18話。兄レオン、不正が王女にバレる

「ぐぅっ!? なんだと……!?」


 レオンは僕とアルティナを憎々しげに睨んだ。


「て、てめぇはヴァルム家を……この俺を破滅させる気か!? 運良く冥竜王を配下にしたからって、いい気になりやがって! 俺はお前の兄なんだぞぉおお!?」


 兄弟の絆は、そちらから切ったと思ったのだけど……


「レオン様、ここは……!」


 竜騎士のひとりがレオンにそっと耳打ちした。

 うん? なにをヒソヒソ話しているのだろう?


「カルよ。なにやら、良からぬことを相談しておるようじゃぞ。読心魔法を使ってみよ」


 アルティナが僕にささやく。

 僕は彼らの心の声を、読心魔法で拾えるように意識を集中した。


『口惜しいですが、拘束された状態では何もできません。ここはカル様の言い分を受け入れ、謝罪して解放されることを優先するべきです』


『……俺にカルとネコ蛮族どもに、頭を下げろっていうのか!?』


『一時の恥より、利をお取りください。カル様より早く王女殿下にお会いして、レオン様が古竜を討ち取ったことにすれば良いのです。我々が口裏を合わせれば、それが真実になります』


『なるほど……! 確かにそうだ!』


『その後、好条件を出してカル様の機嫌を取り、ヴァルム家に戻ってくるように説得すれば、すべて丸く収まります。

 レオン様はシスティーナ王女殿下の婚約者となられ、ヴァルム家はますます栄華と発展を遂げるでしょう』


『ちっ……! ムカつく話だが王女と婚約しちまえば、こっちのモンだからな』


『そうですとも。レオン様が古竜を討伐したことが真実であると、周囲の者が認めればそれで済む話です。カル様が古竜を討ち取った証拠は無い訳ですからね。

 追放されたカル様と、竜殺しとしての実績のあるレオン様、どちらの言い分が王国上層部に認められるか。火を見るより明らかでしょう』


『くくくっ、その通りだぜ! 俺には天才ドラゴンスレイヤーとして積み上げてきた実績があるからな!』


 僕に心を見透かされているとも知らずに、レオンたちは悪巧みをしていた。

 まさか本当に僕たちの手柄を奪うつもりだとは、驚いた。


「……レオン兄上、僕が古竜を討伐した証拠ならあります。このドロップアイテム【古竜の霊薬】です。嘘をついてもバレますよ?」


 僕が【古竜の霊薬】を見せると、レオンと竜騎士は言葉を失った。


「王女殿下に虚偽の報告をするのは王家への背信、れっきとした犯罪です。残念ですが兄上たちの身柄は、このまま拘束させていただきます」


「はっ、な、なに……?」


「読心魔法です。心の声を聞かせていただきました」


「ま、まさか、尋問用の高等魔法ではありませんか!? え、詠唱をしなかった!?」


「む、無詠唱魔法か!?」


 レオンたちは、うろたえたがもはや後の祭りだ。


「腐りきったヤツじゃのう。王家も騙そうとは……」


「ミーナ。兄上たちが魔法を使えないように、猿ぐつわを噛ませて。僕はこれから王女殿下の元に向かうから、交代で見張りをよろしく頼むよ」


「はいですにゃ!」


 猿ぐつわで口を塞げば、魔法の詠唱を封じられる。竜騎士たちは、完全に無力化できるだろう。


「ひぎゃあああぁ! ちょ、ちょっと待て、まさか俺を罪人に仕立てるつもりか!? ちょっと王女を騙してやろうとしただけで、まだ何もやってねぇだろうがよ!?」


 レオンの叫びに、他の竜騎士たちは度肝を抜かれた様子だった。


「レオン様、王女殿下を騙すとは、いかなるおつもりですか!?」


「さすがに今のお言葉は、見過ごせません!」


 王家への忠義に厚いふたりの竜騎士が、レオンに詰め寄った。墓穴を掘ってしまったな。


「古竜討伐の手柄を俺のものにするだけだ! 何が悪い!? 弟のものは俺のものだ!」


「そこまでです。話は聞かせていただきましたわ!」


 その時、凛とした少女の美声が響いた。

 それまで沈黙していた竜騎士の指輪が光り輝く。

 あの指輪の宝石は……まさか転移クリスタルか? 


 本で読んで知っていた。レア中のレアとされる古代文明の遺物だ。空間同士を繋げるといった現代魔法では不可能な奇跡を起こす。


「シ、システィーナ王女殿下!」


 次の瞬間、輝きの中より、見目麗しい美少女が現れた。

 レオンたちが一斉に頭を垂れる。

 僕も慌てて、その場に平伏した。


「この場で起きたできごとは、すべて見聞きさせていただきましたわ。カル殿、古竜討伐、誠にお見事でした。さすがはわたくしが見込んだお方です」


 システィーナ王女は、天使のように微笑んだ。

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