第32話 謎の勇者病①


「げっ!黒薔薇のフルール」


「なっ!野人のエルザ」


「あれ?二人とも知り合い?」


セレナ様はなんでこうもピンポイントで危ない人を選ぶのでしょうか?


まぁ、私も『悪役令嬢』の代表みたいに言われているから言えた義理では無いですが…私の次に選ぶのが、まさかのエルザ。


この方は…脳筋と言えば良いのか?


野蛮な方で有名ですわね。


「ええっ知っていますわ…とはいえそれ程深い付き合いじゃありませんが…エルザさんは有名人ですから!」


「そういう事ならフルールさんも有名人だろう?」


「まぁ、お互いにそうですわね」


「まぁな…水と油みたいなもんだな」


「もしかして仲が悪いのかな?良く解らないけど、フルールとエルザって何かで争った事があるの?」


「直接はありませんが、良く対比されるのですわエルザさんは『脳筋』として有名で…」


「フルールさんは『陰湿』で有名だよな」


「「くっ」」


「確かに、頭脳派のフルールに肉体派のエルザ…正反対と言えば正反対なのかな」


「まぁ、そうですわね。ですがこれも縁ですので仲良くしましょうですわ」


「そうだな、別に私怨もないし、仲良くしよう」


◆◆◆



「そう言えば、フルールは『勇者病』って知っている?」


「知っていますわ…勇者を含む四職(勇者、聖女、賢者、剣聖)の家系に現れるのですわ、確かエルザさんの家系は、勇者ゼクトと剣聖リダの家系ですわね」


え~とゼクトお兄ちゃんとリダお姉ちゃんの家系?


フレイママとリダお姉ちゃんは赤の他人だけど少し似ている所がある。


言われてみれば、ゼクトお兄ちゃんの目つきにリダお姉ちゃんの雰囲気を足すと…うんフレイママに似ている。


そういう事か…リダお姉ちゃんは背が高いのを気にしている位だからエルザが背の高いのも解る。


そうか…だけど『勇者病』って何だろう?


僕の鑑定は賢者並み…そう皆が言っていた。


それで正常なんだから、絶対に体が可笑しい事は無い。


それに、勇者であるゼクトお兄ちゃんも剣聖だったリダお姉ちゃんからもそんな話は聞いた事が無い。


『勇者病』って何なのかな?


どうしようかな?


「そう言えば、エルザって戦った事ある?」


「平和な世の中だから、無いけど、模擬戦ならあるよ?」


「それじゃ、少し僕と模擬戦やらない?」


「セレナ様、あたいは勇者病なんだよ?! 危ないよ」


僕の体はセレスお父さん譲りだから、まず大丈夫。


それに、そうでもしないと、多分調べようがない。


「僕の力は見せたよね? それに僕は…(どうしよう?死んだ人間と知り合い…というのは可笑しいし…そうだ)大賢者メルと知り合いなんだけど、メルからも勇者病なんて聞いた事が無い…だから、どういうものか知りたいんだ」


「メル様の知り合いなのか? それなら是非…やろうぜ模擬戦」


「あの、セレナ様…エルザさんは、勇者病で、脳筋ですから、本当に強いのですわ…お気をつけて」


「うん…多分大丈夫」


かなり手加減をしないと怪我させちゃうから…気をつけよう。


◆◆◆


三人で森迄来た。


「それじゃ、エルザやろうか?」


「セレナ様、幾らなんでもあたいを舐めすぎだろう? なんで素手なんだよ…」


「大丈夫、エルザも木剣だから…もし苦戦するようならまた考えるから」


しかし、勇者の家系なら、なんで奴隷になっていたんだろう?


後で聞いてみよう?


「そうかよ…それじゃ遠慮なく」


エルザが打ち込んで来た。


なかなか速い…かな。


「あら、よっと…その位ならまだ余裕だよ…ほら」

僕は軽く避けて頭を撫でた。


「なっ、あたいの剣を躱した…」


「この位ならまだ余裕はあるよ」


「前から凄いと思ってましたが…凄いですわ」


「セレナ様、次は本気でいく」


「どうぞ…」


エルザは凄い勢いでブンブン木剣を振り回して来た。


「そりゃーーーっこれならどうだーーっ」


「なかなか筋は良いけど、まだまだだよ」


これはエルザが弱いんじゃない。


種族の違い…そして練習相手の違いだ。


女神と竜公の血を引き、練習相手は本物の勇者。


当たり前だ…そして本物のリダからも手ほどきを受けているし…


「クソっ、なんであたいの剣があたらないんだ」


「正直すぎるからだよ…どんなに速くても剣筋が解れば避けるのは簡単だよ」


「此処まで一方的になるとは思いませんでしたわ」


「ハァハァ…なんで当たらないんだよ」


持久力も無い。


「それじゃ、今度はこっちからも」


俺は頭を撫でたり、軽く背中やお尻を叩いた。


「クソッ…なんで、こっちの攻撃は当たらないのに触りまくられて」


確かに凄いのかも知れないけど、どうも遊びが無いな。


「もう少し、肩の力を抜いて、それじゃ魔物は狩れても人の強者には負けるよ」


「そんな訳ありませんわ…そんな攻撃…普通は躱せませんわ」


ヤバい…僕の練習相手は特別だった。


「そうだね…」


「ハァハァ…そんな、全然手が出ない…なんで」


「だから、力だけじゃ無理だよ、体の力を抜いて…」


「クソ、クソ、クソーーっ」


よけいに隙だらけだ。


だけど…


「あのさぁ、体が疲れてきたせいか剣が碌に振れなくなったね…だけどかなり体の力が抜けてきたから、今なら制御出来るんじゃない?」


「えっ?!」


「だって、木剣の勢いが落ちているんだから、今は相当力が抜けている筈…そうだ、試しに僕の手を握ってみない?」


「大丈夫かな…ケガさせちゃうかも」


「それなら、多分だいじょうぶだよ…」


「そうかな…そう言ってくれるなら…」


そう言うとおずおずとエルザは木刀を放り投げ、僕の手を握ってきた。


これなら…普通だ。


「うん…普通だよ」


「あれっ…本当だ」


疲れる…そして、その後は多少は制御が出来る。


今、解るのは…これだけか?


まぁ、僕相手なら怪我も無いから問題は無いけど…


解らないのが気になる。







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