第141話 俺のせいか



「セレス様、今王国に未曾有の危機が迫っておるのだ!助けてくれ!」


通信水晶の先に居たのは国王のザンマルク四世だった。


話を聞けば、マモンの手下の軍勢が魔王の手を離れ王国を襲いに行く。


その緊急連絡が王国に魔王から来たそうだ。


「セレス様、どうするの?とりあえず魚釣りはもう中止だね!」


そう言いながら、最後の一本にリダは手を伸ばした。


結局、俺は2本食べたきりだ。


残りは干物にすれば良い、幸い俺の収納袋は高級品だから時間が中で止まるから腐らない。


「これは行くしかないな」


「そう?それでお母さん達はどうするの?」


これが問題だ。


俺なら、ひとっ飛びで飛んでいき解決が可能だ。


だが、それをすると静子達が怖い。


「静子さん達には『王国に呼ばれたから出かけてくる』そう伝えてくれ!」


「えっ! 僕嫌だよ! セレスは良いよ、お母さん達は絶対に責めないから! 僕にはお母さんも静子おばさん達も容赦ないんだから」


「そうは言っても行かない訳にいかないだろう?」


「それはそうだけど…責められるのは僕なんだからね!」


俺は確かに責められないけど、皆の不機嫌な顔は見たくないんだよな。


1週間位『私達不機嫌です』というオーラの中で生活しなくちゃならない。


これは覚悟するしかない。


だが、行くときに『私達も行くから』を上手く断るのは苦手だ。


悪いなリダ!


「リダ、俺達は親友だよな?俺は親友のリダに命令はしたくないんだ!」


「うっ、だけど僕は…」


「マモンからも助けてあげたし、それなりに『親友』として助けてあげてきたと思うんだ。家臣だから『頼む』と命令はしたくない。あくまで親友へのお願いだ。お願いできないか?」


これで良い筈だ。


ズルいとは思う。家臣だから命令で済ませる事も出来るが、それはしたくはない。


「ハァ~セレスは最近凄くズルくなった気がする。まぁ良いや、沢山僕は君に借りがあるからね、そう言われたら断れないよ!いきなよ、お母さん達には言っておくから。ただ帰って来てからの責任は持たないよ」


セレス様じゃなくセレスと呼んでいるから幼馴染として引き受けてくれた。


そう言う事だ。


「すまないな、帰りになにかお土産買ってくるから」


「そうだね!楽しみにしているよ」


「それじゃ行ってくる」


◆◆◆


やばい通信水晶をつないだままだった。


「ザンマルク王、すみませんこれから、すぐに向かいますから」


少しそれていたから見えてはいないだろうが、音声は聞こえていたかも知れないな。


「来てくれるのは嬉しいが、一体どれだけの人数で駆けつけてくれるのですか? 1万ですか?2万ですか?」


何を言っているんだ?


俺がマモンと戦っていた姿の一部は通信水晶で見ていた筈だ。


「俺一人で行く、それで充分だ」


「英雄であるセレス様を侮るわけではありませんが1人で軍勢に戦いを挑む等無謀すぎます!」


「マモンは力、暴力の象徴だった、その部下も同じタイプに違いない、恐らく姑息な手段で倒しても納得しない筈だ! 真っ向勝負で戦えば和平の道もあるかも知れない」


「だが、無謀です」


「もし、俺が負けた場合手は打っておいて欲しいが、俺はこれで動く」


「そんな」


「それじゃ、後で」


マモンはどう考えても脳筋タイプだった。


一人で乗り込み力で戦うタイプ。


そして残酷な面はあるが戦いにおいて正々堂々と戦った。


そんな奴の部下が卑怯な事をしないだろう。


俺の正体は竜公、そして黄竜だ。


もし相手が卑怯な事をするなら、亡ぼせば良い。


だが、正々堂々としたものであるなら、出来るだけ残酷な事はしたくない。


それに、俺ならあるいは丸く治められるかも知れない。


「それじゃリダ、今度こそ、後は頼む!」


「頼まれたくないんだけど!セレスのお願いじゃ仕方が無いよね、家臣で今現在の僕は役立たずだし…だけど帰ってきたらお母さん達のお説教は覚悟しておいてね」


「解った…ドラゴンウィングッ」


俺は翼を広げ空へ飛びあがった。


◆◆◆


魔国から王国へ行くにはガルバン帝国と聖教国ガンダルを越えていく必要がある。


その辺りはどうなのだろうか?


俺がこのままザマール王国まで飛んで行っても、その前で戦闘になったら意味が無い。


最悪、帝国で迎え撃つ。


その必要があるのかも知れない。


時間はまだある。


俺の飛行速度は最早ワイバーンの何倍も速い。


前世でいう飛行機並みだ。


通信水晶で連絡をとった。


帝国はそのまま素通りさせる方針に決まったようだ。


もし、帝国に危害を加えるなら、ゼクトと騎士団でその対処をするそうだ。


聖教国も素通りさせる方針に決まった。


二国にも魔王から連絡が入り、絶対に手を出さないように目付け役の魔族を同行させるとの事だった。


話の内容からすると魔国側も『人類VS魔族』でなく、あくまで『マモンの部下VS王国』で話をおさめ大きな戦いにしない配慮をしたいらしい。


そこに到るまでの話は壮絶で四天王の1人が自害、同じく1人を処刑、そして1人は幽閉したそうだ。


ここまでされ、事前に連絡が来た以上は、その責任を魔国や魔王に問うのは酷という物だろう。


マモンの部下の軍勢が止まらない理由は『マモンの敵討ち』に他ならない。


マモンを殺したのは俺だ。


本当の彼等の敵は王国ではなく『俺』の筈だ。


他人事ではないな。


この原因は全て俺にある。


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