42話。冥竜たちを配下に加える
「笑止千万! この冥竜ゼファーが忠誠を誓ったのは、先代冥竜王イシュタル様のみ! 貴女など、あのお方の足元にも及ばぬわ!」
冥竜ゼファーの周囲に、黒い火球がいくつも浮かんだ。海中でも燃えるそれは、呪いの炎だ。
ヤバい。この絶大なる魔力、ゼファーも古竜クラスのドラゴンらしい。
「【冥火連弾(ヘルファイア)】!」
黒い火球が、一斉に僕たちの船に押し寄せてきた。
「きゃあぁあああ! カル様、な、なんとかしてくださいぃいいい!」
船を操るティルテュが悲鳴を上げる。
もちろん、一発たりとも被弾を許すつもりはない。
「【七頭竜光牙】!」
「なんだとぉおおお!?」
僕は雷の矢の弾幕を張り、黒い火球をことごとく撃ち落とす。
いくつか外すも物量で押し切り、逆に冥竜の群れに攻撃を浴びせた。
「この我と正面から撃ち合うとは!? 人間か貴様は!?」
古竜フォルネウスからドロップした霊薬を飲んだおかげで、僕の魔力量(MP)は爆発的に増大していた。
短期決戦なら、古竜と魔法の撃ち合いをしても競り勝てる。
僕は敵の混乱に乗じて、さらに雷の矢を叩き込んだ。
「驚いたであるか、ゼファーよ! おぬしはひとつ勘違いをしておるのじゃ。おぬしが【主従の誓約】をする相手は、わらわではない。
このカルじゃ! なにしろ、わらわはカルの配下であるからな!」
「バ、バカな!? 誇り高き冥竜王が……イシュタル様の娘ともあろうお方が、人間に膝を屈しただと!?」
5体いる冥竜のことごくが、怒りの雄叫びを上げた。
「アルティナ姫、許し難し! われらの誇りにかけて、ここで滅してくれる!」
「姫ではない。冥竜の王と呼ぶが良い!」
「アルティナ、敵を挑発しすぎだぞ!?」
「問題ない。すべてねじ伏せれば良いだけじゃ! 今のわらわとカルなら、それができる!」
アルティナは自信満々に答えて、【黒炎のブレス】の詠唱に入った。
そうはさせじと冥竜たちが、【冥火連弾(ヘルファイア)】の詠唱を行う。
マズイ、敵は詠唱速度重視の物量勝負に出た。防ぎきれるか?
「父様、敵の詠唱妨害だよ!」
「ハイ喜んでぇ! 我はヴァルム家当主ザファルなるぞ!」
前に出た父上が、水中でも有効な雷撃の魔法を放った。父上が乗る聖竜も、輝く光のブレスを発射して、冥竜たちを牽制する。
「邪魔をするな小蝿が!」
冥竜たちは父上を排除しようと、【冥火連弾(ヘルファイア)】の乱射を浴びせた。
父上は悲鳴を上げて、空中を逃げ回る。
「うぉおおおおっ!? やはり魔剣グラムを手放したのは失敗だった! セルビア、お前のせいだぞ! 俺を助けろぉおおお!」
父上のまたがる聖竜が、聖なる魔法障壁を張って攻撃をシャットアウトする。
やはり、あの聖竜は強い力を持っているようだ。
あれ? 父上が自慢していた聖竜は、セルビアという名前だったか?
