25話。兄レオン、猫耳族をさらおうとして返り討ちにされる

【兄レオン視点】


「ヒャハハハッ! 行くぞお前ら! この島のネコ蛮族を根こそぎさらって、奴隷として売っ払ってやるぜぇ!」


 俺は獣人ハンターどもと、島に漁船で上陸した。


「へぃ。猫耳族は高く売れるで、ヴァルム家にバックアップしてもらえるとなりゃ、こちとら大助りでさぁ」


 獣人ハンターのひとりが、ニタァと下卑た笑いを見せる。

 ひとつの村を相手取るとなると、かなりの抵抗を受けるので、コイツらにとってもおいしい話だったらしい。


「この天才ドラゴンスレイヤーの俺様が指揮を取れば、ネコ蛮族の村を壊滅するなんざ朝飯前よぉ。外から火を放って混乱させてから、突入だ!」


「おおっ!」


 俺が立てた完璧な作戦に、獣人ハンターどもから賞賛が上がる。

 さぁ、楽しい復讐タイムの始まりだ。


 俺が落ちぶれたのは、何もかもカルの野郎が悪い。

 以前は、ハーレムを築けるほどモテたのに、今は女の子と遊ぶことさえできなくなっていた。


 俺は王家から謹慎処分を言い渡された。

 厳罰を喰らわなかったのは、父上の尽力もあるが、俺のドラゴンスレイヤーとしての力が、この国にとって必要だからだ。


 国王からは「おぬしはまだ若い。心を入れ替え、今後の働きによって罪を償うが良い」とお説教された。

 ヒャハハハ、甘々な王様だぜ。


 なら息抜きくらいは許されるだろうと思って、前に粉をかけた貴族令嬢のところにお忍びで出かけた。


 だが、俺の悪評が耳に入っていて、追い返された。

「自作自演で、わたくしを竜に襲わせたなんて信じられませんわ!」

 とのことだ。


 ちっ、この俺がせっかく会いに行ってやったのに、何様のつもりだ?

 ……まあいい。俺に惚れている娘は、まだたくさんいるからな。

 そう思って、他のご令嬢のところに行っても同じだった。


 前に会った時は、俺に媚を売ってきた娘が「気持ち悪い! 2度と顔を見せないでくださいまし!」などと罵倒してきた。

 中には謹慎中に外出したことを王家にチクったヤツもいた。


 ちくしょおおおお! ちょっと前までは、俺は貴族令嬢のピンチをさっそうと救う正義のドラゴンスレイヤーだったのに、今じゃ犯罪者扱いだ。


 俺が好きだったシスティーナ王女はカルにぞっこんだし……妹からはバカにされるしで、順風満帆だった俺の人生はメチャクチャだ。


 カルに仕返ししてやらねぇと気がすまねぇ。

 あの野郎は領主になって調子に乗っていやがる。


 ならその領民をさらって、吠え面かかせてやるぜ、ヒャハハハ! 何がネコ蛮族を庇護するだ。猫だけに根こそぎだぜ。


「レオン様、猫耳族の村が見えましたぜ」


「うん? 生意気にももう家が建て直されているな……おい、何人かで偵察してこい!」


「へい」


 冥竜王アルティナがいないか確認させる。

 バフと読心魔法くらいしか使えないカルになら楽勝だが、あの娘はちょっと無理というか……多分、俺が死ぬ。


 俺はアルティナに腕を折られた恐怖を思い出して身震いした。かわいいのは外見だけで、ありゃホンモノの化け物だぜ。

 やがて、偵察に行かせた男が帰ってきた。


「魔法で念入りに確認しやしたが、銀髪の娘はいないようです。ただ、少し気になることが……この村の猫耳族の容姿は、通常種と異なるような気が」


「うひゃはははは! なら勝ったも同然だぜ。オラッ、全員突撃! 狩りの始まりだぁ!」


 俺はファイヤーボールを村に撃ち込む。家が爆発炎上して、大騒ぎになった。

 俺を先頭に、獣人ハンターどもが村に突入する。

 にゃーにゃー、と逃げ惑う猫耳娘の頭に、俺は棍棒を振り下ろした。


「まずは一匹! ヒャハハハハハッ!」


 たが、その棍棒が受け止められた。

 あれ……? な、なんだ、このパワーは?

