第164話 今を楽しむ



寿命か…


確かにこの世界の人族の寿命は50年から60年。


500年と言う月日は永すぎる。


だが、黄竜になった俺にはそこ迄、永いとは思えない。


種族が変わるという事はこういう事なのか?


考えても見なかったな。


俺の昔の理想は『誰よりも早く死ぬ事だった』


まだ若いのに…そう思うかも知れないが…この世界の親が死んだ時からそう思っていたんだ。


『母さん、俺を置いて死なないで』


『父さん、俺を置いて死なないでくれ』


泣きながら叫んだ記憶がある。


両親が死んでいく…それを見送る時、凄く悲しかった。


だから、もし、どちらか選べるなら、俺は『見送る側でなく見送られる側』になりたい、そう思っていた。


勿論、死にたい訳じゃない。


あくまでどちらかを選ぶならだ。


それが竜公から更に竜神になった事で不死の存在になってしまった。


今の俺には『見送る側』しか最早ない。


最愛の妻達、幼馴染に親友…その別れに俺の心は耐えられるのだろうか?


多分耐えられない。


普通の人間はお別れ迄数十年…だが冥界の支配者であるバウワー様の眷属である、俺は死後の世界、冥界でも皆に会えるから、完全な別れはかなり先になる。


バウワー様であっても、輪廻の輪から他の存在を外す事は出来ないから数百年後、本当の別れが来る。


魂は滅ばなくても記憶は持ち越せないから…転生した皆は『今の皆』じゃない。


村の皆に知り合った全ての人々が『全員別人になる日』がいつか来る。



『寂しいな』 


なんでこうなったんだろう?


『死なない』


生きていたいのに病気で死ぬ人も居る。


少しでも『生きていたい』そう望み戦っている人もいる。


それは解っている。


だが『自分だけが死なない』それが考えるだけで此処迄、寂しく悲しい思いをするなんて思ってもいなかったな。


これは凄く贅沢な悩みだ。


それは言われなくても解っている。


だが、それでも俺は寂しく、悲しい。


「セレスくん」


「セレスー-っ」


「セレスさん」


「セレスちゃん」


心配そうに皆が俺の顔を覗いていた。


「皆、どうかしたの?」


「セレスくん、泣いているけど!どうかしたの?」


何でも無いよ…


「セレス…何か悩み事なのかな? 相談に乗るよ」


本当に何でも無いって…


「セレスさん、悲しい夢でも見ていたのかな?」


何でも無いよ。


「セレスちゃん、昔みたいに膝枕してあげようか?」


大丈夫だって。


「皆、気にしないで、少し悲しい夢を見ていただけだから」


「「「「そう?(大丈夫)」」」」


良く考えたら、まだ結婚したばかりの新婚ほやほやじゃないか?


500年後なんて考えるのは馬鹿らしいな。


「とりあえず、暫くは何も考えないで思いっきり、遊び倒そう!此処暫く忙しかったからさぁ…」


先の事なんて考えるのは馬鹿らしい。


取り敢えずは、今を楽しむ。


それで良いよな。





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