11話。竜魔法で猫耳少女を助ける

「よし、このあたりが良さそうじゃな」


 森の茂に身を隠して、アルティナが告げた。

 アルティナの隠れ家にやってきて、早くも2週間が経っていた。

 その間、僕は魔力量(MP)アップの修行を毎日、地道に続けた。


「おぬしは、本当に努力家じゃのう。もう、基本的な【竜魔法】を使えるほどの魔力を得るとは……正直、驚いたのじゃ」


『はい! カル様は本当にスゴいです!』


 空から周囲を警戒していた飛竜アレキサンダーが咆哮を発した。

 彼が仲間に加わってくれたおかげで、聖竜王の手下に発見される危険はかなり減った。飛竜の索敵能力は、ずば抜けている。

 食料探しもアレキサンダーが手伝ってくれるので、助かっていた。


「アルティナの力になるためにも、一刻も早く【竜魔法】を覚えたかったからね」


 なにより、強大な【竜魔法】を覚えられることにワクワクしていた。人間の使う魔法は【竜魔法】の下位互換的なモノだ。


「ぐぅっ……! わらわは大感激なのじゃ!」


 アルティナはうれし涙を拭った。

 

「よし、ではさっそく基礎魔法【竜王の咆哮】(ドラゴンシャウト)を伝授するのじゃ。良く見ておるのじゃぞ」


 僕に聞こえるように朗々と呪文を唱えると、アルティナは雄叫びを上げた。


 グオオオォォォン!


 一瞬、アルティナの背後に、巨大な黒竜の威容が見えた。僕は恐怖のあまり、気絶しそうになる。

 鳥たちが恐慌をきたして一斉に空に飛び立った。


「これは咆哮を聞かせた相手の恐怖心を煽って、恐慌状態にさせる精神干渉系の【竜魔法】じゃ。これを喰らわせると、たいていの者は気絶するか、恐怖で動けなくなるのじゃが。大丈夫かの?」


「ア、アルティナって、やっぱり冥竜王の化身なんだね……かなり驚いた」


「いや、カルの精神干渉プロテクトも、そうとうじゃぞ。この至近距離でわらわの咆哮を受けたら、ふつうは気絶するのじゃ」


 読心魔法を防ぐための防御魔法【精神干渉プロテクト】もここ数日、鍛えていた。万が一にも、アルティナに心の中を覗かれたら、超絶恥ずかしいからだ。

 これは精神干渉系統の魔法、全般に効果がある。


「でも、こんな大声を出して大丈夫? 聖竜王の手下に見つかるんじゃ。念の為に移動しよう」


 この島は大都市がすっぽり入るくらいの大きさだ。それなりに広いため、近くに敵がいなければ、大丈夫だとは思うけど。警戒しておくにこしたことはない。


「心配する必要はないのじゃ。これは制御可能な魔法じゃぞ? 【竜王の咆哮】(ドラゴンシャウト)が聞こえるのは、この近くの半径10メートルほどに限定したのじゃ。効果範囲や音量などは、調整ができるのじゃ」


 アルティナは誇らしげに胸を張った。


「へぇ~っ……確かに、詠唱の第三節の抑揚を変えれば、音量が調整できそうだね」


 今のアルティナの詠唱と魔導書【魔力基礎理論】を読んで得た知識を元に、推察した。


「なぬ? 一度、聞いただけで、そんなことがわかるのか……?」


 アルティナは驚いて目を瞬く。


「つくづく恐ろしい才能じゃのう。では、もしかすると気づいておるかも知れぬが、この魔法には欠点があるのじゃ。

 それは自分より強い敵には、効きにくいということじゃ。格下と戦わずに退けるための魔法じゃな」


「強大な竜王が使ってこそ、最大の効果を発揮するということだね」


 今の僕だと、多分、あまり効果を発揮しなさそうな魔法だ。


「だけど、鼓膜を破るほどの大声で敵の気をそらしたり、魔法詠唱の集中を妨害したりといった使い方はできそうだ。応用範囲は、だいぶ広そうだね」


「……な、なるほど。そんな使い方もできるのう。気づかなかったのじゃ」


 アルティナは感心した様子で、頷いた。

 それからアルティナは、詠唱に必要な呪文をゆっくり何度も教えてくれた。


 あとはこれを、頭の中で再現して術式を編めば、無詠唱で使えるハズだ。

 とりあえず、スライム相手に練習してみようかな。


「ぎゃぁあああ! 助けて助けてくださいにゃ!」


 その時、涙目の猫耳少女が、茂みをかき分けて現れた。脱兎のような勢いで、何かから逃げている。


「待て! 大人しく生け贄になれなのにゃ!」


 彼女を追いかけて、凶悪そうな人相の猫耳獣人たちが現れた。


「はっ、なんじゃ、こやつら!?」


 慌てた猫耳少女は、アルティナと衝突しそうになって、すっ転んだ。

 事情はよくわからないけど、追っ手は生け贄とか物騒なことを叫んでいる。放ってはおけない。


 一瞬の判断で、僕は猫耳少女を助けることにした。


「【竜王の咆哮】(ドラゴンシャウト)!」


 魔法を発動させると、耳をつんざく咆哮が轟いた。ビリビリと空気が震える。


「にゃにゃーん!?」


 猫耳少女がうずくまり、追っ手の猫耳獣人たちは目を見開いて失神した。


「あ、あれ、みんな気絶してしまったのにゃん?」


 猫耳少女は呆けた顔をする。


「すごいのじゃ。もう【竜王の咆哮】(ドラゴンシャウト)をモノにしてしまったのか!? しかも、効果対象をこやつらだけに限定したのじゃな!?」


 アルティナが感嘆の声を上げた。

 【魔法基礎理論】を深夜まで読んで、竜魔法について勉強していたおかげだ。


「基礎魔法だったから、なんとか即興でできたよ」


 実際のところ、狙い通りに発動できるかは未知数だった。


「基礎魔法と言っても……わらわは一ヶ月は、使いこなすのに時間がかかったのじゃが……」


 アルティナは何やらショックを受けた様子だった。

 僕は猫耳少女に手を差し伸べる。


「キミ、大丈夫だった?」


「あ、ありがとうございますにゃ! おかげで助かりましたのにゃ! 今のは、魔法ですかにゃ? すごかったのですにゃ!」


 猫耳少女がキラキラした尊敬の眼差しを向けてきた。

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