 

「はぎゃぁっ!?」


 逆に俺は殴り飛ばされて、地面を転がった。ぶーっと、鼻血が噴き出る。


「えっ? レオン様がやられた!?」


「天才ドラゴンスレイヤーじゃなかったのか!?」


 獣人ハンターどもが浮足立つ。


「賊にゃ! みんな反撃にゃ!」


 猛烈な勢いでネコ蛮族どもが、獣人ハンターどもに逆襲した。 

 視界がチカチカする中、なんとか起き上がると、なんと獣人ハンターどもが一方的にぶちのめされている。


「なんだコイツら、どうなってやがるんだ……!?」


 コイツらは魔法も使えない蛮族。人間に狩られるだけの弱小種族のハズだ。有り得ない光景だった。


「ヒャアアア!? レオン様、お助けぇえ……!」


 ネコ蛮族のパンチ一発で、歴戦の獣人ハンターが地面に沈んだ。


「バカ! 俺の名前を出すんじゃねぇ! ちっ! もういい。魔法で村ごと、焼き尽くしてやるぜ! この俺を舐めるなよ!」


 俺は上級魔法の詠唱に入った。俺の詠唱速度なら10秒もしないで、魔法が完成する。

 我ながら天才的な早さだぜ。


 獣人ハンターどもも巻き添えを喰らうが、使えないコイツらに構うことはねぇ。

 ひゃはははは、ネコ蛮族どもめ、格の違いを思い知らせてやるぜぇ。


「【ウインド】にゃ!」


「のぁぁぁあああーーー!?」


 俺の魔法が完成する寸前に、猫耳娘が風の魔法を放った。猛風が俺の身体を突き倒し、正体を隠すためにしていた仮面が外れる。


「ぐっ……なんだ? 魔法だと? しかも詠唱をしなかった!?」


 起き上がろうとすると、猫耳娘の蹴りが腹に刺さった。


「げぇは!? 早ぇ!?」


 しかも威力もかなりのモノで、俺は痛みに身体をよじる。


「にゃ、にゃ、にゃ! 無詠唱魔法が初めて決まったにゃ! カル様の指導のおかげにゃ!」


 誇らしげに小娘が胸を張った。

 無詠唱魔法? しかも、カルの指導のおかげだと?

 マ、マズい、気づいたらネコ蛮族どもが群がってきていた。


「ミーナ、はしゃいでいないでソイツを捕まえるにゃ!」


「あっ! もしかして、この前、この村を襲ったレオン・ヴァルムかにゃ?」


「また、こいつか。許せないにゃ!」


 周りを見渡すと、獣人ハンターどもは全員ヤラれてしまっている。

 やべぇ。ここで捕まったりしたら、謹慎期間中に他領の村を襲ったなんてことになって、王家から大目玉を食らってしまう。


 なんとか逃げて罪を全部、無能な獣人ハンターどもに被せねぇと……


「飛竜よ、来い! 火竜、コイツらをぶちのめせ!」


 急降下してきた飛竜に、俺はしがみつく。さらに待機させていた火竜に命令を下した。

 火竜が森の木々をなぎ倒して、猛然とネコ蛮族どもに襲いかかった。

 漁船に偽装した大型船で、火竜を密かに島に運んだのだ。コイツが俺の切り札だぜ。


「ヒャハハハハッ! ざまぁ見やがれ! さすがに竜は相手にできねぇだろ。天才ドラゴンスレイヤーであるこの俺と、お前らとじゃ格が違うんだよ!」


 ネコ蛮族どもはろくな武器を持っていない。火竜を倒せる訳がなかった。

 しかし……


「【雷吼(らいこう)のブレス】!」


 視界をすべて白で塗りつぶす電撃が火竜を飲み込み、一瞬で消し炭にした。


「げはぁああああ! なんじゃそりゃあああ!?」


「カル様にゃあ!」


 ネコ蛮族どもが大歓声を上げる。

 い、今のは人間の魔法の域を超えていた。天変地異クラスの竜魔法だ。


 ってことは、冥竜王アルティナの攻撃か……?

 さすがというか、火竜出現から全くタイムラグがない。まるで詠唱をしていないかのような詠唱速度の早さだ。

 やっぱり化け物だぜ。俺じゃ、絶対にかなわねぇ!

  

 雷撃がした方向に視線を向けると、飛竜に乗ってカルとアルティナがやってきていた。


「や、やべぇ。早くずらからねぇと……!」


 俺は慌てて、飛竜に離脱を命じた。


「敵の首魁め。逃がすと思うたか!?」


 アルティナが身の毛がよだつような咆哮を上げる。【竜王の咆哮】(ドラゴンシャウト)だ。


「ひぎゃああああ!?」


 俺の飛竜が、白目を剝いて気絶する。俺も恐怖に意識を失った。


「ごはっ! ごぼっ! ちくしょおおおお! 覚えてやがれよぉ!」


 幸か不幸か、落ちた先は冷たい海だった。落下の衝撃で、俺は意識を取り戻す。

 

 冥竜王アルティナ。あいつさえいなければ、すべてうまく行ったのに……くそぅ、許せねぇ。

 俺は屈辱に震えながら、必死に逃げ帰った。

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