第44話 閑話 三人


「逃げちゃいましたわ」


「逃げたな…」


「逃げられちゃったじゃないですか? 全く、せっかく私がセレナ様と楽しんでいたのに…無粋ですよ?」


相変わらずしれっとしてますわね。


「それでロザリアは一体どういうつもりなのですか?」


「なんの事でしょう?私はただ、セレナ様と一緒に官能的で退廃的な生活を送りたい、それだけですよ」


こんな事言っていますが…様子が可笑しいのですわ。


目の焦点は合ってないし、微妙に体が震えていますわね。


「幾ら強がっても駄目ですわ、元やりあった私にはお目遠しですわ」


「え~なにがですかね?」


「貴方、かなり精神的に病んでいますわね…虚勢を張っていますが、相当参っていますわね」


「まぁ、そりゃそうですよ! 何もない世界に居たのですから、貴方や私がするような拷問をされた挙句、死んだと思ったら、何も無い空間をひたすら脳味噌になって彷徨っていたんですから、何も見えず、スライムにでもなったみたいにズルズルと、流石の私も心が折れかかっていましたよ…ですが別に虚勢なんて張ってないですよ」


「まぁ、ロザリアは脳味噌が無かったみたいだからな、脳味噌だけが死後の世界に行っていた…そう言う事か?」


「私がズルズルと体全体に痛みを感じ動いていた時に、突然声が聞こえてきたのですよ『ロザリア…君には何も聞こえないかも知れないけど…帰ろう』『体にちゃんと帰してあげるから…安心して』『ロザリア…苦しかっただろう? 僕が助けてあげる…だから帰ろう』『助ける、安心して』ってね…そして優しく私を抱きしめるように救い上げて下さったのです」


「それ脳味噌の事ですわね」


「味噌だけの話だろう」


「あら、嫉妬ですかぁ~、確かに脳味噌ですが! ある意味裸より凄いですよぉ~。体すら脱ぎ捨てた状態なんですから…裸で抱きしめられた以上に感じますから…」


「そうなのですか?」


「そう言われれば、体すら脱いだ…だが絵画は気持ち悪いよ!セレナが大切そうに脳味噌を持っている…怖いよ」


「「何処が(ですの)」」


「拷問慣れしているから、二人とも感覚が可笑しくなっているんだよ…」


「まぁ、それは置いておいてですね、そんな状態から体に戻して貰って…目が見える様になってお顔を見たら、すこし若すぎますが『絶世の美少年』じゃないですか? 恋に落ちないわけないですよね…全く良い所で邪魔して…これだから拷問狂と戦闘狂は嫌いなんですよ」


「私が拷問狂なら、あなたは何だとおっしゃいたいの? 同じですわね」


「戦闘狂の何がわるい」


「まぁ、それは置いておいてですね…」


相変わらず飄々として掴みどころが無いですわね。


これだからロザリアは苦手なのですわ。


「話を挿げ替えてきましたわね…まぁ良いですわ」


「なんだ?」


「セレナ様は何者ですか? 天使様? それとも神様ですか?もし知っていたら教えて下さい…一瞬で私を虜にしたあの素晴らしい美少年は何者ですか?」


「…」


「セレナ様が天使?神…ロザリア…気がふれたんじゃないのか!」



「これだから脳筋は嫌いです…じゃぁ言わせて貰いますが、死後の世界の冥界に来て、脳味噌と魂だけだった私を、恐ろしい管理者に許可を得ずに連れて帰り…元の体に戻す…そんな事が只の人間に出来ますか? それにパーフェクトヒールの呪文も聞きましたよ? そんな事が出来る人間がいまして」


「居ませんわね…ですが、セレナ様は自分の正体は隠していたいようですわ。だから私から聞くのをやめましたわ」


「確かに、絶対に教えてくれそうにないな」


「まぁ良いです…セレナ様が悪魔だろうと邪神だろうと、この私ロザリアはただ、愛すだけですから…一番の寵愛は私が頂きますから」


「「ロザリア」」


セレス様の影響なのか、元から精神が強いのか、もう立ち直ってますわね。


人の事を言えませんが…流石は悪役令嬢ですわ。



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