16話。兄レオン、アルティナに腕をへし折られる

「そ、それよりもミーナ、怪我人の治療は全員終わった?」


「はいですにゃ! カル様のおかげで、みんな助かりましたにゃ!」


「どうやら、奇跡的に死人は出なかったようですにゃ!」


 それは本当に幸運だったな。

 レオンたちがエクスポーションを大量に持っていて助かった。


「それは良かった。それじゃ、最後は兄上たちの治療だな」


 竜騎士たちは気絶して空から落ちた。おそらく骨折は確実にしているだろうし、そのままにはしておけない。


「えっ!? そいつらまで治療しちゃうのですにゃ? 危険じゃにゃい?」


 ミーナは不安そうに顔をしかめる。

 レオンたちが猫耳族まで魔法で撃ったため、他の者たちも不安そうにしていた。


「さすがに、兄上たちも無闇に猫耳族を傷つけたりしないと思うけど……」


「カルは優しいのう。じゃが、念のため武装解除して、縄で縛るくらいはした方が良いと思うのじゃ。そやつらは、猫耳族を人間扱いしておらぬからな」


 アルティナが竜騎士たちを睨んだ。

 確かに、ここは無人島だとされている。

 それはつまり王国は、猫耳族を対等な存在だと認めていない、ということだ。


 ミーナたちの不安を取り除くためにも、ここはアルティナの意見を聞いた方が良いだろう。


「わかった。それじゃみんな竜騎士たちの武器を取り上げて縄で縛って。それから治療だね」

 

「はいですにゃ!」


 ミーナが率先して、レオンたちの武装を解除する。

 その後、僕たちは回復薬を彼らに飲ませた。


「ひぎゃあああ……!? って、あれ?  て、てめぇ、カルじゃねぇか!? まさか生きて!? 古竜はどうした!?」


 目を覚ましたレオンは混乱の極地にいるようだった。


「お久しぶりです兄上、お怪我は大丈夫ですか?」


「はっ、お、俺が縄で縛られているだと……!? これは、どういうことだ!? おい今すぐ、コイツを解け! さもねぇとぶち殺すぞぉおお!」


 レオンの言葉に、場に怒気が満ちた。「にゃんだと?」と、猫耳族がレオンを厳しい目で見つめる。


「おぬし、今、なんと申した? カルをぶち殺すじゃと……?」


 アルティナが不機嫌そうに、レオンに歩み寄った。


「なんだ、てめぇは……って、う、美しい!?」


 レオンがアルティナの美貌に、口をあんぐり開けて見惚れる。

 他の竜騎士たちも魂を抜かれたようになっていた。


「古竜ブロキスなら、カルが倒したのじゃ。助けられた礼も言えんのか?」


「はぁ!? 古竜をコイツが倒しただと……?」


 レオンは信じられないといった面持ちで、目を瞬く。


「その通りですにゃ。我らはカル様とアルティナ様に救われましたにゃ。先程から聞いておれば、我らが主カル様に対して無礼千万にゃ!」


 村長が怒声を発すると、猫耳族たちが、「そーにゃ、そーにゃ!」と大合唱する。

 竜騎士たちは猫耳族から包囲されて、たじろいだ。


「レオン様、我々の武器だけでなく、アイテムもすべて奪われていますぞ!?」


「なにぃ……!? おいカル、てめぇが俺たちの武器とアイテムを盗んだのか!? 舐めやがって、どういうつもりだ!?」


 レオンは歯を剥いて激怒した。

 以前は、こんな風に怒鳴られたら萎縮してしまっていたけど……今の僕は猫耳族を守る立場だ。僕は勇気を持って告げた。


「武装解除も回復薬を拝借したのも、レオン兄上たちが猫耳族を不当に傷つけたからです。どうして、彼らごと古竜を撃ったのですか? まずは、そのことを謝ってください」


「はっ? この俺がネコ蛮族に謝罪だ? 古竜が人間の姿の時を狙ったに決まっているだろうが! てめぇ、とうとう頭がイカれたのか? ああっん!?」


 レオンが凄む。

 他の竜騎士たちも、次々に口を開いた。


「カル様、王国はここを無人島だとしています。つまり猫耳族は人間ではない、ということです。人語を話すケダモノに頭を下げろと申されましてもね……」


「それより、お喜びください。ヴァルム家にまた、お戻りいただけることになったのですよ。魔法の使えないカル様には、破格のご待遇でしょう?」


 竜騎士たちが、僕に嘲笑を投げかける。またヴァルム家に戻ってこいとは、どういう風の吹き回しだろう?


「ちっ! 癪に障るが、システィーナ王女殿下からお前を連れ戻せってお達しがあってな……だが王女殿下から何を言われても調子に乗るんじゃねぇぞ? 王女殿下の婚約者はこの俺だからな!」


 レオン兄上は非常に不機嫌そうだった。

 システィーナ王女殿下が? どういうことだろう?

 そこでレオンは、猫耳族の女の子たちを好色そうな目で眺めた。


「へぇ〜、蛮族にしては上玉が揃ってるじゃねえか。行きがけの駄賃だ。ここの娘どもは、俺の奴隷として連れて帰るとするか! 少しは楽しめるだろう」


「それは妙案ですね、レオン様!」


 ミーナたちが小さな悲鳴を上げる。

 謝罪を引き出そうなど、考えが甘かった。レオンたちは、猫耳族を狩りの対象だと思っているようだ。

 僕が言い返そうとした時だった。


「おい、おぬしら。謝るどころか、その態度はなんじゃ? それはつまり、わらわたちへの宣戦布告ということじゃな?」


「あっ、ひぎゃぁあああ!?」

  

 アルティナがレオンの右腕を掴んで、枯れ木みたいにへし折った。

 笑っていた竜騎士たちが凍りつく。


「あれ……? 怪力無双を豪語する兄上が、あっさり負けた?」


「怪力無双? 縄も引き千切れぬコヤツがか?」


「お、お、俺の腕が変な方向にぃいいい!? 痛てぇ!? いてぇよぉおおおお!」


 レオンは痛みに大騒ぎする。


「ああっ、わかったのじゃ。カルのバフ魔法のおかげじゃな! あれは信じがたい増幅率じゃからのう。怪力無双などと吹聴したくなるのもわかるのじゃ」


 アルティナが呆れ返った。


「まさかとは思うが、カルから与えられた力を自分の力だと勘違いして、調子に乗っておったのか……?」


「痛てぇ!? は、ははっ、早く回復薬をよこせぇ!」


「レオン様ぁ!?」


「おのれ、小娘、魔物の類か!?」


 竜騎士たちが殺気立った。


「なんじゃ? 三下の竜騎士ども。わらわに喧嘩を売る気か? 家族を、愛するカルをバカにされて黙っていられるほど、わらわは温厚ではないのじゃ。皆殺しにされる覚悟はできておるのじゃろうな?」


 アルティナの身体より、鬼気迫るような威圧的なオーラが立ち昇った。

 レオンたちは、恐怖に顔面蒼白となった。

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