第84話 妲己SIDE 猫は虎の妻になれない



12歳の少年との縁談話。


普通なら鼻で笑うはなしですが、その子供を紹介してきたのが異世界の魔王だそうです。


だから、乗り気で話をしてもらったわ。


1000年を生きるわらわに12歳の少年の妻になれっていうのは普通に考えてあり得ないわよ。


「私もどんな人物かは解らぬ!だが私の知己である魔王ルシファードが持ってきた話だ、それなりの人物だと思われる」


それしかベアードは言わなかったわ。


だけど、12歳で魔王にそこ迄言わせる人物。


そんな凄い子供なら、わらわの虜にしても良い。


そう思ったのよ…


だけど、一夫多妻というのだから呆れてしまうわ。


ベアードは馬鹿なのかしら?


わらわは平気で人を殺すし残酷な事を楽しむわ。


だけど、本来のわらわは神獣なのよ…


大体、わらわの事を知っていながら一夫多妻の側室。


それが信じられない…馬鹿にしているのかしらね?


わらわより格下とは言え、見て来たというカーミラから話を聞くとカーミラは側室でもこの話を受けるみたいだわ。


まだ、お見合いもして無いのに、涎をだらだら流して『セレナ様、セレナ様、セレナ様』を連呼して可笑しくなるし…


どう言う事か解らないわ。


一妻多夫でも可笑しくない、わらわに何故この話を持ってきたのか?


事前に調べて置いた方が良さそうね。


異世界ですか…面倒ですね…


ですが、この神獣たる九尾に行けない場所など無い。


一度見に行ってきますか。


◆◆◆


流石に異世界まで飛んでくるのは骨が折れますね。


なんだか、わらわの力を持っても敵わないような存在の気配も幾つか感じます。


わらわのお見合いの相手は12歳だから、そういう相手ではないでしょう。


セレナ様、セレナ様と…居ましたわね。


あれですか。


◆◆◆


「神気解放」


神気解放…まさか…神?


「ああっ…ああっ、セレナ様」


「黙りなさいロマリス、他の皆もその場にひれ伏せなさい!それにエドガー神である僕との約束も真面に守れないのですか…これから先、死より辛い人生が貴方を待っているでしょう…」


どう見ても王…そして凄腕の剣士がただ話すだけで苦しそうですわ。


あの威圧、わらわですら油断したら委縮してしまう。


「あがっあは、あがががっ…ハァハァお許し下さい…お許し下さいーーーっセレナ様――っ」


「そのままひれ伏しておきなさい…ロマリス、一体貴方は何を考えているのですか? 貴方の計画を私に話しなさい!」


「私は…」


「神に嘘は通じない!」


凄い、本物の神…あの気の前ではわらわですら嘘はつけない。


僅か12歳でこれ…神獣と呼ばれ九尾の私が…


このわらわが…体が震える。


「わ、私は各国に働きかけ、その結婚相手を探そうとしていました、ハァハァ…くっ苦しい」


「そう…解った」


あの恐ろしい気を解いた…


ハァハァ、体中から汗が噴き出す。


このわらわが、神とはいえ12年しか生きて無い存在に恐怖しているの…このわらわが!


「どうかな? これが『神』という者だよ…僕に対しては真面に話せないし、僕がいうだけで体も動かなくなり、一切の嘘が言えなくなる…もし僕が望めば恋人だろうが妻だろうが、平気で差し出すようになる…そんな、存在と付き合いたいの? それともこっちが良いのかな?竜化―――――っ」


竜? 少しくすんでいますが黄金の竜…


あんな物…どうしろっていうの…誰にもどうにも出来ないわ。


「我が名は神竜セレナ、偉大なる神竜セレスの息子だぁぁぁーー、逆らうならこの世界を滅ぼしてくれようぞーーーっ」


神竜…あの気配、暴力的な気…あの言葉が嘘でないのが解る。


わらわは国を滅ぼすのに失敗した。


今、もう一度チャンスがあれば、国など奸計を使い滅ぼせる。


その自負はある。


だが、あの子は違う…


あの子は…それこそ、その気になれば遊び半分で国など滅ぼせる。


世界を滅ぼすのに、果たして何日掛かるのだろう。


「「「「「「「「「「…ああっああああーーーーっ」」」」」」」」」」


並の存在なら恐怖で動けなくなる。


このわらわでさえ恐怖に鳥肌がたっている。


竜から人の姿に戻って…ようやく恐怖という支配から解き放たれた。



「ねぇ、ロマリス、エドガー、そして皆はどの僕と付き合いたいの? 一切逆らう事は許さず、全ての人間に君臨する僕が良いの?逆らったら国ごと滅ぼす神竜がお望み?」


「セレナ様、私は…」


「ロマリス…人間だけだよ!冥界竜のバウワー様は僕より神格は遥かに上だけど、孫みたいに可愛がってくれる!魔王のルシファードや四天王のスカルキングは僕より下の実力だけど、息子や孫みたいに扱ってくれるよ?冥界には普通の人も沢山いるけど、皆は弟として扱ってくれるんだ…だから、僕は『只のセレナ』で居られる。そして僕の婚約者達も『セレナ』僕を1人の男性として見てくれる…それなのになんで皆は出来ないのかな」


あれより上の神格を持つ存在がこの世界に居る。


そして、恐らくわらわと同格であるかも知れない魔王や四天王がいると言う事?


「セレナ様が服従を望むなら血の一滴まで捧げます!孫娘の命が欲しいのなら喜んで差し出します! 国を滅ぼしたいならこの手を紅蓮に染めあげて協力します! そして友人が欲しいなら、最高の友人になります…それが我々宗教者なのです」


素晴らしい人物なのは認めます。


九尾の狐のわらわが、出来ない事なのに…


わらわが、やりたい事を簡単にしかも、考えなく行える存在。


あれ程の事を無意識で行っているのでしょうね。


セレナだけなら、どうにか出来るかも知れませんが…


あれ以上の存在が沢山居る世界。


セレナにすらわらわは勝てない…そして父親は『神竜』というのだから同等かそれ以上。


怖いわ…


そんな義父や親類となんて怖くて付き合えない。


残念ですが、わらわでも耐えられそうもありません。




◆◆◆


「ベアード、わらわは、この縁談断るわ」


「何故だ!魔王が推薦するような人物で、あのカーミラですら気に入った存在なのだぞ! 理由をいいたまえ…ミス妲己!」


「猫はトラの妻になれない…それ以上はわらわにも面子があるから言わない!」


「まぁ良い、こちらからはカーミラが行くから充分面目はたつ! あちらの魔王のサキュバスも怖気づいたと聞く…元からこれは強制ではないし、1人居れば良い…ご苦労だったミス妲己」


「はい、さようなら」


カーミラは服従を望んだのね。


バンパイアの彼女からしたら、神や竜の血は恐らく麻薬以上。


それが貰えるならなんでもするでしょう。


ですが、わらわには無理。


凄すぎてついていけないわ。


妻になったら恐らくわらわは服従してしまう。


それはもう、わらわじゃない。









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