第108話 戦前


「ああっ、なんでこんな事が起こるのよ! この感覚、体が震える……まさか、彼奴が来る。暴力、恐怖の象徴、あれよ、死にたくない。彼奴と戦えるような存在は、セレスしか私は知らない……もしかしたらこの世界が終わるかも知れない」


学園長室の中で、私ことメルは恐怖を感じていた。


長年生きたからこそこの気配が解る。


この世界のどこかに、あのマモンの気配を感じる。


しかも……あの時より強い。


あれから、私も相当強くなったけど、昔以上に差は開いた。


だけど、私が……私がやらないと、世界が終わるかもしれない。


「メル様、この気配は……まさか!」


「流石、エドガー、勇者一族だけあって気がつきましたか? 恐らくマモン……いえ、軍神アークスですね」


「世界が終わる……」


「なんて、シリアスに考える事はないわ! 死んでも冥界に行くだけだし……死後の世界がある事を知っている以上、怖くはない」


「そうですね……死んでも住む場所が変わるだけ。どんなにアークスが強くても冥界竜バウワー様には瞬殺されるでしょうから」


「ですね、ですが、悪あがき位は人類最強の守護者の名前を背負っているからやりますか? 貴方はどうすしますか?」


「これでも勇者の血筋ですから」


「言っておくけど、マモン相手に戦った時はゼクトと一緒に負けたのよ」


「勇者ゼクト様が負けた……そうでしたね……あははは」


まぁ、死後の世界が約束され、そこには懐かしい仲間が沢山いるんだから、私にとって死は怖くない。


寧ろ、そこが天国だよね。


「メル様、なんじゃこれわ」


「凄い気ですね……これは敵ですか?」


「妲己さん、カーミラさん、流石に感じますか? 異世界から軍神が攻めてきたみたいですね。お二人はどうしますか?」


「メル様はどうするのじゃ? 戦うのか?」


「それを聞いてからですね」


「私は因縁の相手ですから、戦います! それに私はこれでもセレナのお姉ちゃんですから、少しは良い所を見せたいものです」


「なぁ、そう言う事言われたらわらわはセレナの婚約者じゃ。やらぬわけにいかないじゃろうな?」


「まぁ、そうですわね」


この二人、ただ者じゃないわ。


恐らく、昔のゼクトなんて比べられない位の強さがあるわね。


これにセレナくんが加われば、勝てるかも知れないわ。


◆◆◆


「へぇ~軍神アークスがこの世界に来たんだ」


「セレナくん、なんでそんな落ち着いているの? 貴方のお父さんのセレスですら勝てなかった相手なのよ!」


セレスお父さんから話は聞いた事があるよ。


凄く強いって聞いた。


確かに僕も大きな気は感知したけし……強いと思うよ。


だけど、バウワーおじちゃんに比べれば小さい。


僕じゃ勝てないかも知れないけど……そんなに強いのなら一度戦ってみたい。


そう思った事もある。


僕は自分が強いのか弱いのか今一解らない。


自分がどの位の力があるのか、知りたい。


そう思った事がある。


自分の能力を知る良いチャンスなのかも知れない。


「あのさぁ、メルも妲己さんもカーミラさんもついでにエドガーも怖がる事は無いよ? 来たら僕が一対一で戦うから」


皆、体が震えているし、顔色も青い。


まして三人は女の子なんだから、そんな状態で戦って欲しくない。


僕が頑張れば良いんだ。


「セレナくん無茶言わないで死ぬわよ」


「わらわも加勢するぞ」


「私も参戦しますわ」


「俺だって」


「幾ら強くても相手は1人なんでしょう? 大勢でやるのは良くないよ……大丈夫僕が頑張るから」


メルたちは何か言いたそうだけど、敢えてここで僕は話を終わらせた。







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