12話。最強の竜狩りと竜王のコンビ

「見たところ、同族から襲われていたみたいだけど。良かったら理由を教えてくれないかな?」


 僕は頭を掻きながら、猫耳少女に尋ねた。彼女は露出度の高い毛皮の服を着ていて、目のやり場に困る。


 思えば、この島のことは何も知らなかった。アルティナも引きこもっていて、島については詳しくない。

 原住民であるこの娘から、情報を聞き出せればと思う。


「はいですにゃん! ミーナは村の決定で、竜の生け贄にされることになったのですにゃん。それでミーナは、お父さんにこっそり逃してもらったのですにゃん!」


 猫耳少女は思いつめた顔で訴える。この娘はミーナというらしい。


「竜の生け贄じゃと? ……まさか、おぬしの村は聖竜王の支配下に入れられたのか?」


「はいですにゃ! 2週間くらい前に、態度も身体も大きい3匹の竜がやってきたのにゃ。それで、我らの主は聖竜王様だ。言うことを聞かないとミーナたちを皆殺しにすると、脅してきたのにゃ!」


「……うわっ。ひどい話だな」


 だいたいの事情はわかった。

 問題は奴らが何のために、ミーナの村を支配下に入れたかだ。


「もしかして、冥竜王アルティナの隠れ家を探し出せとか、命令されなかった?」


「ええっ!? なんで、わかったのですにゃん!?」


 ミーナが尻尾をピンと立てて驚く。


「そういうことか。厄介じゃのう。奴ら人海戦術に出たのじゃな……」


 アルティナが腕組みして唸った。地理に明るい原住民が敵に回ったのは痛い。


「……このままじゃ、いずれ隠れ家がバレてしまうだろうね」


『どうしますか、カル様? あっしがおふたりを連れて、どこか別の場所まで逃げますか?』


 飛竜アレキサンダーが降下してきて、提案した。


「にゃ、にゃ……!? 飛竜だにゃ!?」


「アレキサンダーは僕の飛竜だから危険は無いよ」


 怯えて後ずさるミーナを安心させてあげる。


「えっ! まさか飛竜を手下に? すごいのにゃ!」


「アルティナ、無謀かも知れないけれど……ミーナたちを助けるためにも、こちらから打って出る訳には、いかないか?」


 このまま僕たちがこの島を後にすればミーナたち猫耳族は、竜の食料か奴隷にされてしまうだろう。


 マグレとはいえ、前回、僕は巨竜に勝つことができた。

 あの時よりも、僕は腕を上げているし、飛竜アレキサンダーもいる。勝ち目が無い訳じゃないと思う。


「逃げても奴らは追ってくるに違いない。どこかで対決しなくてはならないとしたら、こちらから攻めるべきだと思う」


 先手必勝。機先を制して相手に大ダメージを与えれば、勝つ可能性は高くなる。


「敵は3体か……古竜ブロキス以外なら、問題なく倒せると思うのじゃが……」


 アルティナは難しい顔をしている。


「ヤツを倒すとなれば不意打ちで、わらわの最大の攻撃を喰らわせるしかないのじゃ」


「不意打ちなら勝てる可能性がある訳だね。なら僕が古竜の気を引いてみせるよ」


「なぬ……!? それではカルを相当危険な目に合わせることになるのじゃ!」


「僕はアルティナの家族になったんだ。アルティナためなら、多少の危険くらい、へっちゃらだよ。それに戦うことを決めたのは僕だ」


 アルティナがいなければ、温室育ちの僕は、この島で満足に食料も得られずに飢え死していただろう。

 暖かい寝床と、おいしいご飯。竜魔法など、アルティナにはたくさんのモノを与えてもらった。

 なにより、僕の新しい家族になってくれたアルティナに恩返しがしたかった。


「ふぐぅうう!? か、感激なのじゃ! ……確かに、この者らを巻き込んでは、かわいそうじゃからな。これは本来、わらわの問題。わらわの手で決着をつけねば!」


「にゃ? にゃ? にゃんの話をしているのにゃん?」


 ミーナは話についていけずに、大量の疑問符を浮かべていた。


「あっ、そういえば自己紹介がまだだったね。僕はカル・ヴァルム。そして、この娘は……」


 そこで、僕は一瞬、アルティナをどう紹介するべきか迷った。

 冥竜王だと明かせば、ミーナを怖がらせてしまうかも知れない。


 でも、実際に決め手となる攻撃は、アルティナが行うことになる。そうなれば、正体が露見することになるだろう。

 なら、最初から正直に伝えた方が良い。


「信じられないかも知れないけど、冥竜王アルティナ。聖竜王と敵対する七大竜王の一柱なんだよ」


「よろしく頼むのじゃミーナよ。なに、わらわたちに任せておけば、大丈夫じゃ。何を隠そう最強の竜狩りと竜王のタッグじゃからな」


 アルティナは自信ありげにうそぶいた。


「にゃ? にゃ!? 冥竜王アルティナ!? そ、それにカル・ヴァルム!? ま、まさか……ミーナもおとぎ話で聞いておりますのにゃ。竜狩りの英雄カイン・ヴァルムの伝説! まさか、あなた様がその子孫にゃのかなにゃ!?」


 ミーナが大興奮しだした。僕は慌てて訂正する。


「ちょっとアルティナ……最強の竜狩りって、もしかして僕のこと? いやいや、僕はヴァルム家を追放された忌み子だから!」


 変に期待されても困る。


「……カルよ、謙遜も過ぎると嫌味じゃぞ? まさか自覚しておらんのか? 【竜魔法】を使える人間は、この地上におぬしひとりじゃ。

 カルは間違いなく、史上最強のドラゴンスレイヤーとなる才能を秘めておるのじゃ!」


「ぶっ!」


 アルティナの過大評価に、卒倒しそうになった。

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