24話。【古竜の霊薬】で猫耳族が進化

 猫耳族の村に向かうと、ミーナが手を振りながら抱き着いてきた。


「カル様! 見てくださいにゃ! みんなの新しい家が建てられましたにゃ!」


「えっ、もう?」


 まだ、古竜ブロキスとの戦いから2日ほどしか経っていなかった。


「カル様の筋力バフ魔法のおかげですにゃ。パワー倍増ですごい勢いで作業がはかどって、今は宴会の真っ最中にゃ!」


 その言葉通り、丸太を組みあせて作った真新しい小屋がいくつも並んでいた。

 猫耳族たちは村の中央に集まって、どんちゃん騒ぎをしている。


「うわっ、この鹿肉、信じられないくらい、おいしいのにゃあ!」


「うまい! うまい! 死んだバアさんにも食わせてやりたかったにゃ!」


「ほれほれ、ドンドン焼くぞ。おぬしたち、遠慮なく食すが良いのじゃ!」


「うぉおおお! 冥竜王様、最高ですにゃ!」


 アルティナが串刺しにした鹿肉を豪快に焚き火で、あぶっていた。

 しかも、調味料として振りかけているのは古竜ブロキスがドロップした【古竜の霊薬】だ。


 アルティナから猫耳族をパワーアップさせたいので、【古竜の霊薬】を使わせて欲しいと頼まれて、快く渡していた。

 そう言えばこれは、どんな効果があるのだろう?


「はぁあああああああ──ッ! 力が力がみなぎってきたニャアアアンッ!」


 肉を食べた猫耳族の男性が雄叫びを上げる。筋肉が盛り上がり、全身から爆発的な魔力が立ち昇った。さらに髪が黄金に輝く。


「な、何これ、どうなっているの……?」


「カル様にゃぁあああ!」


 猫耳娘たちが僕に群がってハグしてきた。このハグは、どうやら猫耳族の女性による親愛のあいさつらしい。

 しかも、彼女たちは全員が、昨日会った時よりも格段に美しくなっていた。


 この魔性めいた美しさはアルティナに近い。

 というか、顔が近いぃいいい。うわっ、胸が当たって……!


「ええい。おぬしら、さかるのはやめるのじゃ! カルよ、王女との会談は終わったのじゃな?」


 アルティナがやってきて、猫耳少女たちを僕から引き剥がした。

 毎回、こんなあいさつをされると身が保たないな。


「う、うん。それで一体、猫耳族たちは、どうしちゃったの……?」


「うむ! 【古竜の霊薬】を口にした者には、竜の力が宿る。生物として、ワンランク上の存在に進化するのじゃ」


 アルティナが誇らしげに解説した。


「猫耳族は、猫耳族を超えた存在【ウェアタイガー】となったのじゃ! これなら、人間や竜が襲ってきても、十分に戦えるぞ!」


「おおっ! アルティナ様、ばんにゃーい!」


「もう何も怖くないにゃ! 人間の軍隊でも竜でもドンと来いにゃ!」


 猫耳族はアルティナを女神のごとく、褒めたたえる。


「カルには最も美味しい部分を残してあるのじゃ。これを食べれば、さらに魔力が強くなるぞ」


 アルティナが細かく切って、【古竜の霊薬】を振った肉を渡してくれた。

 猫耳族が進化するなら、人間である僕はどうなるのだろう?

 一瞬、不安になったけど、好奇心が勝った。なにより、魔力が強くなると聞いては無視できない。思い切って頬張る。


「うまぁぃいいい!?」


 熱い肉汁を滴らせる肉が、脳髄を痺れさせるような旨味をもたらす。

 さらに体内が熱くなり、魔力が爆発的に増大するのを感じた。これはスゴイ……


「気に入ってもらえたようで何よりじゃ! まだまだあるぞ。カルは宴会の主役なのじゃから、遠慮なく食べるが良いのじゃ!」


 アルティナがうれしそうに、さらに焼いた肉を渡してくれる。

 

「猫耳族のみんなも魔力が大幅にパワーアップしているみたいだね。これなら魔法の習得もしやすそうだ」


「えっ! もしかしてカル様はミーナたちに、魔法を教えていただけるのですかにゃ!?」


「すごいにゃ! すごいにゃ! この前のカル様みたいなことが、できるようになるのにゃ!」


 猫耳族たちは興奮に目を輝かせている。


「そうだよ。ミーナたちを襲う外敵から身を守れるようにね。

 最初はごくごく簡単な風魔法【ウインド】からだね。これから一緒に修行していこう」


 といっても、僕が使える魔法のレパートリーは多くない。僕自身も、もっともっと魔法を極めていかないとね。


「はいにゃ!」


「カル様、さっそく教えて欲しいにゃ! ミーナがカル様の一番弟子にゃ!」


「あたしもあたしも、カル様に教えて欲しいにゃ!」


「オイラにゃ! オイラが先にゃ!」


 猫耳族たちが一斉に、せがんでくる。みんなスゴイやる気だった。


「この村の繁栄のためにも、ぜひお願いあたしますにゃ。魔法が使えるようになるなど、我らにとっては夢みたいな話ですにゃ」


 村長にも頭を下げられた。


「もちろんです。といっても僕は呪いで魔法の詠唱ができないので……ふつうの教え方ができません」


 魔法詠唱は、発音が命だ。魔韻を正しく踏んだ呪文を発する必要がある。

 詠唱をしようとすると声が出なくなる僕では、呪文を教えるのがそもそも不可能だった。


 家族を迎えに行っている竜騎士ローグか、アルティナに代わりにやってもらうのが、良いかも知れないけれど……


「そこで考えてみた伝授法があります。ミーナ、頭を出して」


「はいにゃ!」


 ミーナがうれしそうに頭を差し出した。

 読心魔法の使い方を逆転させて、僕の心の声を、ミーナの頭に届ける。

 ミーナの脳内で再生しているのは【ウインド】の魔法詠唱だ。


「あっ、あっ、カル様の声が心に……これが魔法詠唱にゃ?」


「うん。これを心の中で正しく再生して、魔法術式を組み上げるんだ。精神を集中して……世界に干渉する感覚を掴めるかい?」


「難しいのにゃ。こうにゃ? こうにゃ?」


 ミーナは僕の教えたやり方を必死に再現しようとする。


「魔法詠唱は正しくやらないと駄目だから、感覚を身に着けるまで毎日繰り返す必要があるね。焦らず気長にやっていこう」


「はいにゃ! カル様、ご指導よろしくお願いしますにゃ!」


「あーっ! ミーナばかり、カル様に頭を撫でてもらってズルいのにゃ! あたしもあたしも撫でてもらいたいのにゃ!」


「私にも魔法を教えて下さいにゃ! カル様に頭撫で撫で! でっへぇ!」


「うわっ……ちょ、ちょっとキミたち!」


 猫耳族の女の子たちが、我も我もと押し寄せてきた。

 やる気があるのは良いことだけど、なにか彼女たちは、頭を撫でてもらうことを目的にしているような……


 僕が頭に手をおくと、女の子はみなうっとりとした上目遣いになる。

 うーん。彼女たちは、心にだいぶ雑念があるようだ。

 

 無詠唱魔法の伝授は始めたばかりだし、試行錯誤しながら、気長にやっていくことにしよう。

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