2章。実家の嫌がらせのおかげで領地が発展

23話。魔法学校の設立計画

『カル殿。ひとつお願いがあります。わたくしは国の戦力増強のため、無詠唱魔法を広めたいと考えております。あなたには、その教師役を勤めていただきたいのです』


 水晶玉に映ったシスティーナ王女が、意外なことを告げてきた。

 ここはアルティナの隠れ家だ。

 僕は王女殿下より、通信魔法の媒介となる水晶玉をいただき、これを通して会話をしていた。


「僕が教師ですか……? しかし無詠唱魔法は、ようやく使えるようになってきたばかりで、まだ人に教えられる段階にはありませんが?」


『ご謙遜を。カル殿は、すでに古竜を倒せるほどの実力をお持ちではありませんか?

 わたくしは、アルスター島に王立魔法学校を作ってカル殿に校長になっていただきたいと考えているのですが、いかがでしょうか?』


 無人島は僕の領地となったことで、アルスター島と呼称されることになった。

 それにしても領主の地位に加えて、僕が魔法学校の校長? あまりにも急激な栄達に、めまいがしそうだった。


 さすがに校長とか教師なんて、無理。まだ僕は14歳。本来なら魔法学校で教わる立場だ。

 そこまで考えて、僕は閃いた。


「わかりました。では、まず猫耳族たちに、無詠唱魔法を教えたいと思います」


『まぁっ。それは素敵なお考えですわね!』


 猫耳族たちが蛮族扱いされているのは、魔法が使えないというのが、一因だった。

 ならそれを覆してやることで、彼らの地位の向上も図れる。


 猫耳族たちが魔法を使えないのは、種族的な特性ではなく、単に知識や技術が伝達されていないからだと思う。

 ちゃんと教えれば、魔法が使えるハズだ。

 なにより、僕は他人に無詠唱魔法を教える経験が積める。


「ただ、時間はそれなりにかかってしまうと思いますので、長い目で見ていただければと……最低でも1年くらいは。魔法学校の設立はそれからということで、お願いできますか?」 


『ありがたいです。魔法の修得に時間がかかるのは理解しています。1年以上の時間がかかっても問題ありません。

 長期的な視点に立てば、無詠唱魔法を広めることは王国にとって必ずプラスになると、わたくしは確信しております。では、学校の建築計画は先に進めておきますわね』


 システィーナ王女は満足そうな笑みを見せた。


『魔法が使えないとされてきた猫耳族が、無詠唱魔法が使えるとなったら……我も我もとアルスター王立魔法学校に入学希望者が殺到することになるでしょう。今から楽しみですわ』


「なるほど。そういった効果も期待できますね」


『はい。それとカル殿への竜討伐依頼も、わたくしからさせていただきます。ヴァルム家がさっそく動いて、カル殿に討伐依頼をしないように貴族たちを脅して回っているようです。

 カル殿が古竜を倒せたのは、レオン殿がすでに大きなダメージを与えていたからだと、デタラメも吹聴しています』


 システィーナ王女は美貌をしかめた。


「えっ、父上たちはそんなことをされているのですか……?」


 なぜ、そんなことをわざわざするのか、わからなかった。

 そんなことをしなくても、みんなヴァルム家にこれまで通り依頼すると思うのだけどな。


『聖竜王の脅威がある現状、味方同士で足の引っ張り合いをしている場合ではないのですが。あの方たちは、自分のことしか考えておりませんからね』


 システィーナ王女は深くため息をついた。

 聖竜王は侵攻する国に対して、低級の竜や魔物の群れを散発的にけしかけ、国力が衰えたとみるや竜の大軍で畳み掛けるという戦略を取っていた。


 国内に出現した竜や魔物は、傷口が広がる前に、すぐに殲滅しなければならない。

 にもかかわらず、貴族同士での派閥争いや、王位継承にまつわる暗闘などもあるようで、システィーナ王女はうんざりしているようだ。

 できれば、僕は彼女の力になってあげたい。


「ではしばらくは、僕自身の修行と領内の整備に力を入れたいと思います」


 そのためにも、まずは実力を身に着けたいと思う。

 なにより、魔法の研究や修行は楽しかった。


『今は力を蓄える時期ということですわね。猫耳族たちへの魔法指導もしていただく必要がありますし……そう考えれば、他の貴族たちから下手な干渉を受けないのは、好都合かも知れません』


「おっしゃる通りです」


『何か必要なモノなど、ありましたら用立てますので、遠慮なくおっしゃってください。魔法学校の設立に必要だとして、武器やアイテムなどを贈ることもできますわ』


「ありがたいお申し出ですが、王女殿下がアルスター領を特別扱いしているなどという噂が立っても困りますので……」


 僕はちょっと驚いて固辞した。

 確かに、領地防衛のために武器などは欲しいところだけれど、そんなことをすればヴァルム家などに付け込まれると思う。


『えっ、あ、そうですわね。少々、気が急いていたようです。無理を通せば、他の貴族らの反感を買いますからね。さすがはカル殿です』


 システィーナ王女は頭を振って、何やら考え込んだ。そして、ポツリと呟く。


『カル殿が順調に功績を挙げられたら、次は子爵の地位を……そうなれば、わたくしとの婚約も現実的に……』


「えっ? 申し訳ありません。良く聞き取れなかったのですが……」


『い、いえ。何でもございませんわ! そ、それでは、ご機嫌よう。カル殿には期待しておりますわ』


 システィーナ王女は顔をぽっと赤らめ、なぜか慌てた様子で通信を終えた。

 さて、やることも多いし、忙しくなりそうだぞ。

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