17話。戻って来いと言われるが、もう遅い
「な、なんだお前は!? 俺たちを皆殺しにするだと!?」
「わらわは冥竜王アルティナじゃ。七大竜王の一柱にして、カルの配下であるぞ」
アルティナは堂々と名乗った。
「はぁ、冥竜王だと……!? そんな訳があるか!?」
レオンは目を白黒させていた。
「お待ちください! この人間離れした威圧感とパワーは、竜の化身としか……」
「レオン様、古竜ブロキスを倒したのは、ま、まさか……!」
レオンたちは、自分たちが助かった事情を察して震えだした。
「はぁ!? いや、そんな……! め、めめ、冥竜王を配下にしただと!?」
「事実だとすれば、カル様は呪われた子供どころか、史上最強のドラゴンスレイヤーということに……!」
「システィーナ王女殿下の見立ては、やはり的を射ていたのか!?」
竜騎士たちは、お互いに顔を見合わせて、混乱の極みにあった。
「ヴァルム家の跡取りがこの程度とは、片腹痛いのじゃ。カルの足元にも及ばぬのう」
鼻を鳴らして、アルティナはレオンたちを見下ろす。
「アルティナ、もうそれ以上は。レオン兄上、僕は猫耳族たちを庇護することにしました。ここは黙って、お引取り願えないでしょうか?」
「おおっ! 我らを庇護するとは!? カル様、我らの主になっていただけるのですにゃ!?」
村長が歓声を上げた。
「はい。このままだと、この村は聖竜王からもハイランド王国からも、ひどい目に合わされそうですからね……」
「やったのにゃあ!」
猫耳族たちが、バンザイしてはしゃぎ回る。
「ただ、僕個人の力では、この村を守るには限界があります。今回、古竜討伐に成功できたので、この手柄を使って王国に猫耳族を対等な存在として扱ってもらえるように、交渉してみます」
アルティナが素性をバラしてしまった訳だし。王国も冥竜王のいる島の扱いには困るだろう。
最低でも、この島に不干渉を約束させることはできると思う。
「おおっ! グッドアイデアなのじゃ! 王国と友好関係を結べば交易ができるようになるしのう。
様々な生活物資が、お茶やお菓子……小説も手に入りやすくなるのじゃ!」
アルティナも手を叩いて賛同した。
って、その頭の中は欲望全開だけど……
「王国と友好関係!? すごいのにゃ! そんな発想が出てくるにゃんて! カル様は、名君となる資質をお持ちですにゃ!」
「カル様と出会えたことは、我らにとって、最大の幸運ですにゃ!」
猫耳族たちも、諸手を挙げて喜んでいた。
「いえ、そこまでうまくいくかはわかりませんが。幸いシスティーナ王女殿下とは面識があります。王女様に話を通すことはできると思います」
王国と交渉などは、初めての経験なのでドキドキだ。
あまり期待されても困るけど、猫耳族が古竜討伐に一役買ってくれたと言えば、実現可能性は高いと思う。
「はぁ!? おい調子に乗ってんじゃねぇ! 古竜を倒したのは、この俺だ! てめぇは父上とシスティーナ王女の前で、そう口裏を合わせるだよ!」
突如、レオンが怒号を上げた。
腕の骨折が回復薬で治ったらしい。先ほどまで、涙目でエクスポーションをすすっていた。
「そうすりゃ、また俺の弟としてヴァルム家に戻してやるよ。あっ、そうそう、バフ魔法もこれまで通り、毎日かけやがれよ。ヒャハハハッ! これで万事解決だぜ!」
「えっ……? 僕は実家から追放された身です。今さら、戻ってこいと言われても……僕にはすでに新しい家族がいます。アルティナが今の僕の家族です」
僕は呆気に取られてしまった。
「そうじゃ! わらわとカルは、ここで楽しく暮らすのじゃ!」
アルティナがうっとりした表情で告げる。
「な、何……!? この島から生きて帰れたら、ヴァルム家の一員として認めてやると約束しただろう? お前もヴァルム家に帰りたいんじゃないのか?」
レオンは面食らった様子だった。
「いえ、まったく……未練は無いです。今まで、ありがとうございました」
僕は頭を下げる。
すると、レオンは慌てて態度を変えた。
「あっ、いや、待てよカル。お、俺はシスティーナ王女に、古竜を倒すように依頼されているんだ。このまま手ぶらじゃ帰れねぇんだよ……!」
システィーナ王女殿下も、この島に古竜が居着いたことに脅威を感じていたらしい。
「わかりました。では王女殿下にお会いして、ことの顛末を説明したいと思います。アレキサンダー、王宮まで飛べるかい?」
『もちろんです!』
呼ぶと飛竜アレキサンダーが僕の隣にやってきた。
「アレキサンダー!? なっ、どういうことだ? なぜ、カルの命令を聞いていやがる?」
「この飛竜は、今やカルの忠実な下僕なのじゃぞ?」
アルティナの言葉に、レオンは衝撃を受けた様子だった。
「こ、コイツは俺の飛竜だぞ……!? 俺の下僕が俺を見限って、カルについただと!?」
「竜は強い者に従うのじゃから当然じゃな。カルの【竜王の咆哮】(ドラゴンシャウト)で、おぬしらは全員、気絶しておったしの。実力差は明白なのじゃ」
アルティナは心底呆れた様子だった。
「ま、待ってくれ……! 古竜を倒したのは、俺ということにしてくれないか? そうすれば父上に取りなしてやる! 栄光のヴァルム侯爵家の一員としての身分を取り戻せるんだぞ!」
レオンが必死の形相で、僕に頼んできた。
「はぁ……? 兄上、まさか僕たちの手柄を横取りするおつもりですか? それに父上にお取りなししていただく必要はありません。先程も言いましたが、僕はもうヴァルム家とは無関係なのですから」
僕はここで、僕を大切にしてくれる人と幸せに暮らしていくんだ。
実家を追放されて、この島にやってこれて本当に良かったと思っている。
「バカが!? ことはヴァルム家の浮沈に関わる問題だってのが、わからねぇのか! 王女から婚約破棄されるだけじゃねぇ。こんな失態が明るみに出たら……俺は貴族社会で、良い笑い者にされるんだぞ!?」
あっ、そうか。
考えてみれば、欠陥品だとヴァルム家から追放された僕が古竜を討伐し、レオンが失敗したとなれば……ヴァルム家の名声は地に落ちるだろう。
レオンの立場や気持ちは、理解できた。
だけど……
「王女殿下に嘘の報告をしろと、おっしゃるのですか? お断りします」
古竜討伐の手柄は、猫耳族を庇護するために使うのだ。
「おい、おぬし。先程から聞いておれば、自分のことばかりじゃのう。それでも英雄の血を引く貴族か? 恥を知るが良いのじゃ!」
アルティナが怒り心頭で告げた。
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