第207話 ゼクトSIDE 嵌められた
「ゼクト、リダちゃんに随分厳しいみたいじゃない?」
「まぁな! 彼奴の場合は厳しい位じゃないと駄目なんだよ!優しいだけじゃきっと立ち上がれない…今迄みたいに戦いの多い世界ならいざ知らず…これからはちゃんと働かないと駄目だ…と思う」
「貴方がそれを言うの? 多分昔の貴方になら私はそう言ったと思うわ…だけど、今の貴方ならいう資格はあるわ…随分変わった物ね」
「母さん」
「そうね、今のあの子は…すっかりサボり癖がついて駄目だわ!本当に誰に似たんだか…私もカズマも『仕事』だけは一生懸命だったのに…」
「だったら、母親なんだからハルカさんがガツンというべきだと思いますが…」
「それが言いにくいのよ! カズマと別れてセレスと私結婚したじゃない?円満離婚だったけど、他の皆の旦那さんと違って、ほらカズマって何かしたわけじゃ無いじゃないから、しいて言うなら『お互いが男女として興味が無くなった』それだけだから…リダにそこを突かれたら…どう返して良いか解らなくなるわ」
「確かにカズマ兄さんは俺から見ても良い男だからな、セレスは勿論、俺にも兄みたいに接してくれた!だが、それはそれだと思う。 大体、料理屋の娘が料理が下手なのって可笑しすぎるだろう」
「そうね、確かにそう思うわね…だからゼクトお願いね!多少なら小突いても文句言わないから…任せたわ!」
「今のゼクトなら大丈夫よハルカ…きっとどうかしてくれるわよ、安心してよいわ」
無責任な…
「母さん、安請け合いしないでくれ! 勿論どうにかするつもりだが、保証は出来ない」
「うふふっゼクト、貴方はきっとセレスくんみたいになりたいと努力しているんじゃないのかな?勿論、英雄としての生き方じゃなく『人としての事よ?』どうなのかしら?」
流石は俺の母親だ見抜かれたか。
「確かにその通りだよ!彼奴の頑張りを見ていたら、俺も頑張らなくちゃと思ってな…そこから少しずつ自分を変えてきたんだ…守らなくちゃいけない相手も2人も出来たしな…」
「そうね、今の貴方なら、信頼できるわ! それでねセレスくんならハルカにリダの事頼まれて断るかな?『安請け合いしないで欲しい』なんて言わないと思うんだけど?どう思う!」
「母さん…それ汚ねーよ」
「うふふっ、そう?だけど、私はセレスくんなら、きっとそうするわよ…そう思っただけよ」
「そうだな…断らないな」
俺を見捨てなかったお人よしの彼奴が、ハルカさんに頼まれて断るわけが無い。
「ごめんなさい、ゼクト娘を頼むわ」
「解ったよ、任せておいてくれ」
「貴方は私の息子だもん!私の旦那のセレスくんに負けないように頑張ってね!」
「母さん…解ったよ」
こうまで言われちゃ仕方が無いな。
◆◆◆
廊下でリダが盗み聞きしているのは解っている。
俺は、いきおいよく良くドアを開けた。
「さぁーーリダ、今日も楽しいお仕事の時間だよ…母さんに何か言っても無駄だったな!」
「ゼ…ゼクト気がついていたの?」
「気配を消していても無駄だな!リダ、勇者からは逃げられない!勇者のジョブは健在なんだ…気がつかない筈はないだろう?」
「ゼクト…僕お休みが欲しいなぁ~なんて」
「今日はもう食堂の仕事をとって来たから駄目だ、だが明日は休みにしてやるから、今日は頑張れ!」
「ゼクト…僕、剣聖なんだよ?そんな僕が食堂で働いたら可笑しいじゃないか!」
もう、そんな時代じゃない。
「あのよ…魔王と教皇が同じ国に居て、挨拶する世界…噂では偶に食事まで一緒しているらしいじゃないか? そんな世界で勇者や剣聖にどんな価値があるんだ? それでも『剣聖』で居たいなら騎士や兵士、衛兵にでもなるしか無いんじゃないか? お前に毎日朝から晩まで働く生活が出来るのか? 本当に騎士として働きたいならマリンを通して帝王様に頼んでやろう! 元勇者パーティの剣聖『騎士爵』位はくれるだろうよ! 」
「ゼクト冗談だからね…嘘だから、さぁ食堂に行こう」
固くるしいのが嫌いなリダには宮仕えは無理だろう。
「それじゃ行くか!」
「解ったよ…」
嫌そうな目で見てくるリダを無視して俺は歩き始めた。
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