第183話 セレス強奪



空竜艇。


恐らく乗っているのは残してきた3人の妻に違いない。


国に数台しかない乗り物をまさか使ってくるなんて。


セシリア辺りがロスマン名誉教皇にお願いしたに違いない。


「セレスくん、これで休暇もおしまいだね」


「流石に迎えが来たんじゃ、もう帰らないとね」


「セレスさん、楽しかったわね」


「セレスちゃん、また来ようね」


「そうだね、此処は俺達の領地の中だから、来たければ何時でも来られるからまたこよう」


「「「うん」」」


本当に楽しかったな。


だけど迎えが来たんじゃ仕方が無いな。


◆◆◆


「セレス様、酷いのですわ。幾らバカンスとは言え長すぎますわ」


「そうですよ!教会関係者や国王たちを押さえるのにどれ程大変だったか…本当に大変だったんですから」


「うんうん、凄く苦労したんだよ」


確かに今回のバカンスは三人が上手く周りを押さえてくれたから実現した。


間違いなく陰の功労者だ。


「ちょっと!フレイは何もしてなかった筈ですわ」


「そうよ、なにちゃっかり便乗してんですか?」


「あれ、そうだっけ? 私も結構頑張ったよ?」


この三人を見ていると何故か幼馴染を思い出すんだよな。


姫と聖女で教会の中心人物でも、案外中身はリダ達と余り変わらないのかも知れない。


「まぁまぁ、皆ゴメン、つい楽しかったから…」


「まぁ仕方ありませんわ…別に怒ってないですわ」


「そうね、怒ってないから安心して下さい」


「私も怒ってないよ?」


そう言いながらもマリアーヌやセシリア、フレイの顔は拗ねている様に思えた。


俺にとって4人は特別な存在だ。


この世界に生まれ変わってから、憧れの女性達であり、子供の頃からの恋愛対象だった。


10年以上前から好きだった相手だ。


だけど、彼女達も同じ妻だ。


少し軽率だったかも知れないな。


「まぁ、余りセレスくんを責めないで、久々の旅行だからつい羽目を外しちゃったのよ」


「そうそう、セレスじゃ無くて私達も悪いから」


「セレスさんばかりが悪い訳じゃ無いのよ」


「セレスちゃんだけじゃなくて私も同罪だわ」


なんでだろう?


マリアーヌやセシリア、フレイの顔から汗が噴き出ているのが気になる。


「そうですわね、今回は静子様達も悪いのですわね」


「うんうん、師匠達も悪いんですね。認めましたね」


「師匠も悪いんだ」


「はいはい、セレスさんを独占して悪かったわ」


「私も悪かったわ」


「ごめんなさい」


「悪かったわ、これで良い?」



「それじゃ、その分の補填はしっかりとして貰うのですわ」


「静子師匠が悪いと認めましたので」


「それじゃ、頂いていきますね」


フレイがいきなり俺を担いだ。


「「「それじゃぁ、今度は私達がセレス様を借りていきまー-す! それじゃー-ね」」」


「待ちなさい、セシリア、それとこれは違う話よ」


「セレスを返せー-っ」


「セレスさんを離しなさい」


「セレスちゃんを返して」


そうは言うが静子達の顔は笑っている。


本気で追いかければ元上級冒険者の彼女達なら簡単に追いつける。


フレイやセシリアは兎も角、マリアーヌは王女はどう考えても足が遅い。


これは多分、彼女達のじゃれあいだ。


だから、このまま奪われていくのが正しい。


大体、空竜艇から降りてきたのが3人というのも可笑しい。


本来なら付き人が先に降りてくるのが普通だ。


しかもシャロンも居ないし…


これはマリアーヌ達はわざと静子達に解るようにしている。


そうとしか思えない。


だから、これは只のコミュニケーションだ。


「それじゃ静子様達、セレス様はお借りしていきますわ」


「師匠お借りしていきますね」


「師匠、またなー」



「「「「こら待ちなさい!」」」」


俺を担いで飛竜艇に三人が乗り込むと橋が上がる。


その手前で悔しがる静子達。


本気なら、ジャンプして飛び乗る事も出来た筈だ。


だが、そうはしなかった。


飛竜艇はそのまま静子達を残し空へ飛び立った。


『なんだかんだ言って皆仲が良い』


これは只のポーズでお互いが本気じゃない


その証拠に静子達はもう笑顔で、こちらに手を振っている。


◆◆◆


「さぁ、セレス様、これからは私達とバカンスなのですわ」


「そうですよ!静子師匠達ばかりずるいですよ」


「そうだよ、同じようにちゃんと構ってよ」


「そうだね…ゴメン」


三人の傍にシャロンも居るが流石に話して来ないな。


「解った…ゴメン」


とはいえ…これどうすれば良いんだ?


確かに、三人はもう妻で、やる事はやってはいる。


だが…静子達と違い、思い出は少ない。


それに王女と先の聖女だからか、元は村人の俺はどうしても緊張する。


同じ聖女でもマリアと違いセシリアにはオーラがある気がする。


本当はそんな物は無いが『気高いオーラ』みたいな物を感じ、どうしても3人相手には気安く出来ない。


「セレス様、もう少し砕けて話して欲しいのですわ」


「いや、どうしてもお姫様と話している気分になって、少し緊張するんだ」


「ですが、教会認定でこの世で一番偉いのはセレス様に決まったじゃありませんか? 私は只の昔の聖女、二人だってたかが王女ですよ」


「呆れた!女神に次ぐ位偉いのに何をいまさら…」


確かにそうなんだけどな。


緊張する物は緊張するんだから仕方が無い。



「だけど、こればかりは仕方が無いだろう」


「それじゃ、今回のバカンスはセレス様に慣れて貰う事に決定ですわね」


「そうね…うんそれが良い」


「それじゃ、早速…」


「「「抱き着いちゃえ」」」


これはこれで嬉しいけど…ここは飛竜艇だから、周りには動かす人が結構いる。


小心者の俺は少し恥ずかしいな。








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