別した。父上が本当の味方になってくれるなら、心強い。
安心して、海竜王との戦いに専念できる。
「へぇ~っ。やるじゃねぇか。人間にしては、大した力だ。並の竜なら素手で殺せそうだな」
海竜王リヴァイアサンが賞賛の口笛を吹く。
「感心している場合ではないわ! 早くソイツを殺して冥竜王を追うのよ」
セルビアが声を荒らげる。
「盛り上がっているところに水を差すんじゃねぇよ。むしろ、隠されていた至宝を手に入れるチャンスだろう? 例え封印が解けようと冥竜王の小娘ごとき、この俺の敵じゃねぇ! お前は黙って見ておけ!」
どういうことだ? 僕は疑問を感じた。
【オケアノスの至宝】はあらゆる魔法や呪いを打ち消すという宝珠だ。
竜王たちがこれ手に入れようとしているのは、アルティナの封印を破られないためじゃないのか?
海竜王の口ぶりから、何か別の目的があるように察せられた。
「くぅううう! この身さえ自由になれば…!」
セルビアは必死に【聖竜鎖(ホーリーチェーン)】を解除しようとしているが、しばらく時間がかかるだろう。
今は、海竜王との勝負に全力を注ぐんだ。
「ハハハハハッ、それじゃ行くぜぇ!」
大地を踏み砕いて、海竜王が突進してきた。まるで猛風と化したかのような動き。
「【聖竜鎖(ホーリーチェーン)】!」
僕は海竜王を、地面から伸びた無数の光の鎖で絡め取る。
ヤツが動きを止めた瞬間、僕は海竜の弱点である雷属性攻撃を叩き込んだ。
「【雷吼(らいこう)のブレス】!」
「うぉおおおお!?」
雷撃の激流が海竜王を飲み込み、地面を爆散させた。地下空洞全体に、激震が走る。
「ホ、ホントに人間なの、あなた!?」
セルビアが息を飲むが、無論、この程度で海竜王は仕留められない。
「やるなぁああ! 少なくとも上位古竜並の実力はあるようだ」
光の鎖を引き千切って、五体満足な海竜王が姿を見せた。
身体の表面に火傷は負ってあるが、舌舐めずりする姿からは、余裕が感じられる。
「今度はこちらから、行くぜ!」
「【ウインド】!」
海竜王が飛びかかって来ると同時に、僕は床を蹴って距離を取る。
爆風を噴射させて加速したが、気づいたら真正面に海竜王が迫っていた。
「いい動きだ。人間にしてはなぁああ!」
「【聖盾(ホーリーシールド)】五層展開!」
放たれた海竜王の拳を、5つ重ねた聖なる魔法障壁で防ぐ。
ドバァァアアーン!
音速を超えた鉄拳は衝撃波を発生させ、地面に無数の亀裂が入った。
堅牢な【聖盾(ホーリーシールド)】が4つまでガラスのように爆ぜ割れた。ヤツの拳は最後の5つ目でギリギリ、止まる。
危ない。間一髪だった。
「へぇ! 俺の拳を受けて死ななかったヤツは、数百年ぶりだぞ!」
海竜王は豪快に笑った。
僕はその隙に距離を取る。冷や汗が滲み出た。
マズイ。こんなペースで竜魔法を使ったら、魔力が底をついてしまうぞ。
このままだと、足止めどころか5分も保たないだろう。
アルティナたちのためにも、なんとかしないと……!
その瞬間、僕の頭は冷たく冴えた。世界の裏の裏まで見通せるような不思議な感覚……
初めてアルティナと出会った時や、古竜ブロキスに勝利した時と同じ感覚だ。
1秒が無限に近いほど引き伸ばされる。
そうだ……魔力が足りないなら、魔力の消耗を抑えるように魔法を改良できれば良いんじゃないか?
その閃きに従って、【雷吼(らいこう)のブレス】の術式を、改良。魔力消費を抑えつつ、今までと同じ威力が出せるように、魔法の構造を書き換えていく。
より効率的に。より、身体への負担が少なくなるように……
「おもしれぇ。俺の拳にどこまで耐えきれるかな!?」
海竜王が突進してくる。
人間など原型も残さず破壊する拳が放たれた。
「【雷吼(らいこう)のブレス】5連!」
「なんだとぉおおお!?」
僕は【雷吼(らいこう)のブレス】を一度に5つ発射した。それらは1つに合体して、超極太の雷撃となる。
本来なら魔力の枯渇によって、命すら危なくなる暴挙だ。
だが、魔力の消費効率を極限まで追求した【雷吼(らいこう)のブレス】は、今までの100の1の魔力で使えた。
特大の稲妻に撃たれて、海竜王が吹っ飛び、壁に激突した。地下空洞が衝撃に鳴動する。
「まっ、まさか、人間ごときが海竜王リヴァイアサンを吹っ飛ばした!?」
セルビアの驚愕の声が響いた。
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