36話。海竜フォルネウスを倒して、水の竜魔法をゲット

 海竜フォルネウスの7つの首が、それぞれ同時に魔法詠唱に入った。


「多頭竜の最大の強みじゃな! ヤツは強大な魔法を7つ同時に使えるぞ」


 アルティナが警告すると同時に、彼女も魔法詠唱を行う。黒い爆発的な魔力が、その身から溢れ出す。


「むちゃくちゃなヤツ! ルーク、行くよ!」


 シーダは飛竜と共に急降下して、勢いの乗った斬撃を海竜の頭に叩きつけた。

 魔法詠唱中は、何者であれ無防備になる。シーダはその隙を果敢に突いたが、まるで歯が立たず、むなしく弾かれた。


「くっ! デカブツ過ぎて、剣じゃダメージを与えられない!」


「シーダ、離れろ!」


 僕も【ウインド】を連続発動させて、海竜フォルネウスの首を滅多斬りにするが、傷ひとつ付かなかった。


「もっと、高威力の魔法じゃないと通用しないか……!」


 さすがは古竜。並のドラゴンとは格が違うようだ。


「【水弾檻(ウォーターバレットジェイル)】!」


 海竜フォルネウスの多頭が、同時にひとつの魔法を発動した。

 海より無数の水の弾丸が、亜音速で僕たちに向けて発射される。まるで天に向かう豪雨だ。


「ひとつでも命中すれば、人間など粉々に砕ける水の弾幕だ! この我と戦って散ったことを誉れとせよ!」


 フォルネウスが勝ち誇る。


「【水流操作】!」


「なにぃいいいい!?」


 驚愕にフォルネウスが目を剥いた。

 僕は周囲の空間の水分子を操作して、水の弾丸をすべて反らした。


「すごいよ、カル兄様! 海竜を上回る水の支配力だなんて!」


「いや、かなりしんどい! 古竜クラスの竜魔法に長時間干渉するのは無理だ」


 尋常ではない勢いで、魔力が消耗されていく。

 それにしても、これが水の竜魔法か。海で戦うにおいては、おそらく無敵の力だ。

 その魔法詠唱はバッチリ聞かせてもらったし、術式の解析もできた。


「さすがじゃなカルよ。おぬしなら、防ぎきってくれると信じておったぞ!」


 アルティナが【黒炎のブレス】を放つ。すべての生命を滅する黒い炎が、海竜フォルネウスに突き刺った。


「おぉおおおっ!? おのれ、【再生竜水(ヒールドラゴンウォーター)】!」


 フォルネウスは弾き飛ばされながらも、すかさず回復魔法を発動する。7つ首のひとつが、保険として回復魔法を詠唱していたようだ。

 アルティナにえぐられた肉体が見る見る再生した。


 これは、どうやら水に強烈な回復効果を付与する魔法らしい。

 回復薬の作製にも使えそうだし、この魔法もイイな。

 【再生竜水(ヒールドラゴンウォーター)】も、僕の魔法としてインプットさせてもらった。


「うへぇええ! カル兄様も化け物だけど、海でコイツを殺しきるのは不可能なんじゃないの!?」


 喜んでいる場合ではなかった。

 元々、強大な生命力を誇る海竜が、回復魔法まで使うとなると、たちが悪い。

 完全に回復する前に畳み掛けなければ……


「【水弾檻(ウォーターバレットジェイル)】!」


「なんだとぉおおお!?」


 僕はフォルネウスの竜魔法をそっくりそのまま返した。

 これは海水を、無数の弾丸に変えて敵を穿つ魔法だ。


「ホントに、一度見ただけで竜魔法を再現した!?」


「ぐぉおおお! あり得ん! 人間などには絶対に不可能だ! 竜王の血筋でもなければ、こんなマネは……!」


 音速に迫る水の弾丸に全身を叩かれて、フォルネウスは次の魔法詠唱を妨害される。

 さすがに、この魔法だけで倒し切ることはできないが、隙ができた。


「カルよ。海竜の弱点は、雷属性じゃ!」


「わかった。【雷吼(らいこう)のブレス】!」


 僕は海原を白く染める雷撃を放った。大海に大穴を穿つ雷竜のブレスだ。


「それはまさか雷の古竜ブロキスの奥義!?」


 フォルネウスは驚愕の叫びを上げる。雷撃に貫ぬかれたヤツは、全身を痙攣させた。

 フォルネウスは【再生竜水(ヒールドラゴンウォーター)】でダメージを回復させようとするが、その前に追撃をかける。


「【雷吼(らいこう)のブレス】2連射!」


 古竜フォルネウスの断末魔が轟いた。

 2撃目の稲妻の奔流が、その巨体を貫く。力尽きたヤツの身体が、黒焦げとなって海に沈んだ。

 その巨体から、ポンと【古竜の霊薬】がドロップして、僕の手の中に収まる。


「す、すごい! あの化け物を倒し切った! 父様なんて目じゃない。カル兄様こそ最強の竜殺しだ!」


 シーダが尊敬の眼差しを向けてくる。


「……魔力はもうスッカラカンだし、かなりギリギリだったよ」


 僕は荒い息を吐く。

 圧倒的な魔力量(MP)を誇る古竜と、正面から魔法を撃ち合べきではないな。

 今回は、敵の弱点属性を突けたから競り勝てたけど、次からは気をつけよう。


「その【古竜の霊薬】を飲めば、カルの魔力量(MP)はさらに高まるじゃろう」


 アルティナが喝采を上げた。


「……たった3人で、古竜に率いられた海竜の群れを倒すなんて、前代未聞の快挙だね。

 よし、決めた! 私もヴァルム家を捨てて、アルスター男爵家の一員になるよ!」


「はぁ!?」


 シーダがあっけらかんと告げた爆弾発言に、僕は度肝を抜かれた。

 彼女はヴァルム家の跡継ぎ候補じゃなかったか?

 それがアルスター男爵家の一員になるとしたら、王国は大騒ぎになるだろう。


「ルークともども、これから、よろしくねカル兄様!」


 シーダが僕の飛竜に飛び移って、抱き着いてくる。

 飛竜ルークも同意するかのように、大きく鳴いた。


「もちろん、良いけど。これは、またとんでもないことになったな……」


「カルの妹なら、わらわにとっても家族じゃな。よろしく頼むぞ!」


 シーダとアルティナはハイタッチして、すっかり打ち解けていた。


「えへへへっ。じゃあヴァルム家にはお別れを告げて来ないとね。レオンがしでかしたことの落とし前をキッチリつけてやるよ」


 シーダは獰猛な猫科動物のように笑った。

 顔はかわいいんだけど、怒らせると怖い妹だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る