32話。兄レオン、町長宅で暴れて妹に殴られる
【兄レオン視点】
「天才ドラゴンスレイヤーであるこのレオン・ヴァルム様が来てやったというのに、なんだこの安酒は!?」
「きゃあぁああああっ!」
俺はテーブルを蹴り上げて、酒と料理を盛大に床にぶちまけた。給仕役の若いメイドが悲鳴を上げる。
ここはヴァルム家所領である港町ジェノヴァの町長宅だ。王国からの海竜討伐依頼で、この俺がわざわざ足を運んだというのに、クソ不味い酒を出しやがった。
「最近の俺のお気に入りはブリューヌ産の高級ワインだ! それくらい調べて、事前に用意しておくのが当然の礼儀だろう!? 支配者であるこの俺が、海竜を退治してやろうってのに、感謝の気持ちがねぇのかよ、あっあーん!?」
「も、申し訳ございません。とんだ粗相を!」
町長がメイドと共に、平謝りした。
それを見て、俺は多少は気分が良くなった。ここは女で口直しするか。
「へへへっ、酒はマズイが、そこのメイドはちょっとかわいいな。おい、お前、今晩、俺の部屋に来る栄誉を与えてやる!」
「どうか、お許しを! こ、これは私の娘でして……! 来月には婚儀が控えているのです!」
町長は必死に頭を下げ、メイドは小動物のように震えていた。
「あーん? んなことは関係ねぇな! ちょっと俺の世話をさせるだけだろうが。いいから、その娘を部屋によこせ!」
「レオン兄様、八つ当たりはやめときなよ恥ずかしい」
異母妹のシーダが蔑んだ様子で、口を挟んできた。
「カル兄様に無様に負けた腹いせがしたいんのはわかるんだけどさ。天才ドラゴンスレイヤーとか名乗るのは、痛々しくて見てられないだよね。
この前、アルスター島から海水浴をして帰ってきた話、聞いているよ。猫耳族に返り討ちにされたんだってね?」
「なっ……!?」
「ごめんね町長さん、レオン兄様がバカ過ぎて。盛りのついた駄犬って、始末に負えないよね。無視しといて良いよ。あっ、お姉さんシーフードピザ、おかわりね!」
「は、はい。ただいま!」
シーダのリクエストに、慌ててメイドが下がっていく。
俺が料理を台無しにしたことに、シーダは生意気にも腹を立てている様子だった。
「チッ! てめぇ、妾の娘の分際で、ヴァルム家次期当主であるこの俺様に逆らおってのか!?」
下民どもの前で面目を潰されては、黙ってはいられない。俺はシーダの胸ぐらを掴んだ。
「ぷっ! まだ自分が次期当主になれるとか思っているの? 妾の娘にも負ける腕力で?」
「痛でぇえええ!?」
シーダは俺の両腕を掴んで、力任せに外した。小娘とは思えない怪力に、腕の骨がミシミシと軋む。
「ねぇ、レオン兄様のどのへんが天才だか、私に教えてくれないかな?」
こ、こいつ、いつの間にこんなに強くなっていたんだ?
やべぇ。このままだと次期ヴァルム家当主の座が本気で危ねぇかも……
なら魔法でぶっ殺してやる。
兄より優れた妹など、存在しねぇ!
俺は高速詠唱で、魔法をわずか5秒で編み上げようと……
「遅い!」
次の瞬間、シーダは俺の顎を殴り上げた。顎が砕けると思えるほどの衝撃。
「ごばぁああああ!」
俺は真上に飛んで天井に首から刺さり、そのまま気を失った。
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