37話。妹シーダ、ヴァルム家の屋敷を爆破し、実家を去る
【妹シーダ視点】
「ああっ! シーダお嬢様、お待ち下さい! レオン様より、お嬢様には反逆の疑い有りと!?」
「うるさいなぁ。私は父様とレオンのヤツに用があるんだよ。用が終わったら、サッサとこんな家、出ていくからさ!」
ヴァルム家に戻ってくると、何人もの竜騎士が私を押し止めようとした。
邪魔くさい。
「邪魔をするなら、力づくで押し通る!」
「ひぃやぁあああ!?」
私は行く手を阻むヤツを、峰打ちで薙ぎ払い、あるいは魔法で吹き飛ばした。
ピタリと閉ざされた堅牢な門は、大剣で叩き斬って、一直線に父様の執務室を目指す。
「本当なんだよ、父上! シーダのヤツがヴァルム家を裏切って、カルの野郎と手を組みやがったんだぁ! それで船を沈めたんだよ!」
父様の執務室の前までやってくると、大声が聞こえてきた。どうやらレオンが必死にデタラメを吹き込んでいる真っ最中らしい。
さすがのクズっぷりだね。そうこなくちゃ。
私は攻撃魔法の詠唱を始めた。
「なぜ、シーダがそんなことをする必要があるのだ? 今回の任務に向かった全員が、ヴァルム家を去ると書状で告げてきたのだぞ!?」
父様は別の竜討伐任務から今日帰ってきたばかりで、事情を良く把握していないようだった。
執務室の防音が完璧なばかりに、私が起こした騒動もまだ伝わっていないみたいだね。好都合。
「しょ、しょせんは妾の娘だ! 俺たちに対して、思うところがあったってことだよ! こうなったらシーダのヤツも追放して……!」
私は執務室のドアを蹴破って、中に踏み入った。
ギョッとしたふたりの視線が注がれる。
「【爆裂(エクスプロージョン)】!」
その瞬間、私は爆裂魔法をレオンに叩きつけた。室内は一瞬にして、爆発でメチャクチャになる。
「ぎゃあぁああああっ!?」
直撃を受けたレオンは、全身が焼け焦げ、アフロヘアーと化した。
常人なら死ぬところだろうけど、腐ってもヴァルム家の嫡男。それなりの魔法防御力を備えていた。
「シ、シーダ!? お前は一体、何を……!?」
父様は高速詠唱で、一瞬のうちに魔法障壁を展開してガードしていた。
うん、このあたりは、さすがといったところだね。
「何って、この家じゃ、警告なしに上級攻撃魔法をぶつけるのが、家族間のあいさつなんでしょ? じゃれ合いだよ、じゃれ合い。お互いに遠慮は無しってことだよね」
「げはげはっ! 俺を……ヴァルム家の屋敷をこんなにしやがって、タダで済むと思ってやがるのか……!?」
「レオンがそれを言う? もちろん、タダじゃ済まないから、こんな事態になっているんだよね?」
怒声を浴びせてきたレオンを、私は鼻で笑う。
「ま、まさか、レオンの言ったことは本当だったのか!? 裏切りは許さんぞシーダ!」
「ああっ、そうそう。父様にはお別れのあいさつに来たんだよ。私は今日限りで、ヴァルム家とはオサラバするね。カル兄様のアルスター男爵家で、ご厄介になることにしたからさ」
それを聞いた父様は、衝撃に青ざめた。
「ど、どういうことだ!? なぜ、ヴァルム家の当主になれる可能性を棒に振って、カルのところに行くのだ!?」
「ヴァルム家の当主になれたところでさ、戦場でバカな身内から背中を撃たれたんじゃ、命がいくつあっても足りないってことだよ。
レオンはね。任務を放棄して、ヴァルム家の船を沈めたんだよ。私を撃ってね」
「なんだと……!? ま、まさかレオン、貴様!?」
「ひぃいいいっ!?」
激怒した父様に睨まれて、レオンは縮み上がった。
「そのまさかだよ。自分が当主になるためには手柄を上げるより、私を消した方が確実だってさ! カル兄様が助けてくれなかったら私たちは全員、海の底だったよ」
