19話。兄レオン、カルによって罪を暴かれ破滅する

「お、おおお、王女殿下!? なぜこちらに、一部始終を見ていた……!?」


 レオンは目も当てられないくらい取り乱した。


「レオン殿には、不審な点がありましたので。この者に頼んで、調査をしてもらっていたのです」


「はっ。王女殿下より、内偵を依頼されておりました。申し訳ございませんがレオン様、本日限りでヴァルム家はお暇させていただきます」


 転移クリスタルの持ち主が告げた。40歳近い、もはや戦士としてのピークは過ぎた竜騎士だ。


「内偵? 調査だと……!? てめぇ、ローグ! 20年近く雇ってやった恩を忘れやがって!」


 レオンが竜騎士ローグに食ってかかる。


「それは感謝しておりますが……退職金を払うのが嫌だからと、俺をこの島で殺そうと企んでましたよね?

 それ以前も自分から辞めるように、ワザと危険な竜退治を劣悪な条件でやらせていたのは、どういう了見です?」


 ローグはまったく怯まず、冷めた目をレオンに向けた。


「それでこの再就職話に乗ったということです。俺には養うべき家族がいますからね」


「しゅ、主人を裏切るとは、てめぇ、それでも騎士か!?」


「レオン様に言われたくはありませんね。そうでございましょう、王女殿下?」


「ええ、その通り。レオン殿、あなたには、わたくしをドラゴンに襲わせた嫌疑がかかっています。同じことを他の貴族令嬢に対しても行っていましたよね?

 そして今回の件では、カル殿の手柄を横取りし、わたくしを騙そうとしましたわね?」


 システィーナ王女は有無を言わせぬ口調で、詰問した。

 王女殿下や貴族令嬢を襲撃? まさか、レオンはそんなことをしていたのか……?


「い、いや、それは……違う! 誤解、誤解なのです!」


「残念ですが、わたくしはこの指輪を通して、すべてを見聞きしていました。わたくしを騙そうとは、ずいぶんと見くびられたものです。

 王国の法律にのっとり、あなたには処罰が下ることを覚悟していただきますわ。無論、婚約も破棄させていただきます」


「あっ……あう……」


 レオンは口を、酸欠の金魚のようにパクパクさせた。


「……し、しかし、この俺が貴族令嬢をドラゴンに襲撃させたなどという事実は、ございません! これは神に誓って本当です!」


 弁明するレオンを、システィーナ王女は白い目で見ていた。

 王女はレオンをまるで信用していないようだった。


「もしお疑いなら、証拠を出していただきたく存じます!」


 レオンは令嬢襲撃事件については、否認した。

 竜騎士ローグもそちらの証拠は掴めていなかったようで、舌打ちする。


 竜による令嬢襲撃事件は、何人もの死者が出ている大事件だ。

 レオンが婚約を熱望していたシスティーナ王女まで襲われているというし……いくらなんでもレオンが指示していたとは、考えにくいと思う。


 王女殿下に虚偽の報告をしたり、手柄を奪ったりといった低レベルの悪事ではない。事実だとしたら王国への裏切りであり、大量殺人事件だ。


「俺は、俺は! 王国の平和のために身を粉にしてドラゴンと戦ってきました! そんな俺が王女殿下や貴族令嬢を襲うなど、あり得ないことです! 信じてください!」


 レオンは懸命に訴えた。

 なんだか、かわいそうだ。

 これは最後に一肌脱いであげるべきかもね……


 僕はレオンの無実を証明してあげることにした。兄だった人への僕なりの餞別だ。


 読心魔法を改変して、レオンの心の声を僕だけでなく、この場の全員に聞こえるようにする。

 【魔法基礎理論】の読心魔法に関係する項目を熟読することで、可能になったことだ。

 レオンの肩に触れ、改変した読心魔法を発動させながら尋ねる。


「レオン兄上は、令嬢襲撃事件の犯人なんかじゃ、ありませんよね?」


「そ、そうだ! その通りだ! きっとこの俺の活躍を妬んだヤツが、俺を陥れようと仕組んだに違いない! そうに決まっている!」


『ハハハハハッ! バーカ、全部、この俺がモテるために、自作自演で女どもを竜に襲わせていたんだよ! んで、俺は颯爽と竜を倒して、お姫様を救う正義のヒーローだ! どいつもこいつも、簡単に騙されてチョロかったぜぇ!』


 その場の全員の顔が凍りつく。

 僕も驚いた。

 ……い、いや、でもさすがに王女殿下を竜に襲わせたというのは……ないよね?

 僕はさらに尋ねてみた。


「レオン兄上が、システィーナ王女殿下を竜に襲わせたなどという事実はありませんよね?」


「当然だろ! 俺は王国を守る正義のドラゴンスレイヤーだぞ! 王女殿下をお助けすることこそあれ、襲わせることなど絶対に有り得ねぇ! もし、そんなヤツがいたら、俺が真っ先に成敗してやる!」


『ギャハハハハハッ! システィーナ王女を襲うのに使った竜どもは殺処分したから、俺がやったって証拠が出てくることは絶対にねぇぜ! 

 ちっ! 胸がデカいだけが取り柄のクソバカビッチ王女が、黙って俺のものになりゃあいいものを! てめぇなんぞ、俺の出世の踏み台にすぎねぇんだよ! 

 って、いうのは建前で、本当はシスティーナ王女のことが、好きで好きでたまたらないです! ああっ、かわいいシスティーナちゃん! いずれシスティーナ! って、呼び捨てにしてやるぜぇ!』


 お、おわっ。さ、さすがにこれは……

 システィーナ王女は美しい顔を般若の形相に変えた。


「あ、あなたの本音が、よくわかりましたわ、レオン殿。胸が大きいだけが取り柄のクソバカビッチ王女ですって?」


「……はっ? えっ?」


 レオンはシスティーナ王女がなぜ怒っているのかわからず、目を瞬いた。


「おぬし……カルの読心魔法で、本音をこの場の全員に暴露してしまったことに気づいておらぬのか?」


 アルティナがこめかみを押さえながら、告げる。


「読心魔法? ……えっ、全員に暴露?」


「罪の告白もさることながら……ああっ、かわいいシスティーナちゃん! いずれシスティーナ! って、呼び捨てにしてやるぜ! とか、ほざいておったぞ。わらわもドン引きじゃが、王女はもっと引いておるな……うん、ご愁傷さまじゃ」


「はぁああああっ!?」


 システィーナ王女は完全に汚物を見るような目を、レオンに向けていた。


「読心魔法を改変してしまったのには驚いたのじゃ。カルの魔法の才は、想像の域を超えておるの!」


「うーん、これは禁断の魔法かも……」


 他人の人生を破壊しかねないので、封印しようと思う。

 今回は結果的にレオンの罪を暴けて、良かったけどね……


「レオン様……我々は、さすがにもうついてはいけません。罪を償いください」


 竜騎士たちは、ガックリとうなだれていた。

 誰からもレオンを擁護する声は上がらなかった。


「……わたくしの護衛を、くだらない計略で死に追いやった罪は重いですわよ! もしそんなヤツがいたら、俺が真っ先に成敗してやる? おもしろいですわね。なら、ここで自害して見せなさい! さあ、今すぐに!」


 システィーナ王女はレオンの破滅を宣告した。

 レオンの顔から、完全に血の気が失せた。

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