第83話 メルでは無理
セレナ様を怒らせてしまった。
生まれながらの神とはいえ、子供でもあったのだ、私はその事が頭から抜けてしまっていた。
八大司教やシスターも含み、聖職者の誰もがその事に気がつかなかった。
これではまるで『信仰によって目が曇ってしまった』状態では無いか。
『王国で学園に通いたかった』
その事から考えれば誰もが気がつく事だ。
マントを私に手渡した時の顔。
あれは祖父に贈り物を渡す孫に近い顔だった。
なぜ、あの時に気がつかなかったのだ…
慎重に気をつけて向き合えば、解った筈だ…
それなのに、私は見誤った。
これからは、心に寄り添うような関係を構築しなければ…神の子は我らの手を離れてしまう。
その事を、信者全体に伝える必要がある。
だが、一番頭が痛いのは…これだ。
◆◆◆
「候補者を全部入れ替えるですと!」
「何故、その様な事に、国中から集めた正に理想の女性たちですぞ」
「マリアーヌ様やセシリア様、静子様の肖像画を元に探しだした正に最高の布陣…」
「それが駄目なのだ!私がセレナ様から聞いた話では、身内に近い容姿の者は好ましくないという事だ」
「まぁ、よくよく考えれば自分の身内、に近い容姿の妻が欲しいかと言えば微妙ですな」
「憧れているなら兎も角、普通は身内に似た存在は避けますな…私も叔母に似た女性が好きかといえば微妙です」
「それで、どのような候補をお考えなのですか?」
「それがどうして良いか困っているのです…魔国は異世界から2人婚約者候補を呼ぶという話がありました、そして更に問題なのがスカルキングが冥界竜バウワー様に話を持っていき…なんと妙齢の美しい女神がお見合いの席につく事が決まりました。
「「「「「「「「女神!」」」」」」」」
「そう言う事なのですよ! しかも魔王ルシファードの呼ぶ二人というのも向こうの世界では絶世の美女と言われているそうですから…最早誰を紹介すれば良いのか…どうしますかね?」
「我らはセシリア様に似た雰囲気の修道女とマリアーヌ様に似た貴族の女性を考えていたのですから、詰みですな」
「それを言うなら、帝国はフレイ様に似た赤髪の騎士、王国はマリアーヌ様に似た王族の他にジムナ村に候補者を探しに行く、そういう話でしたな」
「この情報はやはり伝えた方が良いのではないですか?」
「もう伝えて置きましたよ…帝国は分が悪いから棄権するそうです!王国は、まぁやらかしているからか引くに引けず『そうですか』と真っ青でしたよ」
「我々も、これではお手上げですな…」
「相手は女神に異世界の美女、そこで映えるような女性は存在しないでしょう」
「いや、一人だけ心当たりがありますぞ!」
「それは誰の事でしょうか?」
「古の大賢者メル様です」
「それは難しいのでは無いですか? その余りに外見が…」
「確かに未だに外見は幼く見えますが、本当の年齢は数百歳充分妙齢と言えますが…」
「確かに、異世界の美女二人に女神と来たら対抗できるのが大賢者様しかいないですが…話だけでもしてみますか」
「そうですな」
満場一致でメル様に決まりました。
◆◆◆
私は、非常時用の連絡水晶でメル様に連絡を取ったのですが…
「あははっ、凄く嬉しいの…個人的には凄く受けたいわ、だけどねイシュタス様から『セレナには手を出してはいけない』と念を押されちゃっているのよ」
「イシュタス様からですか? 何故ですか!」
「あのね…此処だけの話、女神イシュタスはムスコンよ! ムスコン…世界が危なくなっても勇者や私達しか使わさなかった癖にセレナに手を出したら『この世の全てから消します』って脅されたのよ…最高に良い子だけど、無理だわ」
「そうですか…」
「ロマリス教皇、一応警告してあげるわ…もし紹介した女性が、ムスコン女神の気に障る存在だったら大変な事になるわ…手を引いた方が無難よ」
メル様ですらお眼鏡に叶わなく、そこ迄言われるのであれば、怖くて紹介等出来ない。
「あの、そこ迄怖いのですか?」
「怖いわよ…考えてよセレナの奥さん=ムスコン女神の義理の娘なのよ…そして何時かは同居するのよ? 私は無理!」
そうか…女神様の義理の娘…そんな存在の選定なんて人間に出来る筈はない。
もし、イシュタス様の意にそぐわない嫁等紹介したら…どうなるか解らない。
「確かに無理ですな」
「解れば良いのよ」
大賢者メル様で無理なら、絶対に無理だ。
その後、私は、各国の王と話し合い、セレナ様への嫁候補の紹介は諦める事に決まった。
その代り『誰とでも望めば自由にお見合いが出来る』パスポートを発行する事を王国、帝国、聖教国で決めた。
女神イシュタス様が溺愛している息子。
怖くて女性の紹介なんて、流石に出来ませんね。
◆◆◆
「くそぉぉぉーーあのムスコン女神、絶対になんかしたわね」
大賢者の私がお腹を壊すなんてあり得ないわ。
ムスコンって言ったのを怒っているのかしら。
『その通りです…随分な物言いですね』
「あっ、イシュタス様、あの私はお見合いを断りましたよ…やめて下さい」
『それは当たり前です…貴方は姉ですから、だからこれは私をムスコンと貶めた罰です…1日トイレに入ってなさい』
女神様なのに大人気ない。
こんな継母が居たんじゃ、幾らセレナくんが可愛くても無理だわ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます