43話。聖竜セルビアからも魔法を教えてもらう
【聖竜セルビア視点】
私、聖竜セルビアは偉大なる聖竜王サヴァンティル様の腹心よ。
人間の国を滅ぼすべく、美しい少女の姿で暗躍し、人心を手玉に取ってきた私のふたつ名は【白翼の魔女】なのだけど……
『はぅああああ……こんなハズじゃなかったのに、どうしてこんなことになっているのよ!?』
私は通信魔法でヴァルム家当主ザファルを叱りつけた。
『それはこちらのセリフだ! 魔剣グラムを差し出してまで、カルを信用させたのに、何をしているのだ!? それでも聖竜王の腹心か? 何が【白翼の魔女】だ! 小っ恥ずかしいふたつ名を名乗りおって!』
『なんですって……!?』
この男、言ってはならないことを言ったわね。
思わず激怒しそうになって、慌てて周囲を見渡した。
私がいる後方甲板の周囲には5体の冥竜が飛んでおり、何かしようにも、まったく身動きが取れなくなっていた。
一緒にいるのが、人間や飛竜ていどなら、幻惑の魔法をかけて、この場から抜け出すこともできたわ。
人の姿となって、頃合いを見て船に破壊工作を仕掛けるといったことも考えていたのに、無為に時間だけが過ぎていく。
特に頭上にいる冥竜ゼファーが、私のことをジッと睨んでいて、めちゃめちゃ心臓に悪いわ。
私の正体が見破られたら、殺されるんじゃないかしら……?
『ザファル、ティルテュ王女を拉致することはできないの? 彼女を人質にすると同時に、海竜たちを呼んで総攻撃を仕掛ければ……』
『シーダとローグに監視されておるから、それは無理だ。そもそも、冥竜にヤラれた傷が痛んで泣きそうだぞ! どうしてくれるのだ!? ええっ!?』
何が泣きそうよ。情けないわね。
ヴァルム家といえば、竜殺しの名門貴族。手下にすれば、さぞ役に立つかと思ったのに、まるで期待外れだわ。
逆に……
『カル・アルスターの能力は予想以上だったわ。しかも、冥竜王アルティナをはじめとする家臣たちからは絶大な信頼を寄せられているし……』
正直、付け入る隙が見つからない。
本当にカルは、ザファルの息子かしら? トンビが鷹を生んだとしか思えないわ。
聖竜王様が警戒する訳ね。脅威度で言えば冥竜王よりも、カルの方がもはや上だわ。
「おい、聖竜の小娘。さっきから何をしているのだ? 魔法を使っているな?」
「は、はい! ゼファー様から受けた傷が痛むので、回復魔法を試みていました」
冥竜ゼファーから話しかけられて、私は慌てて返事した。
魔力の流れから、魔法を使っているのはバレバレなので、通信魔法の隠れ蓑として回復魔法も発動していたのだ。
「そんな暇があるなら我らが偉大なる主、カル様のお役に立つべく、この船全体を魔法障壁で覆え。防御は、聖竜の得意分野であろう?」
「はっ、い、いえ。しかし、私はヴァルム家の竜なので、ザファル様にご命令いただかなくては……」
「口答えするな、さっさとしろ! 我が主に貢献する栄誉を貴様にも与えてやろうというのだぞ!」
なによコイツ、めちゃくちゃ横暴だわ! これだから、冥竜って嫌いなのよ! 優雅で知的で可憐な私とは正反対だわ。
と思いつつも、言葉には決して出さない。
「はぃいいいい! 喜んでやらせていただきます! ……【聖竜盾(ホーリーシールド)】!」
私は半ばヤケクソとなって、聖なる魔法障壁で船を覆った。
なんでこの私が、カルを利することばかりしているのよ。屈辱だわ……
でも、とにかく今は、アルスター家の者たちの信頼を得えないと。
そ、そうよ、これは必要なことなんだわ。
「へぇ〜、すごい防御魔法だね。これが聖の竜魔法? もう一度、詠唱を聴かせてもらえるかな?」
すると、近くにやってきたカルが興味深そうに尋ねてきた。
なに? もしかして、聖の竜魔法を習得したいとでも言うの?
ふっ、身の程知らずね。
いくつもの竜魔法を習得して、調子に乗っているようだけど。神に近いとされる聖竜の魔法を、人間ごときが扱える訳が無いじゃない。
私は鼻で笑って、【聖竜盾(ホーリーシールド)】の詠唱をカルに聴かせてやった。
「ありがとう。こうかな【聖竜盾(ホーリーシールド)】!」
はっ……!?
なんとカルは、こともなげに私の魔法を再現してみせた。カルを聖なる魔法障壁が包む。
し、しかも、私の【聖竜盾(ホーリーシールド)】よりも、強力だわ。
なにこれ、どうなっているの?
まさか、コイツの得意属性は聖とか?
いや、それでもこれはあり得ないわ……
「さすがは、我が主! 聖竜を上回る魔法障壁とは恐れ入った!」
「これは良い魔法だね! ありがとうセルビア。他にも知っている魔法があったら、教えてくれないか?」
カルがぺこりと頭を下げてくる。
はっ? 聖竜王様の配下である私が、その敵を強くするなんて、あり得ないわ。
ブンブンと首を振って拒否する。
「我が主の命令が聞けぬと申すか!?」
ひぇええええっ!
冥竜ゼファーに怒鳴られて、私は縮み上がった。
「敵襲よぉおお!」
その時、前方甲板にいる人魚姫ティルテュが叫んだ。
海竜王の配下の半魚人たちが、銛を手に襲いかかってきたのだ。
その数、約3000にも及ぶ大部隊だ。
「冥竜たち、出撃だ!」
「承知!」
カルの命令に従って、冥竜たちが敵軍に突撃していく。
やった、チャンスだわ。
もうなりふり構わず、ティルテュ王女をここで拉致してしまうべきね。
そうすれば、この船は深海に沈むことに……
「ティルテュ王女、船内に下がって【聖竜盾(ホーリーシールド)】!」
「これは!? すごい強力な魔法障壁だわ、ありがとうございますカル様!」
と思ったら、カルに先手を打たれた。
ティルテュ王女を、清らかな輝きを放つ魔法障壁が覆う。
おおっ……私の攻撃力では、これを突破するのは不可能だわ。
「なんだ!? 強力な聖なる結界で、船が覆われているぞ!」
私の【聖竜盾(ホーリーシールド)】に阻まれて、半魚人たちは船に近寄ることもできなかった。
冥竜たちの反撃で、一方的に半魚人の軍団はヤラれていく。
『セルビア! てめぇ、どういうつもりだぁ!? いつ事を起こすつもりなんだ!?』
その時、海竜王リヴァイアサンが私に通信魔法を送ってきた。
くっ、エラソーな奴。私に命令する気? 私の主は、聖竜王様よ。
『ぐぅ……それは。まだ、ヤツらを油断させるために信用を得ている段階よ』
『はっ!? 冥竜どもが寝返って、こっちの戦力はガタ落ちしてんだぞ! なぜ、阻止しねぇ!? 敵を強くしてムダに犠牲を増やしやがって、てめぇは一体、どちらの味方だ!?』
返す言葉が見つからず、私は返答に窮した。
ぐぅううう……
優雅で知的で可憐な【白翼の魔女】である私が、なぜこんな屈辱を……
『ちっ! もういい。聖竜王の顔を立てて、策を受け入れてやったが、てめぇにはもう何も期待しねぇ。元々、小細工は俺の性に合わねぇんだ! 俺は俺で好きにやらせてもらうぜ』
海竜王は通信を遮断した。
カルたちの勝利の歓声を聞きながら、私は密かに頭を抱えた。
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