第49話 【閑話】思い出したくない


あれは一体なんだったんだ…まるで地獄に迷い込んだような恐ろしい物を見た。


「あれは…一体…」


「思い出したくもない…」


人間の体が溶かされる、そんな物を見させられるとは思わなかった。


ロザリアという女は悪女だ。


だが、あそこ迄の拷問は…幾ら我々でも見るに耐えなかった。


『悪女』である以上『地獄の苦しみで死ね』そう思うが。


あれは流石に見るに耐えなかった。


我々は勇者一族…そして騎士であって拷問官ではない。


仕事柄首を跳ねたり、四肢切断位はするが、あれは別物だ。


だが、あれは別物だ。


女の体が何をやったか知らないが目の前で溶けていっていた。


「髪が頭皮ごとずり落ちて…ああぁぁぁ頭の骨が見えていた…俺、今日は眠れない…」


「目玉が溶けて、こぼれ落ちていた…ああ~見るんじゃなかった」


「あいつは人なのか?子供なのに残酷すぎるぞ…乳房が腐るように溶けて落ちて液体になっていた…爪や歯も抜け落ちて、どんな毒、や薬品を使っていたんだ…」


「だから、その話はやめよう…思い出すだけで吐き気がする」

「そうだな、もうやめよう…」


気は進まないが、勇者一族で騎士でもある我々は拷問に立ち会う事もある。


だが『あれは無い』


女が醜く体が溶けていく狂気の様な拷問。


しかも、恨み苦しみながら、楽には死ねない地獄。


『ああっああーーっ嫌ぁぁ溶ける…あああっああーー』


化け物の様な姿に変わり果てて、死んでいく女。


思わず、この俺が、首を斬り落として介錯をしてやろうかと思った位だ。


今でも、あの時の光景は忘れられない。


体が溶け、恨み事を言いながら風呂に駆け込んでいった姿。


体が熱いから水が欲しかったのだろう。


だが、もう体は大半が溶けていた。


あれで、水を浴びたら…激痛が走り、すぐに死ぬのだろう。


皮膚が溶けて内臓が見える位だからな。


だが、その気持ちは解る。


体が溶け熱を発していたら『死ぬ』と解っていても、体を冷やす水が欲しくなるものだ。


それは戦場で火傷を負った戦士が苦しさから水に飛び込み、そのまま死ぬのと同じだ。


「嫌なものを見てしまったな…」


人間が溶けていく姿を俺は…忘れる事は出来ないだろう。


「俺はもう…ああっ畜生ぉぉぉぉーーーーっ」


「まぁ良かったじゃないか?あの様子を話せばエドガー様も満足だろう…自分達は手を下さずに全て終わった…それで良かったじゃないか?」


「そうですね、あの分じゃフルールもエルザも…」


「やめろよ、想像しちゃったじゃねーか!」


『その二人なら、もう同じ事をしたよ』そう言っていた。


「多分、もう死んでいるだろう…仕方ねーな!今日は娼館に繰り出すぞ! 酒と女で忘れちまおうぜ」


「「「「「「「「「賛成」」」」」」」」」


こうでもしなくちゃ…忘れらない。

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