第177話 不憫なUMA
やる事をやり、うたた寝していると、いきなりあたりが暗転した。
「ばっ、バウワー様?」
一瞬にして俺は冥界に連れて来られたようだ。
「久しぶりだな!黄竜セレス」
「良い、良い、お前は私の眷属で、更に言うと幼い。そう無理をしないで良い。気楽に話せば良いんだ」
そうは言う物の…黄竜になったからこそ解る。
神なんか比べ物にならない位に圧倒的な力を感じる。
流石は冥界の支配者。
冥界竜バウワー様だ。
「解りました。それで今日は一体どういったご用件でしょうか?」
「そう構える必要は無い。この間お前が送り込んだ謎の生物についてだが、多分お前も知りたいだろうと思って招いたのだ。知りたくないか?」
あの謎のUMAの事か?
確かにあれは、何だったのか?
全く想像がつかない。
「確かにあんな生物なんて見た事も聞いた事もありません。あれは一体なんなのでしょうか?」
一体あれがなんなのか全く想像がつかない。
「あの生物は『あの生物』だ」
なにかの冗談か?
『あの生物』ってなんだよ…もしかして揶揄われているのかな。
「揶揄ってなど居ないよ。あの生物は『あの生物』それが正式な呼び名だ。いつの間にか現れ詳しい事は解らない。だが…あれは…非常に良い物だ」
良い物? あの滅茶苦茶な生物が?
「あの訳の分からない物が『良い物』」
「あはははっ、確かにあの気持ち悪い姿から想像もつかないかも知れないが…美味しんだよこれが、黄竜セレスも食すと良い…だれか『あの生物』のステーキを持ってきてやってくれ」
何処から現れたのか美女が、ステーキを持ってきた。
あの気持ち悪い生物を食べる?
大丈夫なのか?
アメフラシみたいに気持ち悪いあれを…
そう言えば前世で、確か、ざざ虫やカンガルー、蜂の子にサルにワニ。
寄食とか言って出すお店があったが…それにも増して『あの生物』は気持ち悪い気がする。
「これ食べないといけないんですか?」
黄竜は運を味方につけると言うが、絶対に機能して無いような気がする。
「良いから食べて見ろ…美味いぞ」
バウアー様が言うのだ、口をつけない訳にはいかない。
俺は恐る恐る口に肉を運んだ。
「頂き…ます」
美味い。
魚の様な鶏肉の様なあっさりした味。
非常に体に優しい…そう感じる。
凄く、美味しい…油が少なく…今迄食べた物なら食感や味はワニ肉に近い。
少し硬い鶏肉味だが、姿は人間でも俺は竜公…竜だ。
軽く食い千切れる。
「どうだ美味しかっただろう? 肉を水でさらして、しっかりと下処理をすれば美味だ…尤も我ら竜族なら『生』で食べても美味しく食べられる。一旦竜化した姿で食べて見るが良い…生もイケるから」
バウワー様曰く竜の姿の時と人間の姿の時で味覚が違うそうだ。
今食べた肉は、下処理した物だが、竜の姿なら処理しない状態の肉でも美味なんだそうだ。
「確かに美味しかったです」
「そうだろう!我々竜族にとっては最高の食物なのだ。このまま数が増えてくれれば、食物事情が凄く良くなる」
「『増えて』という事だと、あの生物は他にも居たのですか?」
「ああっ、いるよ」
そう言うバウワー様の近くには『あの生物』の残骸が無数に転がっていた。
この世界で死んだ生き物は必ず冥界に行く。
だけど…そこで死んだ存在はどうなるのだろうか?
「そうですか」
「黄竜セレス…冥界では生き物は死なない。例え死ぬような状態でも必ず蘇る」
バウワー様の前では隠し事は出来ないな。
全て読み取られてしまう。
そう言われてみて見れば…『あの生き物』が再生している様に見える。
「そうなのですね…」
「ああっ、だから食べ放題だ」
冥界で永遠に食べられる存在。
凄く不憫だ。
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