39話。女の子たちから、弟子にして欲しいと浜辺で取り合いをされる

 ここはアルスター島の浜辺だ。


「……わらわの見間違いかの【竜光牙】が、7発同時に出たように見えたのじゃが?」


 冥竜王アルティナが、引きつった笑顔を浮かべる。

 僕は彼女が教えてくれた新しい竜魔法を、さっそく試してみた。


「対空迎撃用の魔法だから、敵の逃げ場を塞ぐように、7発同時に発射してみたんだけど……もしかして何か間違っていた?」


 曇を貫いた光の矢を見送って、尋ねる。

 これは空を飛ぶ敵を撃ち落とすための雷属性魔法だ。

 その目的により適うように、アレンジしてみた。


「うゎ〜。あの高度まで届くなんて、すさまじく射程の長い魔法だね。しかも、雷属性だから弾速も早いし。こんなのが、7発同時に飛んできたら、私のルークじゃ回避できないよ……」


 異母妹のシーダが、もし自分ならどう避けるかという想定で話す。

 彼女の相棒の飛竜ルークが、怯えたように鳴いた。


 シーダは海水浴がしたいと、腰にパレオを巻いたビキニ水着姿になっていた。

 彼女はパラソルとチェアを持ち込んで、ここをプライベートビーチに改造して楽しんでいる。さっそく、島での生活に馴染んでいた。


「ま、間違ってはおらぬ。むしろ、正解を超えた正解じゃが……7つの魔法を同時並列で処理して発動したということか?」


「古竜フォルネウスが魔法を同時詠唱しているのを見て、できるかも知れないと思ってやってみたんだ。術式のシンプルな魔法の多重発動なら、なんとかなるね」


 実現はできたけど、脳にかかる負荷は予想以上だった。

 そのため、命中精度が犠牲になってしまった。まだまだ改良の余地があるな。


「ぐっ、同時詠唱は、複数の頭を持つ多頭竜にしかできぬ芸当じゃぞ? うむ……カルに常識が通用せぬことが、改めてわかったのじゃ。とりあえず、この新魔法は【七頭竜光牙】と名付けよう」 


