第13話 フルールSIDE 夢①


人生とはこう言う物ですわね…


僅かなミス一つで終わる…


人の命は本当に低い…それを私は知っていましたわ。


だからこそ、油断しないで生きて来たのに…


まさか身内に裏切られるなんて思っていませんでしたわ。


息子に裏切られ…それを止めないで笑いながら見ている夫。


最早、私の運命は終わる…ならせめてお前等も…道連れにしてやりますわ…


◆◆◆


拷問官が私を責め立てますわ…


「黒薔薇とはいえ…所詮は普通の女…それを俺がお前に刻んでやる」


「うぐぐっ」


なかなかの脅し文句ですわね…


今迄散々、拷問を繰り返してきた人生。


今度はされる側になった…それだけですわね。


『痛覚無効』


残念ながら、私を泣き叫ばせる事は無理ですわ。


この黒薔薇が貴方がどれ程の物か見て差し上げますわ。


しかし、息子も夫もクズですわね…


変な正義感に捕らわれる…そこから馬鹿ですが…それ以上に『人を殺し苦しめるのに自分が立ち会わない』あり得ませんわ。


私を苦しめたいのなら、貴方達が此処にきて…罵詈雑言を叫ぶ、その位はした方が宜しいわよ…それも出来ないクズ…教育を間違えましたわ『薔薇の心』位は教えるべきでしたわね…貴方達は残念ながら一番下の赤薔薇にも成れませんね。


廊下から、沢山の苦しむ声が聞こえてきますわね、息子と夫には確実に死んで貰いたいから遅効性の毒にしましたの、巻き込まれた方のご冥福を祈りますわ…もう、目も抉り取られましたから何も見えませんが、私耳も良いんですの。旦那に息子の声もありますから目的は達成できたようですわ…もうこの家も終わりですわ…滅亡エンドですわね…拷問していた男も水を飲んだのか…死にましたわね…なかなかですね…犯されるのも覚悟していましたが…恐らく主の妻だからか、私がBBAだからか犯しませんでしたね...まぁ50点位のギリギリ及第点はあげますわ。


まぁ、うめき声や苦痛の声もあげなかったから楽しくない拷問だったでしょうね…



◆◆◆


目が見えないから解りませんが檻に入れられたみたいですわね。


手足が無いし目も無い…体はボロボロだからこのまま廃棄になるのでしょうね…


つまらない人生でしたわ…


今思えば、好きでも無い男と結婚して、可愛がっていた筈の子供に殺される、つまらない人生ですわ…


死ぬのなんて私は怖くない…だけど、こんなの無い。


惨めな死に方…これは嫌ですわ…


『助けて』


痛いのも平気だし…死ぬのはどうでも良い…


だけど、黒薔薇がこんな惨めに死ぬのは…駄目だですわ。


『助けて…死にたくない』


『助けて…』


布が擦れる音…なにか解らないけど…会話が聞こえてくる。


「なんだ、お前勝手に見るんじゃねーよ」


「すいません」


「なんだ、さっきうちに来ていた坊ちゃんじゃねーか…嫌な物みちゃったな…気持ち悪いだろう…」


「あの…この人は…」


「廃棄奴隷だよ…まぁ色々あって処分を任された…このまま死なすつもりだ…」


「此処までひどい状態で、その…殺してあげないんですか…」


「俺は奴隷商なんだ…子供に言っても解らないだろうが…この仕事をしている人間は、奴隷を殺す事は禁じられているんだ…この状態じゃ助からねー…だからこのまま死なすつもりだ…言っておくが俺がやったんじゃねーぞ…こいつを引き取る条件で他の奴隷を安く仕入れさせて貰った…この状態は元からだ」


誰かが私の檻を覗いたのですわね…


そう、もうじき私、終わるのか….


「この人は奴隷なんだよね…だったら売り物だよね…幾らなの」


「坊ちゃん、それは廃棄奴隷、捨てるゴミみたいな物だ…坊ちゃんは家事奴隷を探していたんだろう…見た感じ良い所の坊ちゃんみたいだが…情にほだされたんならやめておきな…恐らく数日で死ぬよ…それ」


「それでも欲しいって言ったら」


「俺は奴隷商だから欲しいと言うなら値段はつける…本当は無料でも良い位なんだが、王都では金貨1枚(約10万円)以下では奴隷を販売できないんだ…それに奴隷紋の刻み賃金貨2枚を足して金貨3枚がそいつの値段だ…悪いが死にかけだから生体保証はつかない、それで良いなら売るぜ」


