第143話 喧嘩
俺はザマール王国近くの山に囲まれた平原に陣取った。
此処で、マモンの残党と戦うつもりだ。
どうやら、帝国も聖教国も無事に素通りで済ませたようだ。
俺は羽をしまい普通の人間の状態に戻った。
此処からどうするかだ。
倒すだけなら簡単だ。
俺が竜の姿に変わり戦えば一方的に蹂躙できる。
恐らく相手が多いとはいえ、全員を殺すまで1時間、下手したら30分も掛からないかも知れない。
だが、それで良いのか?
幾ら魔王が斬り捨てた存在だとしても四天王の軍勢のうちの一軍だ。
実際の数は解らないが、四天王の軍勢を単純に人数で割れば1/4になる。
そんな人数を殺してしまえば、必ず遺恨が残る筈だ。
同じ国で暮らしているのだから、此処にくるマモンの軍勢にも国には友人、家族が居る筈だ。
その者達が『仲間や家族を殺されて恨まない』筈が無い。
そして、今はそれで収まってもその火種はいつか爆発して再度戦争になる可能性は高い。
それに竜の姿になり戦った事が知れれば『竜国が加勢した』そう思われ、それこそ三国でギクシャクした関係になる。
だからこそ俺はこの戦いに枷をつけなくてはならない。
完全な竜化はしないで出来るだけ人間形態をとり、戦う。
死人は極力出さないように戦い『力でねじ伏せる』
そう、これは『戦争』でない。
『喧嘩』だ。
マモンの軍勢と俺との喧嘩で収める。
それがベストだ。
土煙をあげてマモンの軍勢が現れた。
凄いな!
全員が小型のマモン。
言い換えればマッチョ。
まるでボディービルダーかプロレスラーの集団だ。
「お前が人間側の使者か?」
なんの事か解らないな。
「…」
「流石にこの人数の魔族を見て固まっておるな! 私の名前はダークゴルダー!四天王が一人だ!此処迄、揉める事無くお届けした!但し魔王様が約束したのは此処迄! 私の役目は終わり、此処で帰らせて貰う…のだが、お前1人で良いのか?」
確かに後ろが見えない位の大群。
普通は1人で迎えるなんてあり得ないな。
「俺の名前はセレス、人間側では『英雄』と呼ばれている!そしてお前達のリーダーであるマモンを倒した者だ!」
「貴様がマモンを殺したのか? 死ぬぞ! 俺の役目は此処迄、それでは俺達は去らして貰う!」
ダークゴルダー達は去っていった。
残されたのはマモンの部下たちの軍勢。
俺に恨みがある存在ばかりだ。
「貴様は舐めているのか? それとも罠なのか?この人数に対して1人とはお前は頭が悪いのか!」
相手の立場を立てる。
そこから対話を始める必要がある。
「お前達の頭であったマモンは『そういう男』だった筈だ!国だろうが、砦だろうが数に頼らず1人で戦う、正に魔族側の英雄みたいな男だった! 仲間に希望を与え、敵には絶望を与える男だった違うか!」
「我が名はゾルバ! もう既にこの軍団は魔王様の支配を離れた、ゆえに四天王は居ない、暫定的に今は俺がリーダーだ!敵ながらマモン様の事良く解っているじゃねーか! 続けな!話は聞いてやる!」
マモンは前の世界でいう、三国志の武将の様な男だった。
呂布なのか関羽なのか解らないが、脳筋だがどことなく男なら憧れるような奴だ。
残酷な面はあるが、こと戦闘中という事なら卑怯な事はしない。
「あれは『喧嘩』だった! マモンという凄い男と俺との喧嘩だ! お互いに意地を賭けた戦い、譲れない大切な物を賭けた戦い! どちらが勝っても負けても可笑しくない戦いだった!ただ、天秤が俺に傾き俺が勝ち、マモンが死んだ、それだけだ!」
少なくとも俺の人生で黒竜につぐ強敵だった。
「お前の言い分は解った! そしてその人となりもな!だが、我らにはもう帰る地は無い!引く訳にはいかぬ! お前に正当な理由があろうとな!」
「引け等とは言わない!あの時と同じように『喧嘩』をしようぜ! あの時のマモンは、街を襲い勇者パーティを倒してから俺と戦った!だから今度は俺がお前達全員と戦う! きっとそれは楽しいぞ!」
俺は脳筋じゃない!
こんな話は前世の漫画や小説を思い出しただけだ!
だが、あのマモンの部下なら乗ってくる!
そう思った。
「面白い奴だ! まるでマモン様みたいな奴だ! その話、乗ったぞ! 皆もそれで良いなー-っ! 喧嘩だ! 喧嘩ぁぁぁぁー――っ!此奴、いやセレスお前を倒さない限り王国には行かない!それは約束しよう!」
読まれていたか!
「感謝する! さぁ何処からでも掛かって来い!」
マモン軍団と俺の『喧嘩』が始まる!
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