僕は引っかかりを覚えた。
「うむ、良い囮役じゃな。おかげで、時間が稼げたぞ!」
アルティナが【黒炎のブレス】を放った。海を貫いて、滅びの炎が冥竜たちを薙ぎ払う。
「ぐぉおおおおおお! おのれ! おのれ……!」
「冥竜どもよ。真の強者の下で、戦いに興じることこそ、おぬしらの喜びであろう? ならばカルに従い、聖竜王と戦うが良い! 決しておぬしらを退屈させぬ。血湧き肉踊る死闘の日々を、この冥竜王アルティナが約束してやろうぞ!」
「人間ごときに頭を垂れるなど、あり得ぬ! 真の強者だと!? その者がイシュタル様を超える器であるものか!?」
冥竜ゼファーが苦痛に耐えながらも、反発する。
アルティナはあえて急所を外して、彼らを撃ったようだ。
「その船を粉みじんにし、海のもくずとしてくれよう!」
魔法障壁を展開しながら、冥竜ゼファーが突撃してきた。
「くっ! 【水流操作】【水弾檻(ウォーターバレットジェイル)】!」
僕は【水流操作】で冥竜ゼファーを押し流し、【水弾檻(ウォーターバレットジェイル)】で、無数の水の弾丸を叩き込んだ。
「なにぃいいい……!?」
冥竜ゼファーは全身をボコボコにされて悲鳴を上げる。
「こ、この力、古竜クラスの海竜に匹敵する!?」
「その通りじゃ愚か者め! 確かに現時点では、カルは母様には及ばぬかも知れぬが、この先はわからんぞ? カルは進化する魔神じゃ。いずれ、七大竜王をも超え、神の領域に達しようぞ!」
「えっ……それはいくらなんでも、過大評価のような」
僕は絶句した。
「ぬぅうううっ!? アルティナ姫にそこまで言わせるとは……!」
「さあ、死か服従か選ぶが良い!」
「……認めざるをえん!」
僕に力押しで負けた冥竜ゼファーは、頭を垂れた。それは竜にとって降伏を意味するポーズだ。
ボスが降伏を選んだことで、他の冥竜たちも、それにならった。
戦いは僕たちの勝利で終わったのだ。
「だが、アルティナ姫よ。【主従の誓約】には、ひとつ条件をつけさせていただこうか。我らが従うのは、絶対の強者のみ。
その者が、イシュタル様を超える器ではないと判断した時は、【主従の誓約】は破棄させてもらう! それでよろしいか?」
「無論じゃ。決して、そなたらを失望させぬと約束しよう」
なにか僕をおいけてぼりにして、話が進んでいた。
でも、ここでの戦力増強はありがたい。話に乗っておこう。
「冥竜ゼファー、それではこの僕、カル・アルスターと【主従の誓約】を!」
「冥竜ゼファーは、カル・アルスター様に条件付きではあるが忠誠を誓う。もし誓約を違えた時は、死をもって償うことをここに宣言する」
「うむ。冥竜王アルティナが誓約の仲介役となろう」
黒いオーラがアルティナから溢れだして、ゼファーの口に吸い込まれていった。誓約の竜魔法だ。
僕とゼファーの間に、見えない強固な繋がりが生じる。
「ゼファー様の配下である我らは、ゼファー様の決定に従います」
他の冥竜たちも、僕に頭を垂れた。
信じられないことだが、これで5体もの冥竜が僕に従うことになった。
もはや、冥竜王の陣営を従えているのに等しい。
国も滅ぼせそうな戦力だぞ、これは……
「すごいわ! まさかオケアノス軍がまったく歯が立たなかった冥竜の群れを支配下入れてしまうなんて!」
ティルテュが黄色い歓声を上げる。
他のみんなも勝利に沸き返った。
「カル様はすごいのにゃ! これなら海竜王にも勝てますのにゃ!」
「ホント、カル兄様は私の自慢の兄様だね!」
ミーナとシーダが感極まって、僕に抱きついてくる。
「はぁはぁ……うっ、まさか冥竜どもを相手に囮役をやらさせるとは……命がいくつあってもを足りんぞ!」
ズタボロになった父上が、甲板に戻ってきた。聖竜もかなりのダメージを受けて、力をなく鳴いている。
父上はエスポーションを取り出して飲み込むが、なぜかその傷は治らなかった。
「なにぃ? 最高級回復薬が効かないだと? まさかこれは……おいセルビア、回復魔法は聖竜の得意分野だろう。この俺を今すぐ治せ!」
「無駄だ。我の冥魔法には、回復を阻害する呪いが付与されている。例え聖竜でも時をかけねば、これを解除することは難しいだろう」
冥竜ゼファーが、鼻を鳴らした。
その言葉通り、聖竜セルビアはお手上げのポーズを取る。
「なんだと!? じょ、冗談ではないぞ。ならば、術者であるお前が呪いを解除せぬか!」
「そんな方法は知らぬ。これは敵を確実に滅ぼすための魔法である故にな。それに我に命令できるのは、カル様とアルティナ姫だけだ。分をわきまえよ、愚か者が」
「バカなぁあああ! それでは計画が……」
何か口走ろうとした父上を、聖竜セルビアが足を滑らせて転倒した拍子に、蹴り飛ばした。
「あぎゃああ!?」
「はぁ、なんかこれだと、もう父様は役に立ちそうにないね」
シーダが肩をすくめる。
「シーダ、そんな言い方は失礼だよ。父上、怪我が治らないようでしたら、船室から出ずに休んでいてください」
「い、いや。海竜王との戦いには、這ってでも参加するぞ。竜殺しのヴァルム家の誇りにかけてな」
「そうですか……?」
聖竜セルビアもウンウンと頷いていた。
ともあれ、これで戦力は大幅に増強された。冥竜たちがいれば、海竜や海の魔物が襲ってきても難なく撃退できるだろう。
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