第161話 放っておこう
「おはようございます! セレス様、気持ちの良い朝ですな」
「本当に…えっ」
「ほほほっ私の顔に何かついておりますかな?」
なんで、此処にローアンヌ大司教が箒を持って掃除をしているんだ。
「あの、ローアンヌ大司教が何故こんな所で掃除なんてしているのですか?」
「此処はコハネ国で保養地ですよ、バカンスですよ、バカンス、それに私ごときで驚いていたら、ほらあれ」
「あれ?」
嘘だろう…なんでロスマン名誉教皇にロマリス教皇までもが朝から掃除をしているんだ。
「おはようございますセレス様、なにかお困りごとはございますか?」
「なにかございましたら、なんなりとご命令下さいな」
「俺は平穏に生きたいと望んだはずだけどな」
「はい、ですから私は教皇ではなく、只の隣人の爺として此処におります」
「私も同じですね」
「私もそうですな」
世界的な権力者が3人も隣人に居る。
これの何処が平穏だと言うんだ。
「あのな…」
「ほほほっ只の隣人ですよ…私達以外にもほらっあそこ…」
「なんですか? 新しい家が幾つか作られているみたいですが」
「あっ何でも、ザンマルク四世は国の事は摂政に任せて此処に住むそうですよ! 難儀な物で大きな屋敷が必要だとかであそこに屋敷を作っている最中ですな」
しかし、城の近くに教会があるから聖職者がそこに越してきたのは解るが、ザンマルク四世は態々城の傍に館まで作るのか。
しかし、王が館で俺が城で良いのだろうか?
まぁ言っても『神』ですからで終わるんだろうな…
「そうなんですか」
「はい、そしてあちらの屋敷がサイザー帝王の屋敷の筈です。どちらも完成したら、すぐに引っ越してくると聞いております」
「あの、ローアンヌ大司教、両方の国はまだ跡取りが決まってないと以前に耳にした事がありますが、どうするんでしょうか?」
「私は知りません、教皇様は何か聞いておりますかな?」
「流石に私も詳しくは知りませんが、王国は将来はセレス様のご友人の元勇者ゼクト殿を次の王に考えているふしがあります。もし、何でしたら、私が聞きましょうか?」
「いや、そこ迄してくれなくても大丈夫です」
「そうですか…」
ゼクトが王か?
それは魔王討伐後の未来においてあり得た未来だ。
あるべき姿に戻りつつある。
そう言う事だな…
だが、問題は俺の方だ。
「ほほほっ、折角だから焼き芋でも作りますかな?」
「教皇様良いですね」
「ローアンヌ…」
「ああっ違いましたね、ロマリス様」
「そうですよ、私は此処では只の爺として生活しているのです、ロスマン…もですよ」
「そうです、だから『様』は要りません私をロスマン、ロマリスはロマリスと呼んで下さい」
「それは…せめて『様』はつけさせて下さい…お願いしますから」
ローアンヌ大司教も困っているな。
可哀そうに。
如何に八大司教とはいえ、名誉教皇に教皇。
この世界で本来であれば1番2番目に偉いと言われる人物。
それを呼びつけ等、なかなか出来ないだろう?
そう言えば…長蛇の列はどうなったのだろうか?
「そう言えば、あの時一緒に来ていた長蛇の列はどうなったのですか?」
「ほほほっ、セレス様が『平穏』を望みましたので帰しました…ですがお金のある者は今、コハネの家を買う為に躍起になっているそうです、そしてコハネの国民になる為の移住許可をとろうと頑張っているみたいですな」
「それ問題じゃないんですか?」
あちこちの国の権力者が移住してくる…世界的に不味くないか?
「そうでもないと思いますよ? 私もロマリスもローアンヌももうコハネの国民ですから」
「はぁ~…あっすいません、冗談ですよね」
確かに教皇は王ではない。
だが、実際は王を上回る権力を持ち、実質聖教国の支配者だ。
それが他国の国民になるなんて可笑しいだろう。
「冗談ではありませんよ!私は名誉教皇でもう二人は教皇と大司教なのです。国より神、それが私達なのです! セレス様が平穏を望みましたから、こうしておりますが、もし欲しいと一言おっしゃれば聖教国ガンダルは『神竜 セレス様』の物でございます」
「ほほほっ、名誉教皇様に教皇様、もう実質的にあの国は…」
「ええっ、第二のコハネみたいな物ですね、聖教国なのですから、全てが信心深い者しかおりません…本物の『神』が居ると知った今、ガンダルの国民の殆どがコハネの国民になろうと躍起になっておりますからな…」
「事情があって離れられない者は『神竜国ガンダル』と変えようとする動きもありますから、まぁ時間の問題ですな」
「そ、それで良いのですか?」
「「「ええっ我々は聖教者ですから」」」
頭の中に一瞬狂信という言葉が浮かんだが…
もういいや…放っておこう…
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