第179話 「好きにして良い」という言葉の意味



しかし、俺の体は竜なんだよな。


種族は変わってしまったが『好きなのは』人間だ。


流石に他の竜を見て欲情しない。


勿論、爬虫類を見て『可愛い』とか思わない。


体に精神が支配されなくて良かった。


もし、そうなっていたら…怖いわ。


◆◆◆


それで、いつ帰るかだな。


特に決めてはいない。


此処は俺の領地のなかだし、帰ると思えば何時でも帰れる。


逆にずうっと続けていたいと思えば、流石に限界はあるだろうが幾らでも続けられる。


どうしようか?


基本的に誰に聞いても…


「「「「セレスくん(さん)(ちゃん)の好きにして良いのよ」」」」


で終わってしまう。


俺が喜ぶと皆も喜んでくれるのは良いんだけど。


どうして良いか解らない。


この経験は…多分前世で4度程経験した事がある。


「〇〇〇くんの好きな様にして良いのよ? ほらね…」


もう顔も思い出せない、思い出そうとしてもまるで光の靄の様なもので隠れていて見えない。


だが、俺はこの人が『誰よりも愛していてくれた』それは知っている。


そして、その笑顔は、素晴らしく綺麗に思え、優しく俺を包んでくれていた。


それだけは間違いない。


そう前世の母親だ。


それからもう一人。


「貴方の好きな様にして良いのよ」


これも素晴らしい笑顔だった。


同じように顔には靄が掛って見えない。


彼女に俺は支えられ子供を儲け、俺を父親にしてくれた。


前世で結婚していた妻だ。


もう一人は…


「お父さんの好きにして良いよ」


前世の俺の娘だ。


今では顔も思い出せないが、その笑顔は太陽の様に暖かく可愛かった気がする。


そして最後に一人は今でのしっかり覚えている。


この世界での母親。


『お母さん』だ。




『好きにして良いよ』


その言葉と笑顔には沢山の信頼が込められている。


だから、この言葉は凄く嬉しく感じる。


だけど…前世を含み凄く困る。


何故なら俺は『優柔不断』だから。


任せられるのが実は凄く苦手なんだ。


何時迄此処に居るのか、そろそろ考えないといけないな。


◆◆◆


「セレスくん、なんでこのステーキは薄いのかしら?」


「本当に美味しいけど? なんで此処迄薄いのかな」


「本当に、これだと10枚くらい食べて普通のステーキ1枚位だわ」


「これじゃぁ、薄焼きでステーキじゃ無いわね」


理由は解る。



しかし、過去の転移者や転生者は凄いな。


此処迄、再現するなんてな。


あくまで俺の予想であって本当の所は解らない。


此処コハネは、恐らく前世で言う箱根と小田原をあわせた様な感じがする。


恐らく、箱根に近い物を昔の転移者や転生者が作った結果できた街なのかも知れない。


虫食いの記憶の中に『箱根』の記憶がある。


たしか、結構な山奥にあったから、食材の調達が難しく、その結果が『薄くて高いステーキ』だった。


一応はコースだけど、凄く量が少なく高かったよな。


このステーキは恐らくそれを再現した物だ。


だが、問題なのはコハネは箱根ではない。


だから、立地が悪く『肉』が手に入らないから。


と説明は出来ない。


「理由は解らないけど、美味しいなら良いんじゃないか?」


「「「「そうね」」」」


俺達はステーキを何回もお代わりをして、その味を楽しんだ。


しかし、子供の頃このステーキを沢山食べたいと思ったけど、親に『1枚にしなさい』と2枚目は食べられなかった。


まさか異世界に来て、沢山食べる事が出来るようになるなんて思わなかったな。


◆◆◆


この旅は本当に楽しい。


このまま、続けられたら…


そう思わなくもない。


だが、あくまでバカンスはバカンス。


何処かで終わりにしないと…


帰る事を考えると憂鬱だな。









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る