第105話 妲己、カーミラSIDE 悪女の天敵

わらわの名は妲己。


稀代の悪女だった筈なのじゃが……


そして、横にいるのがカーミラじゃ。


こいつもわらわと同じように悪女だったはずなのじゃが。


「これ、本当に凄いですわね」


「本当に凄いのじゃ……これが神の血を引く者の力じゃな」


「ええっ」


セレナの前じゃ悪女なんて成立しない。


欲しい物を好きなだけ与えられたら悪女なんて成立しない。


良く悪役令嬢なんて言葉を耳にするのじゃが、全てを手に入れた時点で成立しなくなるのじゃ。


権力が欲しい? 女神と国単位で敵わない竜の血を引いた息子。


神との婚姻。王なんかと比べ物にならないのじゃ。


お金? 魔法一つで宝石でも金でもざっくざくなのじゃ。


大体、無理難題の『酒池肉林』ですら簡単に実現できるのじゃから、出来ない事なんてないと思って良いんじゃないか。


「妲己に聞きたいんだけど? 貴方も大概な悪女よね?」


「まぁ、物凄い悪女として有名じゃな。そしてあのヘラという女神様もかなりの悪女じゃ」


「それで聞きたいのだけど、悪女って全てをくれる存在の前では成立しないと思わない?」


「そうじゃな……わらわもそう思っていた所じゃ」


「不老不死に最高の血に……それだけでも殆どの女吸血鬼は跪きますわ。セレナ様にはその先がありますから」


「昔どこかで「世界をあげよう」なんて言う言葉を聞いた事があるが、まさか本当にそんな事が出来る存在がいるとはのう驚いたのじゃ」


もう野望も何もないのじゃ。


今迄の自分の生き方すら、真向から否定されたのじゃ。


何百年も欲しがっていた物も、こうして簡単に手に入ると、もうなにもヤル気が起きないのじゃ。


「しかし、この温泉凄く気持ち良いですね。血の湧く泉と交互に入って、もう天国みたいですね~」


「わらわは極上なお酒が飲み放題、そして最高の肉肉肉、それにこの温泉は最高なのじゃ」


「そうですね~ですが、酒池肉林の肉はそれじゃないでしょう?」


「そうじゃな……」


「それで、貴方が望む肉はどうなのかしら?神の息子という聖人ですから、そればかりは望んじゃ駄目ですかね」


「それが、カーミラ! セレナ様は竜の血が入っていて、女神ヘラ様のお話では絶倫らしいのじゃ」


「ごくっ!?絶倫……なのですか?」


「まだ、子供じゃから、そういう意識が無いのじゃが、父上のセレス様は無限に近い精力を持っておって数週間やりっぱなしだったそうじゃ。だが、それも妻が人族だから労わっての事。本気をだしたら、年単位でやれるそうじゃ」


「年単位……ですか?」


「竜の王族に連なる血も引いておるのじゃ、当たり前といえば当たり前じゃろう?」


「それじゃ、数年で、妲己の言う『本物の肉』も手に入るのですね」


「そうじゃな、わらわ達の体が持つか心配な位じゃな……もう欲しい物は流石に無いのじゃ」


「私も同じですね」


悪女の最大の敵は神だったとわかってしまったのじゃ。


全ての願いを完璧に叶えられたら、悪女なんて存在しない。


この世の全てを与えられてしまったら……どんな悪女もただの女になるしかないのじゃ。





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