第116話 悔しい


殺し殺され、戦いは続く。


アークスの拳に何故か僕は愛情すら感じるようになった。


ただ、僕を殺す為の拳。


だが、この拳が僕になにかを語りかけてくる様な錯覚を覚える。


「がはははっ、セレナーー! どうだ男同士の殴り合いわぁぁぁぁーー」


僕は脳筋は嫌いだった筈だ。


それなのに……今この瞬間痛いけど、それだけじゃない何かが芽生えた気がする。


「僕は暴力的な事は嫌いだった筈なんだ……ハァハァだけど、悪くない」


「そうだろう? 俺は凄く楽しいぞ! こんな楽しい気持ちになったのはマモンの時を含み5回も無い」


アークスは余裕がありそうだが、僕には無い。


アークスの拳を避けているだけで精一杯だ。


「そう……ハァハァ」


「そうだ! 俺はもう両親やかっての魔王様の名前や創造神の名前は忘れてもお前の名前は忘れぬ」


当たり前だろう。


「当り前じゃないか? 殺しあった相手なんか忘れるわけない」


更に僕は『ブラックドラゴンフライ』の目の力を使った。


この虫はトンボの仲間で、その中でも更に動体視力に優れた虫だ。


殺し合いをしている。


それなのに、アークスに特殊な感情が沸くのは何故だ。


そう……まるで兄弟、親子……気の迷いだよね。


「そうか、そうかお前も俺と同類のようだな! 大昔に虫の力を使う勇者と戦った時はそいつは『愛する者』の為に戦った」


慣れて来たのか、アークスの拳が見えるようになってきた。


「そう? それで……」


「お前の親、セレスと戦った時はあいつは友情の為に俺の前に立ちふさがった」


「そう? セレスお父さんはゼクトお兄ちゃんの為に戦った。なんだか聞いた記憶があるけど?」


「俺は自分の欲を満たす為に、戦う意思のない者や弱者と戦ってきた。だが、それでは心が満たされなかった」


「そう……」


体が慣れてきたのか、普通に躱し呼吸も問題ない。


「だが、お前は違う! その目だ……お前は俺によく似ている」


「僕の何処がアークスに似ているって言うんですか?」


「セレスとは違う! 嫌々戦っているのではなく楽しそうに戦っているじゃないか?」


「ああっ、もう否定はしないよ! 確かに楽しい……」


「そうか、それなら良かった! これが今の俺の最強の技だ!」


アークスの拳が輝き始める。


「なっ……」


此処からまた速くなるのか……


「シャイニングゴッドパンチーー」


「ぐはぁ……うっうっうわぁぁぁーー」


お腹に風穴があいた。


しかも、重要な臓器が消し飛んでいる。


僕は半神半竜だから死なない。


だけど……もう立てない。


悔しい……僕の負けだ。


「今度こそ終わりのようだな」


「ハァハァ まだ僕はいけるよ」


「そうか……だが、悪いな時間のようだ」


「時間?」


「俺は上位世界の軍神だ。この世界の神じゃ無い、そろそろ顕現していられる限界の時間だ」


「……ハァハァ……そう? グハァ……ハァハァ」


「まぁ、なんだ! また来る。それじゃセレナ……つぎ会うのを楽しみにしているぞ」


そう言うとアークスは消えていった。


悔しい……結局僕はアークスに勝てなかった。


『悔しい』


悔しいよーー


本当に……本当に悔しい……


心が張り裂ける程に悔しい。

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