第142話 メルが怖い


「酷いです……幾らなんでも負けたからって吸血鬼にされるなんて」


「煩いのですわ! 弱者の癖に偉ぶった貴方が悪いのですわ! 此処まで弱いなんて思いませんでしたわ! 黙りなさい!」


「……黙ります」


凄いな、眷属になってしまったからもう逆らえないんだ。


ちょっとだけ僕も良心の欠片が痛むよ。


「大体、真祖のバンパイヤに噛まれたのにその態度、凄く気にくわないですわ! 本来なら感謝してですね、涙ぐむ物ですわ! それが『酷いです』ってなにかしら?」


「……」


「何故黙っているのかしら? なにか言いなさいな」


「……カーミラ様が黙るように言いました」


だけど、余り酷い事した気がしないのは何故だろう。


「コホン……そうですわね! 良いですか? 私の眷属になるには本来なら何十年も私に仕えて、老婆になる頃に私から慈悲を貰い下層吸血鬼になれるのです! そして、ゾンビのような生活を送り、体が腐っていく恐怖のなかそれでも私に忠誠を持つ者の中から私が認めた存在のみが本物の吸血鬼、眷属になれるのです……良いですか? 人間で言うならスラムの住人……いえ只の虫けらがいきなり上位貴族のような存在になれたのです! その栄光に感謝するが良いですわ! こんな待遇普通はしませんわよ!」


「ですが、私は教会の人間です! 吸血鬼になってどうやって生きていけばよいのですか?」


僕が説明するべきだよね。


「それなら大丈夫だよ! カーミラはルシファードおじさんが紹介してくれたお見合い相手で僕の婚約者なのは教会関係者は知っているし、教皇のロマーニおじちゃん公認だから何も問題無いよ」


「そうですか……」


「そうですわ! しかもバンパイアだから何百年も生きられて、若いままなのですわ! 今現在でもさっきの数倍は強くなりましたのよ! 更に強くなりたいなら、眷属ですから、私が幾らでも稽古をつけて差し上げますわ……この環境で文句があるのですか?」


「ですが……血、血はどうするのですか?」


仕方ないな……これあげるか。


「はい、ブラッドジュエルキャンディ」


「指輪型の飴ですか?」


「基本的に、最高の血の味がする飴で舐めていれば血を吸ったのと同じだから、美味しさはカーミラさんお墨付きだから大丈夫だよ!」


「そうですか……あっ美味しい、ほっぺが落ちそうです」


「良かった」


「真祖の私と同じ持ち物など、新しい吸血鬼には分不相応ですわ。 それは吸血鬼なら誰もが欲しがる最高のアイテムなのですわ! セレナ様に感謝し、私達に忠誠を……あいたっ!」


「僕の頭を叩くなんて……あっああーーっ」


「痛いっ! あっ、メル……」


いつのまにか後ろにメルが立っていて僕たちにゲンコツを落とした。


「私、用事を思いだしましたわ……メル様、ではごきげんよう!」


「あっ、ずるい、カーミラ、だったら僕もドラゴンウィング」


「聖なる落雷魔法……ホーリーサンダーーー! これは落雷の魔法に聖魔法を編み込んだ私のオリジナルだからバンパイアにも効くわよ? それとセレナくぅーーん! なに逃げようとしているのかな? その羽たたもうか?」


可哀そうにカーミラさん焼けて落ちてきた。


「はい」


「アークス、貴方軍神、神でしょう? もう少し自重しようか?」


「お前、本当にあのメルか? ゼクトと一緒に俺と戦って泣きわめいていた……」


「アークス……責任ある事は全部押し付けられてね……ムスコン女神やバウワーの相手をさせられていれば、こうなるの! 遠慮なんてしていたら……面倒事全部押し付けられるのよ……強くもなるわ! 良いからそこに座りなさい!」


「「「はい」」」


ううっ、なんでだろう?


