51話。魔剣グラムの真のマスターとなる
海竜の弱点である雷属性の竜魔法を、5つ叩き込んだのだ。海竜王と言えど、大ダメージを受けただろう。
僕は荒い息を吐いて、瓦礫に埋もれた海竜王を見つめた。
無茶な魔法の改良と行使を強行したためか、ひどい頭痛がする。脳の神経が焼き切れそうだ。
「やりやがるなぁ! もうお前を人間だと思うのはやめだ!」
瓦礫が爆散し、血を流した海竜王が姿を見せる。その右肩が弾け飛んで、右腕は失われていた。
だが、海竜王が呪文を紡ぐと、時間を巻き戻したように腕が再生する。
「……すごい回復魔法だけど、距離が遠くて解析ができなかったな」
僕は肩を落とした。
残念だ。海竜王の魔法も習得してみたかったのに。
「ハハハハハッ! まさか格上との戦闘中にそんなことを考えてやがるとは、余裕じゃねぇか? いや、その飽くなき貪欲さこそが、お前の強さの根源か……」
貪欲さが強さの根源?
「俺も強いヤツと戦うのが、楽しくて仕方がねぇ。要するに、ご同類ということか。
ハッ、いいぜ。脆弱な人魚の相手なんざ、飽き飽きしていたところだ。ここからは俺も魔法を全開で使ってやる。どうだ?ワクワクするだろう」
海竜王は豪胆に笑った。
「見せてくれるのか……? 海竜王の魔法を」
ヤツの言葉通り、僕は胸が高鳴るのを感じた。
思えば実家にいた時から、魔法が使えないにもかかわらず、魔法を学ぶのが楽しくて、魔導書を読み漁っていた。
無詠唱魔法が使えるようになった今、ますます魔法を学ぶのが楽しくなっている。
「海竜王、遊ばずに一気に決めなさい! ソイツは【雷吼(らいこう)のブレス】を一瞬で進化させたのよ! そんなこと地上のどんな種族でも、実現不可能だわ! おそらく、ソイツこそが聖竜王様のおっしゃられていた【根源の刃】を振るう者よ」
拘束された聖竜セルビアが絶叫する。
海竜王は突如、表情を引き締めて僕を睨みつけた。
「なに? ……いや、まさか、聖竜王が言っていたエレシア文明の遺産。それはお前のことなのか……?」
なんのことだ?
「ふん、だとしたら確実に、お前をここで叩き潰さなければならねぇな。
いいぜ。お遊びは終わりだ。俺の真の力を見せてやる」
海竜王リヴァイアサンの身体が膨れ上がる。その身が、一瞬で地下空洞の天井を突き破った。
降り注ぐ大量の土砂と瓦礫の中、巨大なドラゴンが僕を見下ろす。全身から溢れ出す、魂を押し潰すかのような威圧感。
これが海竜王の正体か。
「きゃぁあああああ! そうよ、一気に決めなさい!」
地下空洞の崩落に巻き込まれながらもセルビアが叫ぶ。
僕は【聖竜盾(ホーリーシールド)】で、全身をガードしつつ、【ウインド】の爆風を地面に噴射して、地上へと飛び上がった。
「へっ、やはり生きていたか。土砂に生き埋めにされておしまいなんて終わり方じゃ、締まらねえからな」
海竜王が歓喜に満ちた濁声を響かせる。
デカい……まるで、山がしゃべっているかのようだ。
外では決起したオケアノス軍と、海竜王の軍が衝突していたが、全員が手を止めた。
リヴァイアサンの威容を目撃した人々から、恐怖の絶叫が響きわたる。
「さぁ、行くぜぇえ! 見事、自分のモノにしてみな【酸弾檻(アシッドバレットジェイル)】!」
海竜王の周囲の空間から、無数の水の弾丸が出現、亜音速で発射された。
古竜フォルネウスの魔法とは似て異なるモノだ。この水弾は強烈な酸であり、触れた物体を溶かした。
「ぐぅううっ!?」
僕は5つ重ねた【聖竜盾(ホーリーシールド)】で防ぐ。
同時に今できる最大最強の攻撃、5つ束ねた【雷吼(らいこう)のブレス】──名付けて【五頭竜の雷吼(らいこう)】で反撃する。
極太の雷光が海竜王を叩くが、山のような巨体は小揺るぎもしなかった。
「ハハハハハッ! 蚊に刺された程度だな、そんなもんか?」
僕の魔法障壁が、次々に破られる。その度に新しい【聖竜盾(ホーリーシールド)】を張って防ぐが、魔力の消耗が限界に達しそうだ。
起死回生の一手に賭けるしかない……!
「【酸弾檻(アシッドバレットジェイル)】!」
僕は海竜王の魔法を、そのまま返した。その巨体に豪雨のような酸の弾丸を叩き込む。
「おおおおっ! やりやがるな! だが、俺の再生能力で相殺できるレベルだ」
僕の魔法は、海竜王の身体に無数の穴を開けるが、それが異常な速度で塞がった。
ヤツの無尽蔵な再生能力が、魔法によるダメージを0に戻してしまうのだ。
「すげぇ! 誇っていいぜぇ、お前は! この海竜王と真っ向からやりあったんだからな!」
海竜王が右腕を振り上げ、僕に叩きつけようとした。
地面を蹴って離脱しようとするが、攻撃範囲が広くて間に合わない。
くそっ、万事休すか……っ!
海竜王に対抗するには、破壊してしまった魔剣グラムが必要だったのかも知れない。
そう思った時、僕の脳裏に無機質な声が響いた。
『個体照合──竜殺しプロジェクト【カイン02】。アストラル適合率99.998%。当該個体をマスターと認定し【魔剣グラム】、機能解放します』
「なにぃいいい? まさか、その剣は……!?」
海竜王が驚愕の声を上げる。
気づけば、僕の手には【黒炎のブレス】で砕けたハズの魔剣グラムが握られていた。
復元されている?
この剣には復元能力まであったのか?
頭上を防御すべく、とっさに振り上げた魔剣グラムから、輝く光の刃が伸びた。
スパンッ! と海竜王の腕を両断される。
「ギャアアアアア!?」
海竜王リヴァイアサンの苦痛の絶叫が轟いた。
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