27話。実家の嫌がらせのおかげで領地が逆に発展

 その日の夜、僕はさっそくシスティーナ王女に、レオンが率いる獣人ハンターから襲撃を受けたことを報告した。


「……レオン殿は反省の色無しということですわね。わかりましたわ。せっかくお父様が温情を与えたというのに。ヴァルム家には厳罰を与えます」


 王女殿下は静かな怒りをたたえていた。


「実は良い報告もあります。猫耳族のミーナが無詠唱魔法を使って、襲撃者を撃退しました」


「まあっ。この短期間で、実戦で使えるレベルにすでになっているということですか!? 王国の未来にとって明るいニュースです。よほどカル殿の教えが良かったのですね」


「恐縮です。ミーナたちは【古竜の霊薬】で、上位種のウェアタイガーに進化したので、そのおかげだと思います」


「それもこれも、すべてはカル殿のご活躍のおかげです。幸先が良いことですね。わたくしもカル殿の領地がより発展するように、精一杯支援させていただきますわ」


 システィーナ王女は笑顔で通信を切った。

 支援? 具体的に何をしていただけるかは聞きそびれてしまった。

 特別扱いはしないで欲しいと伝えてあるので多分、大丈夫だとは思うけど。


 次の日も、獣人ハンターが猫耳族の村を襲撃して、ミーナたちに返り討ちにされた。先日のハンターたちとは別組織のようで、情報共有がされていなかったらしい。


 もちろん、僕は読心魔法を使って背後関係を洗い出す。彼らを雇ったのは、やはり父上だった。


 今回の獣人ハンターも、猫耳族を連れ帰るために大型の漁船に乗ってきていた。

 漁師のフリをするために漁網や釣具も用意されており、これらが無償で手に入ったのは実にありがたかった。


「父上、餞別代わりにいただいておきます」


 僕は父上に感謝の念を送った。

 獣人ハンターたちは、身ぐるみを剥がして本土に送り返す。これで貴重な武器とアイテムが、またゲットできた。


 おかげで、領地の戦力がかなり充実した。今や猫耳族は、高価なミスリル製の武器を身に着けていた。

 もしや、父上は遠回しに僕を支援してくれているのでは? と思えてしまう。

 無論、あの人の冷酷な意図を知ったので、油断はしない。


「にゃん! 無詠唱魔法の威力はすごいのにゃ! 一方的に攻撃できるのにゃ!」


「カル様、僕たちも真剣に魔法の修行をしますにゃ!」


 ミーナが魔法で活躍するのを目の当たりにして、猫耳族たちは修行をやる気になってくれた。

 これは実に良い傾向だった。


「よし、ミーナ。次は【筋力増強(ストレングス・ブースト)】を教えてあげるね」


「うれしいにゃ! カル様、よろしくお願いしますにゃ! ミーナはカル様の一番弟子にゃ!」


 ミーナも魔法を使える楽しさに目覚めたようだ。

 僕もうかうかしていられないな。


 僕は弱点である魔力量(MP)アップの修行に、ますます精を出した。

 アルティナいわく、魔力量(MP)が少ない状態で【竜魔法】を連発するのは、魔力欠乏症のリスクが高くて危険だそうだ。


「【雷吼(らいこう)のブレス】は、まだ1日2回が限度じゃろ? しばらくは基礎修行に精を出すことじゃな」


 とのことだ。

 早く別の竜魔法も教えてもらいたいけど、まだ僕はその段階にはないらしい。


「おぬしは、段階を飛ばして強力な竜魔法を覚えてしまったのじゃ。スゴイことじゃが、危険な兆候でもあるのじゃ」


「そうだね。いきなり強過ぎる力を身に着けると、使い方を誤って自滅することもあるからな」


 過去の歴史を調べると、力に溺れて自滅した魔法使いの逸話は、枚挙にいとまがない。

 強力過ぎる魔物を召喚して制御できずに喰われてしまったなど、笑い話のようだが笑えない。


「その通りじゃ! 傑出した才能が身を滅ぼすこともある。強い力はリスクも伴う。焦らず、段階的に力をつけるのじゃぞ」


 魔法の師匠として、アルティナが道を照らしてくれるのは実にありがたかった。

 

 獣人ハンターたちの襲撃は次の日から、ピタリと収まった。


「……どうやらシスティーナ王女が、ヴァルム家に抗議してくれたみたいだな」


「ふむ。正直、もっと続いてくれた方が、ここが豊かになって良かったかも知れんの」


 僕たちが眺める沖では、猫耳族が手に入れた2隻の大型漁船を使って漁をしている。


 漁網を海に投げ込んで、引っ張り上げ大量の魚貝類をザクザク取っていた。

 猫耳族たちは目を輝かせ、歓声を上げて漁にいそしんでいる。


 おかげで新鮮な魚貝料理に、ありつけていた。

 取れたての魚を焼いて、塩をふって食べると病みつきになるほど美味い。

 今も、おやつの代わりにパクついていた。皮肉なことに、これもヴァルム家が指示した襲撃のおかげだ。


「ローグ、これらの魚貝類を買い取ってくれる商人に心当たりはあるかな? アルスター男爵家として取引がしたい」


「はっ。御用商人を作りたいということでございますね。ツテがありますので、本土に行って声をかけてきたいと思います」


 竜騎士ローグがうやうやしく答える。飛竜を使えば主要な都市まで、2時間ほどで到着できた。

 よし、領地を発展させるために、どんどんお金を稼いでいくぞ。


「御用商人か? 小説なども用立てて欲しいのじゃ! わらわは、勇者パーティを追放された聖女アリシアの冒険譚の続きが気になる! カルも気になるじゃろう?」


「あっ〜、それもそうだけど。まずは、新しい服が欲しいかな。それから、お菓子とかだね」


「おおっ! お菓子!? わらわは、チョコレートが死ぬほど食べたいのじゃ! 甘い物を頬張りながら、ラノベを読む。これぞ、至福!」


 い、色気より食い気か。

 夢を膨らませていると、ミーナが何やら大慌てでやってきた。


「カル様、大変にゃ! 大怪我をした人魚が網にかかったみたいですにゃ!」

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