第162話 無限の俺と有限の皆
俺は急に意識を失った。
何処だ、此処は…
「久しぶりだな、黄竜セレスよ」
凄いな、気がつかない間に此処に連れて来られたのか…
「いきなり何故此処に居るのでしょうか?」
「私はバウワーだよ? 冥界竜にこの世界で出来ぬ事などないな」
「それで私にどういった御用でしょうか?」
「その事なのだが、黄竜セレス、お前 幼い竜だが神竜になっているから、その注意だ」
神竜?
人間は確かにそう呼ぶが、それで何か変わったのか?
「確かに、私は一部の人間に神竜と呼ばれる様になりましたが、それで何か変わったのでしょうか?」
「変わるも何も、竜という種族を超えて『神』になっていますよ。実際、竜公の中でも幼き竜なのに上位の実力者になっていますね」
まさかそんな。
「幾らなんでもそんな事無いと思いますが」
「まぁ、自分では解らないのかも知れませんが、実質、生ある世界の半分は貴方の物ですね!しかも、死後の世界も私の眷属だから自由に出来ますから、この世界で貴方の思いのままにならない事なんて無いでしょうね」
相変わらず優しいお兄さんの様に話してきているが…その圧が凄い。
確かに俺は強くなったのかも知れない。
だからこそ、バウワー様の強さが以前より解る。
俺を気づかれること無く一瞬で別の世界に連れて来れる程の力があるんだ。
恐らく戦ったら1分も持たない。
まぁ絶対に戦わないけどな。
「そうでしょうか? バウワー様に言われても…」
「それはお前が竜としてまだ赤子みたいな年齢だからだ、いくら強くてもセレスはまだ赤ん坊だからな、成長すれば私に次ぐ竜種になるのは間違いないな…何しろ私を除いて神に到った存在なのだからね」
いやこれは可笑しいな。
「あの、黒竜とかは神竜じゃないんですか?」
「ああっ、彼奴らは『成る気になれば何時でもなれる』が自由が好きで困った事になろうとしないんだ…尤もセレスもなりたいと思っていないのに…なってしまったんだろうけど…もう『神竜』になってしまったから戻れないけどね」
「あの、竜公と神竜って何か違うのでしょうか?」
何か変わった様な気がしない。
「簡単に言うと『神竜』になると神だから、自分の世界の『信仰』を力に変えることが出来る。簡単に言うと自分の世界限定で奇跡を起こせる」
「自分の世界で奇跡を起こせるのですか!」
「何を驚いているんだい? 私の眷属だから、死んで首だけになっても蘇っただろう! あれは冥界をおさめる私の眷属ならでは奇跡だ。セレスの場合は生ある世界の『神』でもあるから、もう死ぬ事すら無いのかも、竜の定義の『死なない』のではなくもう違う定義での『死なない』も手に入ったのかも知れないな」
頭で理解できない。
「良く解りません」
「まぁ、とんでもない存在になった。それだけ理解していれば良いさぁ」
「そうですね」
「それで此処からが本題だ。君にどうしても会いたいという女性が居てね、紹介しようと思って…まぁ強制的な話しなんだけどね」
「女性の紹介ですか?」
「ああっ、まぁな」
バウワー様からの後ろから、凄く綺麗な女性が現れた。
まるでこの世の物とは思えない位、美しい。
誰だ、この人は。
「初めまして神竜セレス、私の名はイシュタス…女神です!」
そうか、どうりで見た事がある筈だ。
小さい頃から教会で祈っていたんだから当たり前だ。
「いいいいイシュタス様…ですか…この世界の女神様が一体何故」
「私の眷属が何を驚いているのですか? まぁ幼いから仕方ないですが、もう貴方の神格はイシュタスと同格以上なのですから普通に話しなさい」
と言われても『女神』なんだ…そう簡単に出来ないよな。
「あの、そんな驚かないで下さい。私は小さい頃から貴方の事を良く知っていますよ! 貴方を気にいっていたからこそ『魔法戦士』なんて良いジョブを与えたのですから」
「そうなのですか?」
「はい…その貴方もご存じの通り、勇者を含む四職は義務が発生しますから、そう考えると自由に生きるなら最高のジョブですね…まぁ巻き込まれてしまったようですが…ですが、セレス様は凄いですね…あのマモンを倒し、更にマモンが軍神と化したアークスまでどうにかして下さるなんて…本当に感動しましたわ」
「はぁ」
「それで私なりに考えたのですが『褒賞』を与えたいと思いまして」
「褒賞ですか?」
「はい…貴方にはこの女神イシュタスとの婚姻の権利を差し上げます」
いや、これは不味い。
静子達に怒られるからな。
「それは辞退させて頂きます」
「あのですね…実はもうこれはセレス様には断る権利が無いのですよ! 諦めて私の夫になって頂きます」
「何故でしょうか?」
「セレスよ…お前は『イシュタスと2人一緒』に信仰の対象になってしまったのだ…イシュタスの像の隣にセレスの像が作られているだろう? つまり、あの世界は既に対外的に『二柱の神、イシュタスとセレス』の治める世界となってしまったのだよ」
「それに魔族からの信仰までセレス様がおありなので、邪神の権利も消失しまして、完全に二人の物なのですよ?」
「それって」
「まぁ、いますぐではないが、セレスはあの世界をイシュタスと治めなければならないね。私が『冥界竜』となり冥界をおさめているのと一緒だね」
「私は女神ですから嫉妬心は薄いし神なので時間の進み方が違うので安心して下さい! 500年待ってますから…500年後、私の夫になって下されば構いませんからね…そこ迄待てば、貴方の妻も親友も全員死んでいますから、心置きなく私の夫になれる筈です」
いや、俺は冥界竜バウワー様の眷属だから、死後の世界『冥界』も行き来できるから。
「確かに人間ならそうですが、俺既にバウワー様の眷属ですから、死んでも縁は切れませんよ」
「そうだな、だがなセレス、もう信仰によってイシュタスと繋がってしまったから二人の縁はもう切れないな…まぁ500年待ってくれるとイシュタスが言うのだから…暫く考えれば良いんじゃないか?」
「多分俺は500年先でもきっと皆を愛していると思います」
「セレス…お前に言っておくが彼女達は500年後は恐らくセレスを愛していない」
そんな訳ないだろう…きっと皆も俺の事を愛してくれている筈だ。
「そんなことは無い…絶対に無い」
「セレス良く聞け…人間は輪廻転生する。未来永劫死なない我々とは違う。近い将来死に、この冥界に来て…そして生まれ変わる。幾ら愛し合っていても来世に記憶は持ち越せない。幾ら私の眷属でも彼女達に干渉出来るのは死んで冥界に居る間だけなんだ…すまないがそれがこの世界の真理だ」
そうか…当たり前だよな…
だが、それでも俺は…
「私達、神にとって時間は永遠です…ゆっくり考えて貰って構いませんからね…私は幾らでもお待ちできますから…」
「そうだな、まだまだ先だ…ゆっくりと考えると良いよ」
「そうですね…解りました」
そう答えると俺は再び意識を失った。
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