第200話 幼馴染たち ゼクトSIDE


話はもう終わった。


終わってみると、案外あっさりした物だったな。


時間が経った事でお互いに余裕が出来、よい結果になったのかも知れない。


あの時にもし、粘り強く話しても結果は悪い方にしか転がらなかっただろう。


結局、リダ達幼馴染3人とは和解して、母さんも『セレスにしっかり謝りなさい』で話は終わった。


これでわだかまりは無くなったわけだが…


◆◆◆


「それで、ゼクト久々に僕と模擬戦でもしてみない?」


「私は元聖女なので模擬戦は参加しませんが、これでも腕は上がりました。死ななければこの『白銀の祝杖』にかけて治してあげますよ」


「それじゃ、私は手加減して相手して貰おうかな?」


「いいぜ、久々にやろうか? 最初はリダからか? 木剣で良いよな?」


「真剣で」


なんで目を逸らすんだ?


「別に、真剣じゃ無くても良いだろう?」


「真剣でやろう」


何故汗をかいているのか解らない。


だが、此処迄言うなら仕方がないな。


借りは微妙だがあるし…マリアも居るから大丈夫か?


「解ったよ」


仕方なく、俺は剣を抜き正面に構えた。


「そう、それじゃ行くね!我は如何なる強敵にも怯まない…この剣と共に!」


なんだ?


「何処からでもかかって来い」


可笑しいな…体と剣の動きに何故だかズレがある。


剣身一体…それがリダだった筈だ。


「これでどうだ!」


確かに素早い。


今の攻撃は、昔の俺じゃ躱せなかったかも知れない。


だが、更に弱くなった気がする。


「確かに素早いな…だが、怖くない」


「負け惜しみ? 実際に防戦一方じゃないか!この分なら僕の勝ちだね…そらそらそらーーっ」


確かに素早いし躱すのは大変だ。


だが、怖くは無い。


前にリダと模擬戦やった時は実力以上に怖かった。


そのピリピリした感覚が無い。


本当に可笑しい。


「一応、聞いておくが魔法は無しなんだよな?」


「勿論!」


「そうか?」


「まさか魔法を使う気! 勝てそうも無いからって卑怯だよ!」


「卑怯なのはリダ、お前だ!」


俺は剣を放りだし拳を構えた。


そして、笑顔をつくり…


「リダ~行くよーーーっ」


子供がただ遊びで殴るような感じで、素早くリダの頭を小突いた。


「痛っ…痛い」


通称、ぐるぐるパンチ。


「痛いっ、痛いっ痛い、なんでそんな…痛いって」


「リダ…それ魔剣だろう? 魔法禁止なら魔剣は魔法で動くんだから明らかにルール違反だろう?」


「知っていたの?」


「いや、だが2回も『我は如何なる強敵にも怯まない…この剣と共に!』か? 呪文みたいな物を言っていれば警戒位するさ! しかも剣と体の動きがバラバラ…それで気がつかれないと思ったのか? そこ迄解れば、その剣が『自動で戦う魔剣』なんじゃないか…その位は読めるさ」


「ゼクトなのに…」


「ハァ~お前馬鹿にしすぎだ! これでも俺は勇者だ…あっ元な」


「なっ」


「そこからは簡単だ…剣がどうしたら動作しないか考えて、武器を捨てて、極力戦う意思を押さえて拳で殴った。それだけだ」


「それが解ったなら、こんなに殴らなくてもいいじゃん! 僕こぶたんが出来ているよ…痛いなぁ」


「いや、魔法無しなのに魔剣を使うのは卑怯だろう? その時点で反則負けだろう…」


危なかった。


最近は、セレスに言われた通り、本を読む様にしていた。


もし『代わりに戦う剣』の事を知らなかったら…負けていたかもな。


「あはははっ、そうだね」


「なぁ、リダ、お前はもう戦うのを辞めた方が良いよ。もう魔族と戦う事も無いからな…いい加減自由に生きたらどうだ」


「あはははっ、そうなんだけどね…実は」


リダから話を聞いたが、此奴『剣』以外全く何も出来ずに、色々仕事をしたのだが、全滅したのだとか…今はフレイ王女の剣の相手を偶にしたり、セレスと遊んでいるのだとか…


「そうか…」


俺は此奴に対してのみは責任を取らないといけないのかも知れないな。


だが、それは他の二人の様子を見てからだな。


「そう言えば、マリアはかなり治療の腕は上がったみたいな事言っていたな」


「毎日、セシリア様に鍛えられているからね…今は出かけているから羽を伸ばしている感じだよ。今じゃ本当に死んでいなければ殆どの治療ができるわ、四肢欠損も腕や足があれば繋げられるわ…尤も、セシリア様曰く『聖女なら手足が捥げていても生やす位できないと』そうにっこり笑われて…まぁ一生懸命教会で奉仕を兼ねてヒーラーをしているわ」


「頑張っているんだな」


「まぁね…セレスが居るから此処には教皇様も名誉教皇様も入り浸りだから、もう逃げられないし、頑張るしかないわ」


「それが本来の聖女の姿だからな頑張れよ」


「ゼクトに言われたくないわ」


「そうだな、それでメルはどうなんだ?」


「私は…お母さんと古書巡りをしたり、偶に近所の子に勉強を教えたりしているかな、一応はお母さんのお勧めで最近は図書館の仕事をしているかな『賢者』なんていっても研究の一つもしてこなかったから、研究者なんて無理だし、やるならそれこそ学生から頑張らないと無理だし…まぁ、このまま図書館の司書でもしていくつもり…それでね、協力して欲しいのは…これなのよ」


メルは一冊の本を俺に見せた。


「これは?」


「『偽りの魔導書』って言うの。武器を兼ねていて戦いながら読む必要があるの…」


「それじゃ協力するよ」


今度はメルと模擬戦か…


リダ以外はしっかりと生活しているんだな。










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