第12話 年上は正義
僕はフルールさんにお手製のパンケーキに紅茶を入れてあげた。
『胃袋を掴むのが女性にモテるコツだよ』そうセレス父さんが言っていたから、頑張って覚えたんだ。
「ありがとうございます…これ凄く美味しいですわね」
「父さんから教わったんだ、まだまだ父さんには及ばないけど料理も得意だから期待しててね」
「え~と私ではなくセレナ様が作るのですか?」
「うん、僕は家事が好きだからね」
セレス父さんのお友達が言っていたそうだ『奴隷として買えるのは時間だけ…心が買えたわけでは無い』だから、もし買う事になったら精一杯真心を伝えろ…とね。
それに、僕にとっては初めての、身内以外の異性だから余計に頑張りたくなる。
「良かったですわ、私料理が凄く苦手でして」
「そうなんだ!家事は僕得意だから任せて!だけど、 フルールさんの得意な事とか、好きな事ってなにかな?教えて!」
「嘘でなく本当の事を言いますわ! 趣味は拷問 特技も拷問 好きな事は尋問 ですわ! 黒薔薇でしたので…驚かれました?」
「別に驚かないけど、凄いね…所で黒薔薇って何?」
「黒薔薇って言うのは…代々とある国で『裏をとり仕切っていた存在』なのですわ…だから幼少の時から、ひたすら、拷問や裏での立ち振る舞いを覚えさせられますの、ついていけなければ、場合によっては首チョンパですわね…黒薔薇というのはその国での裏側の地位も現していますの、公爵より上で王族以外、処刑する権限を持っていますわ。ちなみにフルールの名前は歴代の黒薔薇の中で『一番咲き誇った』という方の名前から頂きましたの」
「フルールさんの名前を名乗っていた方が他にも居た…そう言う事ですか?」
「そうですわ! ですが名乗った方は少なく歴史の中でも5人も居なかったと聞いていますわね」
だけど…可笑しい。
そんな地位に居る人が…何故こんな事になっていたのか…
「あの…凄く聞きにくい事なんだけど…」
「私が何故廃棄奴隷になっていたかですわね…政略結婚で私コハネの王族に嫁ぎましたのよ…」
セレス父さん、ゼクト兄さん…メルの国だ…
紅茶をゆっくり啜りながらフルールさんは話し始めた。
簡単に言うと…
昔、みたいに暗躍するような事が無くなり黒薔薇が指揮を執る様な事は無くなった。
その結果、黒薔薇の役割はほぼ終わり、普通の拷問官で充分対応できるようになった。
そのせいか、本来なら黒薔薇の結婚相手は『王族を裏から守る役割』から第一王子だが、平和になった世の中で必要ないと判断されたのか、婚約破棄…
だが、黒薔薇であるフルールさんは表向きの地位もあるから婚姻相手に困ったらしい。
その結果…政略結婚の道具としてコハネの傍系の王族と結婚という事になった。
「酷い話ですね…」
「貴族に生まれれば、家の為、国の為この位は当たり前ですわ…ですが嫁いだ相手が悪かったのですわ…勇者、英雄の国でしたので」
酷い話だった。
フルールさんにこんな事をしたのは…息子だった。
勇者となった息子は自分の母親が嫁いでくる前に『黒薔薇』の地位についていて拷問をしていたと知るとフルールさんを迫害するようになったそうだ。
そして、それが日に日にエスカレートしていき…ある日…
『大勢の者を拷問の末殺したのだ…同じ苦しみを味わえ』と言い凶行に到った。
そういう事だった。
『勇者』を名乗る資格はないな…イシュタスママに取り上げ…
いや、可笑しい。
世界が平和になりイシュタスママはもう勇者をはじめ四職は誰にも与えていない筈。
メルが生きている最後の四職で他の三職はこの世に居ない筈だ。
「確か、今は勇者のジョブを持つ存在は居ない筈だけど?」
「いませんわね…ですがジョブに関係なく、コハネの王族に連なる者は『勇者』を名乗っていますのよ…まぁ勇者、英雄の国ですから、誰も文句は言いませんわ」
腹が立つな…ゼクトお兄さんのジョブを名乗って好き勝手しやがってフルールさんにこんな事を…許せない。
「僕はフルールさんにこんな事をした相手を許せそうもありません…」
「セレナ様が怒るような相手ではありませんわ、私の血が入りながら教えてなかったとはいえ、自分の手を汚す事も自ら拷問も出来ないクズですから…それに身の危険を感じましたから、拷問室に連れていかれる前に、屋敷の飲み水全部に毒をいれておきましたの、夫も息子も今頃死んでいますわ…黒薔薇特製、無味無臭の毒で鑑定でも見破られませんから絶対ですわ」
「それじゃ、もう決着がついていますね」
「あら、驚きませんの?」
「僕の身内は普段優しい人ばかりなのですが…怒らせると物凄く怖いので…それ位じゃ驚きませんよ…寧ろその位の人じゃないと多分上手くやれません」
「あら…凄く安心しましたわ」
しかし、見れば見る程、母さんやママみたいに凄く可愛い。
セレス父さんが言っていたけど…うんやっぱりこの位歳上の方が可愛くて綺麗だよね…言っていた意味が良く解るよ。
「…」
「私を見つめてどうかしたのかしら?」
「凄く可愛くて綺麗で見惚れていました」
「私が…ですの…あら、いやだ…ありがとうですわ」
ほらね凄く可愛いい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます