第205話 ゼクトSIDE 逃げたお前が悪い。


「あの野郎、逃げやがったな」


「ゼクト様」


「ゼクト…」


「マリンにルナ取り敢えず今日はゆっくり休んでいてくれ!」


「ゼクト様はどうするのですか?」


「ゼクト…どうするの?」


馬鹿な奴だ、俺から逃げられると思うなよ!


「俺は逃げた馬鹿を捕まえて働かせる…尤もきつい仕事をさせてやる」



それだけ二人に伝えると走り出した。


◆◆◆


逃げられると思うなよ!


幼馴染なんだから、お前の行動はお見通しだよ。


性格からして街にはいない。


自然の中にいる。


部屋を見たら釣り竿が無かった。


魚釣りが好きな彼奴が、竿を持ってない訳が無い。


魚釣りだ。


絶対にそうだ。


手がかりが解ったから…後は探すだけだ。


◆◆◆


ギルドに来た。


「嘘だろう、コハネってそんなに釣りの場所があるのか?」


「ここは観光地ですから…あははっ探すのは無理ですね」


あの野郎、ふざけるなよ!


絶対に探せない。


その自信からの行動か…畜生。


もう許さないからな。


◆◆◆


あははっ馬鹿だよね、きっとゼクトは僕の事探しているよ。


だけど、此処はコハネなんだから村と違う。


村なら魚釣りの場所なんてそんなに無かったけど…


此処には海も湖も川もあるんだよ。


絶対に特定なんて出来ないよね。


そして僕は海に来たんだ。


此処なら岩場があるし、周りから見えない。


探せるわけないよ。


「おっ、釣れた…これは塩焼きが良いかな」


料理が下手な僕だけど、焼くのと刺身は出来るんだよ。


「うん、美味い…頬が落ちるよ」


嘘だよ…美味しくない。


昔は一緒にマリアやメルが居た。


そしてゼクトにセレスが居たんだよ…


一人じゃ美味しくないよ…大物を釣っても自慢も出来ないし…


なんで僕だけこうなんだろう。


出来たら『昔みたいに皆で遊びたい』それだけなのに。


僕だけ置いてけぼりじゃないか?


何か仕事した方が良いのかな…


だけど、僕は『やりたい事が無い』んだよ。


どうしたら良いのか僕にも解らない。


これじゃいけないのは解るよ。


だけど…どうして良いか解らない。


『戦っていた方が良かった』


ただ、剣を振るう生活が…ううん駄目だよ…弱虫になった僕はもう戦えないじゃないか?


僕はどうしたら良いのかな。


まぁ、考えても無駄だよね。


今は釣りを楽しもう。




もう夕方だ。


流石にもうゼクトも諦めた頃だよね。


帰ろう…


◆◆◆


「よう、お帰り…リーーダーーっ」


「ひぃゼクト…」


馬鹿な奴。


時間さえ気にしなければ、家の前で待っていれば良いんだ。


此処しか帰ってくる場所は無いんだからな。


「こんな遅くまで何処に行っていたのかな? リダ?それは竿だよな!約束を破ってさぞ楽しかっただろうな!」


「ゼクト…その僕はあははは忘れた訳じゃないんだよ!」


「そうか?」


「あはははっ怒っている? あの明日は、絶対働くから良いよね」


俺は此奴を信頼しない。


「何を言っているんだ! 俺とお前は今日働く約束をしたんだぜ!」


「だけど、もう遅いよ、今から行っても仕事は無いよ」


そう言うと思ったよ。


だが、そこはちゃんと手を打ってある。


「いや、ちゃんと『仕事』なら貰って来たぞ、そら」


「嘘だよね? まさかこれから働かせる気…嫌だよ」


「リダ、お前が逃げたから悪い『約束は今日』だからな…ほら行くぞ」


「こんな夜遅く、何をさせるのさ…」


「地下下水道の掃除だ…今から朝までやれば綺麗になるだろう」


「徹夜じゃないか…嫌」


「嫌じゃねーよやるんだよ…お前が逃げるから悪いんだからな」


「そんな…」


「ほら、流石にマリンやルナはもう寝ているけどな、俺は付き合うからほら行くぞ!」


「絶対、これ僕に対する嫌がらせで受けたよね? そうだよね」


「俺もやるんだから行くぞ!」


俺だってやりたくねーよ。


だがこの時間で出来る仕事がこれしか無かったんだから仕方がねーだろうが。


逃げたお前が悪いんだ。

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