9話。兄の飛竜を配下に加える
夕方、アルティナは小型の飛竜を一匹捕まえて帰ってきた。
他にも背負ったバックパックに、木の実や果物を満載していた。
「カルのバフのおかげじゃな。地上から岩を投げて撃ち落としてやったのじゃ!」
アルティナは飛竜の尻尾を掴んで、引きずって家の中に運び入れる。
可憐な少女がそんなことをしている光景は、なんともシュールだった。
「あれっ、この飛竜って確か……」
僕は目を回してグッタリしている飛竜に見覚えがあった。レオン兄上の配下の飛竜だ。
「なぜ、この島に? ああっ、もしかして、古竜の調査に来たのかな?」
古竜が近くの無人島に巣食っているとなれば、王国も放置できないだろう。
「今から解体して、ドラゴンステーキにするのじゃ! 飛竜は食用としても、美味いのじゃぞ」
アルティナが張り切って、腕まくりする。その言葉に飛竜が目を覚まして、慌てて逃げようとした。
「こらこら、逃げるでない」
しかし、アルティナがガッチリと尻尾を掴んで離さない。
「あっ、いやいや。この子は知り合いなんで、かわいそうだよ。放してあげて欲しいな」
もがいていた飛竜が、僕の一言に目を輝かせた。
「なぬ……? しかし、この場所を知られてしまったぞ。コヤツの口から、隠れ家の場所が漏れては困ったことになるのじゃ」
「確かに……いや、待ってよ」
僕の読心魔法なら、飛竜の心の声も聞けるハズだ。
ドラゴンをテイムするやり方は教わっていないけど、交渉して僕の味方になるように説得することができるじゃないか? 試してみよう。
『うぉおおおおん! カル様、殺さないでください。なんでも言うことを聞きます。手下にさせていただきますから! お願いします!』
読心魔法を発動させると、飛竜の心の声が聞こえてきた。
飛竜は泣きながら、必死に頭を垂れる。
「なんじゃ。簡単に主を裏切るとは、情けない飛竜じゃのう。カルの配下にふさわしいとは思えぬが?」
アルティナにも言葉が伝わっていたようで、彼女は憮然とする。
『め、めめ、冥竜王様! それなら【主従の誓約】を! もしカル様を裏切ったら、命を差し出すと約束します!』
飛竜はアルティナの素性を理解しているようだった。怯えまくっている。
「ふむ? 誓約による絶対服従か。そこまでの覚悟なら……まあ良かろう」
アルティナは納得したとばかりに頷いた。
「アルティナ、誓約って?」
「我ら竜王は『腹心に対して、もし裏切ったら命を奪う』という魔法による誓約を課すのじゃ。双方合意の上の呪いの一種じゃな。この誓約を交わした者なら、信用して側におけるという訳じゃ」
なるほど、それなら裏切られる心配は全くない。
「ステーキにしてやろうかと思ったが、カルに忠臣をプレゼントするのも良いのじゃ。おぬし、名前は? さっそく誓約を交わそうぞ」
『はっ、は、はい! あっしはアレクサンダーと申します! あ、あの、良くわからないのですが、冥竜王様とカル様は、どういうご関係で……?』
「わらわは、カルの妻兼、母親じゃ。よく覚えておくのじゃぞ」
なんだそれは……
飛竜アレクサンダーも困惑した様子だったが、必死におべっかを使う。
『つ、つまりは、カル様は冥竜王様の一族ということですね! わかりました。これからは、このアレクサンダーをおふたりの配下として、こき使ってください!』
「うむ。殊勝な心がけじゃな」
アルティナはこういうやり取りに慣れているようで、鷹揚に頷く。
「飛竜が配下になってくれたら、食料探しもはかどりそうだね。ありがとう、よろしく頼むよ」
まさか、僕が飛竜を配下にする日が来るとは思わなかった。
アルティナが竜魔法による誓約をアレクサンダーと交わす。どす黒いオーラのようなモノが、アルティナから溢れだして、アレクサンダーの口に吸い込まれていった。
「誓約は成ったのじゃ。今日からおぬしは、死す時までカルのために尽くすのじゃ。その代わり、この冥竜王アルティナが、おぬしを庇護すると約束しよう。これからは冥竜王の眷属を名乗るが良い」
『はぃいいい! 身に余る光栄! ありがたき幸せです! これからはレオンではなく、カル様をご主人様とお呼びいたします! そうそう、レオンからカル様を探して来いと命令されていたのですが……』
「レオン兄上が……? どういうことだろう?」
『さあ? あっしにも理由までは……とにかくカル様を見つけ出せ。古竜の偵察をして来いということでした。
古竜の近くを飛び回れなんて恐ろしくて、寿命が縮む思いでしたよ』
「今さら僕に戻って来いということ……?」
意味不明だった。父上も兄上も僕を捨てたハズだ。
「僕はヴァルム家、もう戻るつもりはないだけどな……下手に捜索などされて、アルティナの存在がバレたら厄介なことになりそうだ」
「ぬぉお! わらわのことまで考えてくれるとはありがたいのじゃ! 確かに竜殺しのヴァルム家などに目をつけられては、困ったことになるからのう」
アルティナは身を竦めた。
「うん。それこそ、力を封じられた冥竜王を倒して名声を得ようなどと、レオン兄上や父上なら考えると思う」
アルティナのためにも、実家に僕の捜索を断念させる必要がある。
「そうだ。僕の上着を遺品として持って帰って、僕は死んだと報告してくれないか? アレキサンダーの爪で引き裂いて、獣の血をつけて偽装すれば、それっぽく見えると思う」
『はい! わかりました、お安い御用です!』
アレキサンダーが頷く。
僕の家族はアルティナだ。もう実家には
何の未練も無かった。
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