「買ったよ…その代わり急いで…」


「本当に買うんだな…知らねーからな」


信じられませんわ…今の私をなんで買うのかしら…ゴミですわよ。


簡単に死ぬ位の衰弱…拷問の練習にもなりませんわ。


手足が無くてもおばさんだから『うにうに』作りの練習にもなりませんわね。


◆◆◆


凄いですわね。


まるで馬に乗っているみたいに速いですわ。


担がれて走っている様な気がしますわ。


暫く走ると急に止まりましたわ。


何やら少し言い争っている声が聞こえてきますわ…


「面倒事は困るんだが…」


「奴隷として買ったので問題はありません…これ書類です」


「でも、もし死にでもしたら…」


「すみません、迷惑賃です…これでどうか目を瞑って下さい」


「そう言う事なら…仕方ない、良いぜ」


「ありがとう」


階段を上がる感じ…宿屋にでも運び込まれてのですわね…


死ぬ場所が奴隷商じゃないだけマシですわ。


◆◆◆


久々に感じるベッドの感触…


まさか、私を使いたい…そう言う事ですの…


あり得ませんわね…こんな汚い状態の女オークでも無ければ抱きませんわ。


「部分ヒール」


そうか、この人は回復魔法が使えるのですわね…


ならば…あり得ませんわ、一流のヒーラーでも恐らく私の回復は無理だと思いますわ。


延命も多分難しいですわ。


「僕の名前はセレナ…本当はこんな事したく無いけど…静かに聞いてね」


何かするのでしょうか?


何がしたいのか解りませんが、真面な死に場所を下さった恩がありますから…頷きましたわ。


「僕には君を救う手段がある…だが、これはおいそれとは使えない…こんな時に卑怯だと思うけど、僕は君が気に入った…結婚とか恋人とまでは言わないから付き合ってくれないかな」


この状態の私を救う手段がある…それだけでも可笑しいのに…結婚? 恋人? 付き合う…私は頭が可笑しくなったのでしょうか?


顔が焼かれていて、手足が無く、体もボロボロ…更に言うなら、万が一それが治せても…もうおばさんと言われても可笑しくない歳。


10年前は確かに美しいと言われた事もありますが…それはもう昔の事ですわ。


やはり、私は拷問で頭が可笑しくなってしまったのでしょうか?


「貴方…私のこの姿を見て…結婚したい…そう言いますの」


そんな馬鹿な人間いる訳ありませんわ。


「此処にきて一番の美人だと思う…」


此処に来て…そうですわね…もしかして人では無いのかも知れませんわね。




「まぁ良いですわ…見えないから貴方がどんな人か解りませんわね…この状態の私を見て付き合いたいと言うのなら…そうですね…貴方がどんな化け物か…ハァハァ知りませんが…婚姻でも良いですわ…私は曖昧は嫌いですので」


この状態の私を好きになった、そう言うのなら誠意を示すべきだわ。


幾らボロボロでも私には黒薔薇の矜持があります…これは命の取引。


幾ら相手が人ならざる者でも、これが『付き合う』などで釣り合う話ではありません。


婚姻でも対価として足りませんわね。


「僕はまだ12歳だから…婚約で良いのかな」


「子供なのですね…まぁ良いですわ…こんな醜い私を何処を気に入ったのか知りませんが…その根性に免じて、命を助けてくれるなら…貴方が悪魔でも…妻になりますわ」


こんな私を妻にしたい…きっと化け物の様に醜い存在の可能性もありますわ。


今の私が綺麗だと言うのなら…そうに違いありませんわ。


ですが…命の対価です。


愛の無い生活を送っていたのですから…愛して下さると言うのであればそれでも…まだましかも知れませんわね。


「ありがとう…そしてゴメンね…無茶言って…パーフェクトヒール」


最上級の回復魔法…聖属性だから、魔族じゃないですわね…しかもその呪文は大昔、伝説の聖女セシリアが使ったと言われていますが…今現在、使い手は居ない筈ですわ…聖女の中でも選ばれた者が努力の末、最後に覚える人類究極の回復魔法…の筈ですわ。


なら、この人は…魔族や悪魔などの筈がありません。


私の壊れ切った体が、次々に再生されていく…


そして、聞こえてくる声…


「綺麗だ...」


そちらに目を向けた私の見た者は…


別の意味で人ならざる者…天使の様に美しい少年が私を見つめてくる。


これは夢なのかも知れない。



本当の私は死にかけていて…


夢をみているのですわ…これが夢でも…私は答えたい。


「初めまして…旦那様…私は黒薔薇のフルール、貴方様の恩義に応える為に薔薇として生涯の忠誠、愛を誓いますわ…えっ、まさか本当に子供だったの?」


「僕の名前はセレナ…フルールさんこれから宜しくね」


「嘘ですわ…悪魔に魂を売ったつもりが…まるで天使ですわね」


こんな事は起きる訳が無い…世界は常に…厳しく辛いのですから…





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