「そういうことか!? 裏切り者はお前ではないか!? 竜を討伐することこそ、ヴァルム家の存在意義なのだぞ……そ、それを、味方を討ってなんとする!? お前はこの家を滅ぼすつもりか!?」
父様に胸ぐらを掴まれて、レオンは怯えながらも卑屈な愛想笑いを浮かべる。
「い、いや、父上、それ以前に妾の娘なんぞより、俺の方がよっぽど当主に相応しい……げぇばらぁああ!?」
口上を最後まで述べる前に、レオンは顔面に鉄拳を叩き込まれた。
「……だが、シーダよ。事情はどうあれ、ヴァルム家に反逆するというなら容赦せんぞ。この場で斬り捨ててくれる!」
「おっと、そうはいかんのじゃ。ヴァルム家の当主よ」
私の後ろから、冥竜王アルティナが顔を出した。
何者であるか察して、父様とレオンの表情が凍りつく。
「この娘は、今よりアルスター男爵家の一員なのじゃ。先日、王女から言われたのではないか? 国内の味方同士で争う愚を犯すなと。その禁を、再び一方的に破れば、今度はお家断絶も有り得るのではないか?」
「ぐっ……銀髪の娘。そうか、お前が冥竜王アルティナか。このヴァルム家に足を踏み入れるとは……」
父様は憎々しげにアルティナを見つめた。
だけど、システィーナ王女から釘を刺されているために、何もできなかった。
「安心せい。わらわは争いに来たのではない。カルより、シーダが暴走せぬようにお目付け役を頼まれたのじゃ。なにしろ、この通り、怒り狂っておるからな」
「信用ないなぁ。カル兄様が、ヴァル厶家を滅ぼすことを良しとしないなら、私だって攻撃は控えるよ。バカ兄貴に、落とし前はつけてやったしね」
「ぐぅううう……痛てぇよ、ちくしょう……」
レオンが涙目で、懐から回復薬を取り出す。
「古竜フォルネウスを倒した功績で、アルスター男爵家の評価は、ヴァルム家を上回ることになるね。
ヴァルム家なんて、もう過去の栄光にすがるだけの時代遅れの家だよ。レオンはここで好きなだけ、お山の大将を気取ると良いよ」
「古竜フォルネウスだと!? 王国の領海を支配していたあの暴竜を、カルめが倒したというのか!?」
父様が目を剥いた。
「カル兄様は、次は海竜王リヴァイアサンを仕留めるよ。父様とレオンじゃ、逆立ちしても絶対に不可能なことだね」
「なんだと!?」
「シ、シーダ! てめぇ、さっきから聞いていれば、兄である俺を呼び捨てに……!」
回復して多少元気を取り戻したバカが叫んだ。
「妾の娘はヴァルム家にはふさわしくないんでしょう? 私のことを妹だなんて、金輪際思わないでよね。私の兄様は、カル兄様だけだよ」
私は吐き捨てるように告げると踵を返した。
「じゃあ、行こうかアルティナ。本当はここで、レオンを再起不能になるまでボコボコにしてやりたいけど、カル兄様の命令だからね。それはしないでおいてあげる」
「うむ。だが、おぬしら警告しておくぞ。今後わらわの愛するカルにくだらぬチョッカイを出すようなら、冥竜王の名にかけて、地獄に叩き落としてやるのじゃ。覚悟しておくが良い!」
アルティナも必要なことを告げると、私の後に続いた。
父様とレオンは、瓦礫の山と化した執務室から、それを呆然と見送った。
「ザファル様! 今日限りでヴァルム家をお暇させていただきます!」
「なにぃ!?」
私と入れ違いに、ヴァルム家を辞めたいと訴える者たちが、執務室に集まってくる。
それはそうだ。
味方を撃つような次期当主に付いて行きたい物好きは、いないだろうからね。
ヴァルム家はこれから、ドンドン家臣に見限られて崩壊していくだろうけど、もう私の知ったことではなかった。
これから私は、強くて優しいカル兄様の元で、幸せに生きて行くんだ。
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