僕は女神と竜公の子供なのに、メルを相手にすると逆らえない。


アークスも、その横で少し焦げたカーミラさんも一緒にそして被害者の筈のアリエスも正座している。


「セレナくんあれ程自重して欲しいと言ったのに……なんでこんな事しているのかなぁ?」


「僕とアークスは稽古つけて欲しいというアリエスの要望に答えただけなんだよ……」


「そうです! 皆さまは私の要望に答えて……」


「アリエスは黙って! 私はセレナくんとアークスとそこの吸血鬼に聞いているの!」


「私はセレナ様にそこの小娘を鍛えてあげて欲しいと言われて鍛えただけですわ! 生死を掛けた戦いについてレクチャーしただけですわ」


「そう……そこ迄は解った……それでどうしてアリエスが吸血鬼になっているのかな? そこの所、説明してくれる?」


あっ! メルの額に青筋が立っている。


これはかなり怒っているな……


「ふぅ、これだから人間は嫌なのですわ! 吸血鬼になれば楽に強くなれるのですわ! これでアリエスは元の5倍……何をしていますの?」


メルが懐から銀色の銃を取り出した。


「この銃は私のオリジナルなのよ……弾はシルバー。 その昔マモンの目を奪ったという教皇様が清めた弾丸を私が魔法で再現したのよね……これなら、狼男だってバンパイヤでも死ぬかも……真祖でも凄ぉぉーーく痛いんじゃないかな? どうかな? アークスがマモンの時に目が潰れたって聞いたけど……これなら真祖にも……」


「す……すみませんですわ……私が悪かったのですわ……そんな目で見ないで……そんな物向けないで下さいませ……」


「反省したならいいわ! 二度目はないからね……行きなさい」


「はい」


あっ! カーミラさん蝙蝠になって凄い勢いで飛んでいった。


ずるい。


「それで……セレナくんやアークスはどうするのかな?」


「ごめんなさぁぁい」


「迷惑かけて済まなかった」


謝るしかないよね。


「ふぅ、仕方ないわね……その子を吸血鬼にしてしまったんだから、ちゃんと最後まで面倒見る事……いいわね……今回はそれで許してあげるわ」


「ありがとうメル」


「本当にすまなかった」


「ハァ~頼むから、出来るだけ普通に過ごしてくれる? いい加減自重を覚えようか? 常識も覚えてね! それじゃ今回は良いけど……次は無いからね……」


メルはそう言うと魔法で空を飛んで去っていった。


「はぁ~助かった」


「そうだな、しかし俺は完全に巻き沿いだよな……」


「ああっ、ゴメンね」


「あのぉ、私はどうすれば良いのでしょうか?」


「アリエスも悪かったね……でも半分不老不死だし、何時までも若いままでいられるから、悪い事じゃないよ? そのブラッディジュエルキャンディと……そうだお詫びにこれあげるから許して……はい」


僕はアイテム収納から一振りの剣を取り出して渡した。


「これはなんですの?」


「僕が作った剣だけど……お詫びにあげる」


「本当にこれをくれるのですか?」


「うん、お詫び……それじゃもう行っていいよ」


「………おい」


「ありがとうございます! 家宝にしますね」


アリエスは笑顔で、喜びながらその場を去っていった。


「おい、あの剣って創造神様の剣に近づける為に作った剣じゃないのか?」


「うん、結局作れなかったんだよね。その時つくった失敗作だよ」


「あのなぁ、お前にとって失敗作でも、あれ神剣だよな? 聖剣を超える物をあげちゃ不味いんじゃないのか?」


「あっ……アークス……」


「メルにまた怒られるんじゃないのか? 俺は知らんぞ」


「どうしよう?」


「知らん」


その一時間後、僕はまたメルの前で正座させられていた。



◆◆◆


ああっもう、また胃がシクシクするし.....


神の子ってもうなんなのよ......


真祖につぐ強いバンパイアの誕生......昔だったら国単位で問題になるわ。


ハァ~ だけど、セレナくんがやったら、誰も文句言わないのよね......


何をやっても無駄だし......


ムスコン女神もセレスもゼクトも教皇もあてにならないし.....


仕方ない、凄く胃が痛くなるけどバウワーにでも相談するしかないのかな......


胃が痛い......セレナくんから貰った胃薬飲んで寝よう......ハァ~





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