第86話 お見合い前 4つの物語


◆◆冥界◆◆


「バウワーおじちゃん」


「いつも思うのじゃが一体どこから入ってくるのじゃ、此処は冥界。竜公ですら自分の意思で入って来れる者は少ないのに…」


「いつも、同じ事言うけど…解らない」


本来は儂が招くか死んだ者しか入って来られない冥界。


そこにこうも簡単に入って来れる存在となれば、セレナは冥界竜になれる素質がある。


12歳でこれなら、下手したら将来は竜公すら超える可能性が高い。


この子供が将来、この世界を担う一柱になるなんて今言っても誰も信じないだろうが…


何時かは、セレスを越え、イシュタスすら超えるかも知れぬ。


尤も、儂が死なないから…セレナは冥界竜にならないかも知れぬが。


1000年も経てば…代理人として冥界の支配を任せても良いかも知れぬ。


「それでバウワーおじちゃん、僕のお見合い相手なんだけど?」


「その話か? スカルキングと話して異界の女神に決まった…儂は竜ゆえ解らぬが、たいそう美しい女神でヘラという。セレナの好みにあっているとスカルキングが言っておるから間違いない」


「女神かぁ~イシュタスママと同じだ」


「そうだな」


恐らく、一神教の女神では無いから『全知全能』の能力はイシュタスみたいに無い。


だが、神格はかなり上だ。


セレナはまだまだ子供。


子供が国を簡単に壊せる力を持っている。


当人は問題無く善だが、誰かに利用されると困る。


それゆえ、『好み』以外にもセレナを導ける相手、そういう意味で選んだ。


あの女神なら、母性の神、きっとセレナを良い方に導いてくれるだろう。


「それで何時、お見合いをするの」


「それなら、ルシファードと話し合いの上、合同で行う事になりぞうじゃ、恐らく1週間のうちには日時を決めるから楽しみにしておれ」


「うん、解った」


純粋な『力の塊』それがセレナじゃ。


やはり彼女を選んで正解だったな。


◆◆魔国◆◆


「ルシファードおじちゃん、遊びに来た」


本当に凄いな。


ここは魔王城、普通なら誰もが入ってこれない。


それが誰にも気がつかれないで直接玉座にたどり着く。


「よく来たなセレナ、今日はお見合いの話かな?」


「うん、どんな人なのかなって思って…」


「一人は金髪のなかなかの美人だ、こちらは凄く乗り気でな、すぐにでもセレナのお嫁さんになりたいって言ってきた」


「へぇ~そうなんだ、楽しみ…あれ、1人はって事はもう一人居るって事?」


「ああっ、静子の母国の…」


「えっ、静子お母さんの国の人なんだ、楽しみ~」


「ああっ、セレナ、それなんだが…先方が断」


「ねぇ、日本人って言うんでしょう? なかなか黒目、黒髪の人に会えないんだよね、凄く楽しみ…ありがとう、ルシファードおじちゃん」


「ああっ、楽しみにしていてくれ」


駄目だ、この目で見られたら『断られた』なんて言えない…


「それじゃルシファードのおじちゃんまたね」


「ああっ」


駄目だ、先方に頭を下げてせめてお見合いだけでもしないとまずいな。



◆◆異界の魔◆◆


「わらわは断ったのじゃ」


「すまぬが、先方からどうしてもという話だ、力関係から断れない、ミス妲己」


「嫌じゃ、あそこに行くのは嫌じゃ!」


「この私がこんなに頼んでいるのに駄目かね!お見合いを受けた後、断れば良いのだ…この通りだ」


「わらわは…わらわは…正直に言う怖いのじゃ…」


「怖い? 確かに凄い実力者だがまだ12歳の子供だ、齢1000年以上を生きた妲己ともあろう者が…」


「あれは暴力の塊なのじゃ…わらわと違い、その気になれば正面から国どころか世界が滅ぼせる存在なのじゃ…こわいのじゃ」


「ミス妲己…九尾とも呼ばれて恐怖で支配してきた妲己なら解る筈じゃないか? そんな存在を袖にして大丈夫なのか?」


「どういう事じゃ?」


「そういう存在が頭をさげて頼んできているのに断ったらどうなるかミス妲己が解らぬはずないんじゃないか? 自分ならどうした?」


「拷問の末…殺す…」


「断るなら構わぬが…自分で断れば良いじゃないかね? ミス妲己」


「ううっ、ううっわらわは…わらわは…」


「受けるしか無いだろうね…我々みたいな存在は上位の者には逆らえない…せいぜい愛想を振りまいて可愛がって貰う、それしか無いね…」


「ベアード様…どうにか」


「諦めたまえ、私の実力はミス妲己にようやく勝てるだけ、ミス妲己がそこ迄怯える相手をどうにか出来るとでも…それにそこ迄の義理も無い」


「ドナドナじゃ…わらわはドナドナじゃ」


此処まで怖がるのも良く解る。


あのルシファード程の強い魔王が頭をさげて私に頼む存在。


こうもなるわ…それに…


「ふひひひっ…セレナ様との結婚、楽しみで溜まりません…何時なのですか?結婚は何時…私は何時嫁げるのですかぁぁぁぁぁーーー」


これなんだ?


あの恐怖の象徴の真祖のバンパイア、カーミラが狂ってしまった。


「ミス、カーミラ…まだお見合いだ…」


「ふははははっ、大丈夫です! わたくしはウエルカムですよ!どんな条件でも文句は言いません、あの子になら足を舐めろって言われても喜んでぺろぺろしますし…夜の相手をしろというのなら娼婦の様に腰を振ってみせますわーーっ」


「ミス、カーミラ?」


処女の血を好み、今迄に何百と殺してきた彼女がこれだ…


「絶対に纏めてくださいね…纏まらなかったら私、何をするか解りませんわよ? うふふふふっ」


「ああっ…」


確かに2大美女だが…有名な悪女だ…


片方には恐怖を与え…片方には可笑しくなる位愛される。


何者なんだ…


◆◆天界◆◆


「これがセレナのお見合い相手、本気で言っているのか…」


「セレス、バウワー様やルシファードが勧めてきたのよ…間違いないわ…ほら、女神もいるわ」


いや、女神は確かにそうだけどヘラだよ!


それにカーミラに妲己?


確かに全員、美しいのは間違いないけど…なんの冗談だ。


「イシュタス…これ可哀そうだよ」


「セレス、なんで、そんな事言うの?母性溢れる女神に傾国の美女達、素晴らしい人達ですよ、この女神なんか神格は私より高いし…」


女神ヘラ…冥界竜バウワー様より怖いんじゃないか…


悪い、俺もゼクトもきっと何もしてあげられない


強く頑張るんだぞ…我が息子よ…


うん? そう言えば、今傍にいる二人も元は悪女…


まさか、彼奴、悪女キラーとかスキルに無いよな?








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