5話。人間で唯一【竜魔法】を使えることがわかる

「おいしぃいいい!? えっ、何、この肉?」


 僕は肉汁のしたたるステーキに、舌鼓を打った。

 アルティナが僕のために用意してくれたご馳走の中でも、これは格別だ。こんなにうまい肉は食べたことがなかった。


「口に合うようで良かったのじゃ! それはカルが倒した地竜がドロップした【竜の霊薬】をかけた鹿肉なのじゃ」


 アルティナが手を叩いて喜んだ。

 そうか、これが【竜の霊薬】の効果か。

 上位竜は倒すと【竜の霊薬】という特別なアイテムをドロップする。


 これは料理をおいしくする究極の調味料であり、口にした者の能力値、特に魔力量(MP)を高める効果がある。


 ヴァルム侯爵家の晩餐には、【竜の霊薬】を使った料理が上がることがあった。


 無論、僕は一口も食べさせてもらえず、いつも疎外感を味わっていた。

 貴重な【竜の霊薬】を魔法の使えぬ欠陥品に与える訳にはいかないと言われた。


「カルは人間とは思えぬ魔法の使い手じゃが、魔力量(MP)は低いようじゃな。

 【竜の霊薬】を口にすれば魔力量(MP)が高まるぞ。遠慮なく全部食べて欲しいのじゃ!」


「……これをホントに、僕が全部食べて良いの?」


「当然じゃろ? カルが討伐した地竜のドロップアイテムじゃぞ!」


「……僕が上位竜を倒したなんて、未だに信じられない」


 何しろ2年前に無詠唱魔法がひとつ使えるようになっただけで、それからずっと新しい魔法が習得できなかった。独学の限界だ。


 僕の魔法の使い方は特殊なので、どうすればこの壁を突破できるのか皆目見当がつかなかった。


「その歳でこの実力だとすると。おぬしはいずれ、竜王を超える存在になるかも知れぬのじゃ」


「なんだって……?」


 それはいくらなんでも大袈裟過ぎる気がするけど……


「でも【ウインド】に【読心】と、さらに魔法のレパートリーが増えた。これなら母上の名誉挽回もできそうだ」


「母上の名誉挽回じゃと?」


 アルティナが首を傾げる。


「僕の母上は、ヴァルム家の血統に呪いを持ち込んだって、ずっと罵倒されてきたんだ。

 でも僕がドラゴンスレイヤーとして一流になれば、その評価は覆る。母上は何も悪くなかったと、父上たちに認めさせたいんだよ」


 僕の母上は、呪いを僕に遺伝させたことを謝ってばかりいた。

 母上の墓前に、もう謝る必要なんか無い、と胸を張って報告しに行けるようになりたい。


「おぬしは、そのために独学で無詠唱魔法を勉強してきたのか……? くぅっ」


 アルティナが僕をギュッと抱擁する。その目尻には、涙が浮かんでいた。

 もしかして、涙もろい?


「よし、わらわが全面的に協力してやるぞ! ……うん、と言っても、わらわは人間の魔法は知らぬが。基礎的な魔法訓練はできるのじゃ」


「アルティナ、良かったら僕に【竜魔法】を教えて欲しいのだけど」


 僕は駄目で元々で尋ねてみた。

 【竜魔法】とは、竜にしか発音できない竜言語を使った魔法だ。


「ぬっ? 残念じゃが、【竜魔法】は、人間には詠唱不可能……いや、そうかカルは無詠唱魔法の使い手じゃったな! それなら発音の必要はない。【竜魔法】が使えるやも知れぬぞ!」


 アルティナはパッと顔を輝かせた。

 無詠唱魔法の最大の利点は、ここにある。

 かつて古代人たちは、竜や精霊、天使たちの言語すら解析して、彼らの魔法を取り込み、高度な魔法文明を築いていたという。


「それじゃあ、僕に【竜魔法】を教えてくれるかい?」


「もちろんじゃとも! じゃが、今のカルは魔力量(MP)が少なすぎて、【竜魔法】の使用には耐えられぬと思う。まずは、魔力量を増やす修行を地道にやる必要があるのじゃ」


「ありがとう。ぜひ、よろしく頼むよ。【竜魔法】を覚えて、アルティナことも守れるようになりたいと思う」


 アルティナも聖竜王から呪いをかけられて苦しめられている。自然と母上とアルティナが重なった。

 聖竜王の手下が、アルティナを狙って来るなら、僕がそれを阻止してやる。


 冥竜王に味方するなんて、竜狩りのヴァルム侯爵家としては絶対に許されないことだけど。僕は実家を追放された身だ。

 父上や兄上に気兼ねせず、これからは僕のやりたいこと、僕が正しいと思ったことをやるんだ。


 それに僕は魔法を立て続けに習得して、魔法のおもしろさに目覚めつつあった。

 魔法で今までできなかったことが実現できるようになる。それは、病みつきになりそうなくらいに楽しいことだ。


「うわぁああああっ! 大感激なのじゃあ! おぬし、めちゃくちゃ良い奴じゃの!? わらわと将来、結婚するのじゃ! いや、今すぐするのじゃ!」


 アルティナが僕に頬摺りしてきた。


「いや、僕は14歳なんで、今すぐ結婚というのはちょっと!?」


 柔らかい感触に、僕はドキリとしてしまう。

 こうして、僕とアルティナとの共同生活が、始まった。

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