第134話 メルSIDE 卑怯な勝利


ああっ、胃がシクシク痛み出したわ。


ううん、なんとなく解かるの……


多分、これから嫌な事がおきる前兆だわ。


きっとセレナくんがまた何かやったのかな……


嫌だなぁ~


こういう予感は必ず当たるのよね。


トントントン


「メル様、入らせて頂きます」


「なんだ、エドガーか良かったわ……」


うん、本当に良かったわ。


セレナくんじゃない。


「それで、エドガー今日は何の用?」


セレナくんはセレスに打倒アークスの修行でもつけて貰っている最中だから、そんなわけ無いか。


自分が無関係だと思うと……気が楽だわ。


「はい、実はセレナ様から頼み事をされまして、こうして来たわけです」


セレナくん……


「セレナくんがどうかしたの? セレナくんは今は打倒アークス目指して修行中でしょう?」


そうよね、あの状況なら今頃天界かな。


きっと、セレスやサヨ母さんに修行をつけて貰っている筈だわ。


ああっ?! 『セレナ様から頼み事』……まさか戻ってきたの……


「それが、先程戻ってきまして……そのお友達を入学させて欲しいと言う事です」


「そう? そうねセレナくんに友達が出来る事はいい事だわ! それで有力者からの紹介状はあるわけ?」


この学園は、王侯貴族やセレブな商人など、権力者の学校。


基本的に推薦があれば落とす事はしない。


まぁ、セレナくんの友達なら教会か王族絡みかな。


まぁ、許可しても大丈夫よね。


「はい、これから急ぎ郵送されてきます。 推薦者は教皇様です」


「それなら問題無いわ……それで何時から入学してくるの?」


「それが出来る事なら、今からお願いしたいのですが」


「まだ、私面接もして無いわよ?」


「それで、これからすぐにでも面接をして入学許可をお願いしたいのですが、お願いできないでしょうか?」


まぁ仕方ないか。


セレナくん絡みで教皇様絡み。


「本当にもう、仕方ないなぁ……いいわ連れてきて」


「はい、それじゃ廊下に待たせてありますので、アークス様お入りください!」


あああああっアークス……


「ちょっと待って! エドガーあなた……」


「久しいな、メルこちらで世話になる! 頼んだぞ!」


エドガー嵌めたわね。


あとで絶対に地獄を見せるわ。


顔を青くしているし確信犯ね。


折角、此処の所胃がシクシクしなくなったのに……また胃がシクシクし始めたわ。


「あら……アークス久しぶりね! あの時は随分とお世話になったわね! まだ通えると決まったわけじゃないのよ? 実技か筆記試験が必要だけど、流石に違う世界の存在に筆記は可愛そうだから、実技でいいわ。 実技試験で合格したら、入学を認めるわ」


「ほぉう、実技試験か? どんな試験だ!」


「大した事無いわ! 軍神かどんだけ凄いか試してあげる! 私の渾身の2撃。とっておきの魔法を受けて無事だったら入学を認めてあげるわ……どうかな?」


「ふっ、そんな事か? 俺は今や軍神だぞ! マモンの時にすら敵わなかったお前が勝てるとでも?」


「そうね、それじゃ2発勝負でいいわっ! 私の渾身の2撃、それに耐えられたら、合格よ!」


人間にとっての500年は永いのよ。


ありとあらゆる本を読み漁り、実験をしてきたのよ。


恐らく私より強い人間はこの世の中に居ないわ。


『人類最強』がどんな物か見せてあげるわ。


◆◆◆


「ほぉう、なかなかの修練場だな!」


「セレナくんがねぇ、壊すからかなりの結界を掛けたのよ! 今の貴方なら壊せるかも知れないけどね」


「ああっ、だがこの結界はなかなか手古摺りそうだな」


「メルーー本当にヤルの? 多分メルの魔法じゃ通じないよ?」


「メル様、やめましょう? 危険ですから」


セレナくんもエドガーも……煩いなぁ。


「大丈夫よ……アークスはただ受けるだけだもん! そうよね?」


「ああっ、2回受ければ良いんだよな?」


「そうよ……それじゃ行くわよ! フィールド展開! 50倍ホーリーウォール! 術式展開! 我が名はメル! 全てを破壊する最強呪文、大量破爆裂呪文を放つ者なりぃぃぃーーー! 」


この呪文の開発に500年かけたわ。


暇で暇で仕方なかったから、ひたすら研究尽くした呪文。


聖女が使うホーリーウォール。


それを磨いて50倍の結界に仕上げたのよ。


マリアのホーリーウォールでも複数の竜種でも壊れなかった。


その50倍の結界を張る。


そこに、山ですら簡単に破壊する大量破爆裂呪文を圧縮して放つ。


ふふふっ……受けてみなさい。


ドガァァァァァァァァァァァァンッ


重い音が結界内に走る。


「うがぁぁぁーーっ! ふんっ! これはなかなかの物だ! これならマモンの時の俺には通じたかもな、だが軍神の俺には効かぬ」


「ハァハァ、そう? だけど流石に無傷じゃないわね……約束は2撃よ? もう一撃あるわ」


「確かに……だが、今のがお前の最強の技じゃないのか? まぁ良いとっととやるが良い!」


最初の一撃はあくまで布石。


「それじゃ行くわよ……50倍ホーリーウォール! 対竜公用嫌がらせ魔法ハバネロウォーターボール……満たせ、満たせーーっ悪意の水よーーっ! これはあの黒竜にすら効いたセレスの技を魔法にし増幅した物よ? 耐えられるぅーーねぇ耐えられるかなぁ?」


セレスが黒竜に使った『ハバネロアタック』まぁ、怪我はしないだろうけど苦しい筈よね。


物凄く辛い唐辛子の数十倍の辛さの水の水槽に放り込まれたような物だもん。



「うぎゃぁぁぁぁぁーーー目が目が目がーーっあちこち痛ぇぇぇぇ、鼻から苦しいぃぃぃぃーーハァハァ死ぬう、死ぬぅーークソ、うぐっゴバッ辛ぇぇぇぇぇーーーうわぁぁぁぁーークソッ」


「あのアークスが苦しがっているわ! やったわ! 私遂にやったのよ!」


「メルぅ~大人気ないよ? それどんな生物でも痛がるよね? しかも、向こうは受けるだけなんだから、凄くズルいぉーー」


「メル様、勝ちたいからって見損ないました……そんな卑怯な事までして勝ちたいのですか?」


なに……その目……


「セレナくん、エドガー、なんでそんな目で見るのよ? なんで……」


「「……」」


「解ったわよ……解除」


「くふっ、痛ぇぇぇぇぇぇーー痛ぇぇぇぇぇーーよぉー」


「ウォーターシューター」


大量の水を召喚しかけてあげたわ。


そして……本来は聖女のみが習得する究極呪文。


「パーフェクトヒール! これで治療も終わり……」


「クソッ……俺は不合格か……」


「立っているじゃない? 合格よ……別に生徒は教師に勝つ必要は無いわ……何処まで出来るか見るだけのテストだもん! それじゃエドガー、後は任せたわ。それじゃアークス『学生の本分』を忘れずに頑張りなさい」


「ああっ」


かなり卑怯だけど、勝ちは勝ちよね。


◆◆◆


「きゃっきゃっ! うわぁーい!勝った、勝ったアークスに勝っちゃった! やったぁぁぁぁーー!」


「学園長どうしたのかな?」


「随分ご機嫌だよね?」


「見てみぬ振りしてあげなさい」


その日笑顔でスキップしているメルを沢山の生徒が目撃した。



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