「はぁ、私、カル兄様の敵にならなくて、つくづく良かったよ」


 シーダが安堵したように息を吐いた。


「いや、まだ命中精度はあまり高いとは言えないから、練習が必要だと思う。当たらなければ意味無いし。ティルテュ王女、今度は7つ岩を飛ばして!」


「7つですか!? わかりましたぁ! 打ち上げるわよ! せーの!」


 人魚姫のティルテュが【水流操作】で、海水を噴射させ、その勢いで海底の小岩を7つ上空に飛ばした。


 僕はその岩に向かって【七頭竜光牙】を発射する。手より放たれた7つの雷の矢が、6つの岩を砕いて消滅させた。

 ひとつは外したけど、ちょっとコツが掴めたかも知れない。


「おおっ、見事じゃな!」


 今度からは、これを基本技にしようかな。

 先の戦いでゲットした【古竜の霊薬】を飲んだおかげで、魔力量(MP)がさらに高まっていた。

 魔力節約のために【ウインド】主体で戦うスタイルから脱却できそうだ。


「カル兄様の戦闘力のインフレが半端じゃない! あ、遊んでいる場合じゃないかもね。このままじゃ、早くも置いていかれるんじゃ……」


 それを見て、シーダが何やら考え込んだ。


「ねぇ、カル兄様、私にも無詠唱魔法を教えて! そしたら、私も【竜魔法】が使えるようになれるよね!?」


「もちろん、僕もそれを考えていた。詠唱に慣れていると難しいかも知れないけど……まずは基礎魔法を無詠唱で使えるように練習しようか」


「やったぁ! これで私も人類最強の仲間入りだ!」


 シーダはうれしそうにガッツポーズを決めた。

 彼女も魔法を覚えるのが好きなようだ。それは反骨心と強さへの憧れから来ているようだけど。


「カル様! 軍船の修理と物資の積み込みが終わりましたにゃ! これでいつでも出撃できますにゃ!」


 猫耳族のミーナが尻尾を振りながら、走ってきた。

 この前の海戦で、僕たちの軍船は多少、船体にダメージを受けた。【水流操作】で無茶な加速をしたためだ。そのための修理に時間を食っていた。


「やったわ! ついに、ついに海底王国オケアノスへ向かう準備が整ったのね!」


 ティルテュが目を輝かせる。

 彼女としては、一刻も早く国を救うべく戻りたいところなのだろう。


「猫耳族、あなたたちも御苦労だったわ。褒美にこの私が、海の宝石【オケアノスの真珠】を与えてやるから喜びなさい!」


「にゃ! 相変わらずエラソーなお姫様だにゃ。ミーナは真珠なんかよりも、美味しいお魚が欲しいのにゃ!」


「ね、猫に小判ってことかしら? 【オケアノスの真珠】は、世界中の王侯貴族の憧れの的だというのに……」


 色気より食い気なミーナの返答に、ティルテュは面食らっていた。

 僕は苦笑しつつ、妹に告げる。


「シーダ、無詠唱魔法の本格な修行は、オケアノスから帰ってきてからになるね」


「うん、カル兄様。私もついて行って思い切り暴れてやるから、期待してね」


「ミーナも無詠唱魔法が使えるにゃ。先輩として教えてやってもよいにゃ!」


 ミーナが得意そうに胸を張った。


「ええっ!? 猫耳族が無詠唱魔法って……よっぽどカル兄様の教えが、上手かったんだね。驚いた!」


「カル様! ぜひ私にも無詠唱魔法を教えてください! 人魚族にも広めて、海竜に対抗できるようにしたいわ!」


 ティルテュまでも僕に教えを請うてきた。

 人魚族にまで教えるべきかは、外交的な問題が絡んでくるので、うかつに返事ができない。


「わかった。今度、システィーナ王女に相談してみるね」


「無詠唱魔法の修行は、カル様に頭をなでなでしてもらえるから好きにゃ!」


「えっ!? カル様に頭なでなで!? そんな美味しいことが修行なの!? うわぁあああ! カル様、今すぐ修行をつけていただいてよろしいですか!? 頭なでなで、お願いします!」


 ティルテュが僕にくっついて、頭を突き出してきた。

 絶世の美少女である人魚姫に無防備に触れられると、心臓が止まりそうになる。


「いや、ちょっと待って!」


「むっ! カル兄様には、私が最初に修行をつけてもらうんだよ! 戦力的にも私が一番、兄様の役に立つんだから私が優先だよね、カル兄様!」


 シーダが僕に抱きついて、他の女の子が僕に触れられないようにブロックする。


「ずるいにゃ! ミーナもまたカル様に頭なでなでしていただきたいにゃ! ミーナはもっともっと強くなって、カル様のお役に立ちたいにゃ!」


「私だって、人魚族の存亡がかかっているのよ!」


「おわっ、キミたち!?」


 ミーナが僕の右腕を引っ張って、うれしそうに尻尾を振る。ティルテュは、僕の左腕を掴み、3人の女の子たちは必死になって僕を奪い合った。


 特にシーダとミーナは少女とは思えない腕力の持ち主であるため、僕はよろめいてしまう。


「おぬしたち、やめい! カルが困っておるではないか!?」


 アルティナが【竜王の咆哮】(ドラゴン・シャウ)を放った。

 轟く威圧的な咆哮に、女の子たちは身をすくませる。

 僕はその隙きに、彼女らの拘束から離れた。


「あ、ありがとう、アルティナ。助かった」


 妹はともかくとして、ミーナとティルテュから身体を密着されると非常に困る。鼻血が出そうだ。


「うむ、家族として当然なのじゃ。それにしても、デレデレしすぎじゃぞ。わららという者がありながら……」


 アルティナは胸を張りながらも、なにやら不満そうにぶつくさ言っていた。


「私の【精神干渉プロテクト】が簡単に突破された? この場でカル兄様に次ぐ実力者は、やっぱり冥竜王か……」


 シーダがなにやら悔しそうに歯軋りしている。


「でも、カル兄様が一番好きなのは、やっぱり血が繋がった妹である私だよね?」


 と思ったら、シーダは甘えたように僕に身を寄せてきた。


「何を言っておるのじゃ。わらわとカルは同じベッドで寝たり、一緒にお風呂に入ったりするほどの仲じゃぞ!」


「ミーナは、カル様の一番弟子にゃ!」


「私はカル様とキ、キキキ、キスした程の仲よ!」


「いや、それは救護活動だからね!?」


 ティルテュが最後にトンデモナイ爆弾を投げたので、慌てて訂正する。他の女の子たちの目が、一斉に吊り上がったような気がした。

 その時、飛竜にまたがった竜騎士ローグが、血相を変えて飛んできた。


「カル様、こちらにおわしましたか!? 大変です!」


「どうしたの? 何か緊急事態が?」

 

「はっ! お父上が! ヴァルム家当主ザファル殿が、海竜王リヴァイアサン討伐に同行したいと面会を求めております!」


 ローグの後ろより姿を見せたのは、白銀に輝く聖竜に乗った父上だった。

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