第140話 【閑話】魔王の決断



魔族全ての存亡の前に余の命など価値はない。


余は魔王なのだ…


全ての魔族の頂点にして王、全ての責任は余にある…


「致し方ない…余の命で納まるならそれで良い! 全員待てー――っ! ゴルバの命を懸けた命令は余の命で塗り替え…なっ」


「魔王様ゴメンっ!」


いきなり余は突き飛ばされた。


「なっダークゴルダー、なにをするのじゃー-っ」


「魔王であるルシファード様が死ぬ必要はありません! 此処に四天王なら居る。我が命でその命令を塗り替えさせて貰う!ゴメン!」


そう言うとダークゴルダーは剣を抜き自分の首に当てた。


流石にシルフィードもスカルキングも止まった。


「待て!ダークゴルダーッもう良い、剣を納めよ」


「魔王様…」


「命令だ! 剣を納めよ!」


「はっ」


「魔王様あぁ、それでどうするのですかぁ? 四天王の命を懸けた命令、四天王以上の命でなければ止まらないわ」


「シルフィードよ、どうあっても余の命令を聞かぬ、そう言うのだな!」


「ええっ聞けないわ!」


「そうか? 少しだけ待つが良い…」


「スカルキングも余の命令は聞けぬ、そういうのだな?」


「我は死すら超越した不死の王…死を掛けた願い、聞かぬ…」


「そうか? そうか? 余の願いは聞けぬのだな…仕方が無いのぉ、本当に仕方が無い、余は舐められているのだな、仕方が無い」


「はん、魔王様が何を言おうが私は…えっ」


余を馬鹿にし過ぎじゃ。


流石に魔族の始祖の決めた決まり事に逆らいたくは無かった。


だが『魔族存亡の機』それに比べれば、なんと小さき事か。


「余に逆らう鳥女等魔族には要らぬ」


余はシルフィードの羽を掴みそのまま引きちぎった。


「ぎゃぁぁぁぁー――っ!魔王様ぁぁぁぁ!お許しをぉぉぉー-」


「空の女王? たかが鳥女の分際で? もう、その羽じゃ空も飛べまい! 魔王に逆らう四天王等要らぬわ、副官のフェザー、お前が今日から四天王だ…それで此奴はどうするのじゃ!」


「魔王様、私が四天王」


「そうじゃ! それで此奴はどうするのじゃ?」


「シルフィード様は…」


「『様』じゃと? お前は今余が四天王に任命したじゃろう? 何故こんな下っ端魔族に『様』をつけるのじゃ? 余の聞き違いかのう?」


「魔王様、魔王様ぁぁぁぁ、お許しを」


「聞こえんのぉ~余の頼みを聞かなった者の頼みを余が何故聞かねばならぬのじゃ?それでフェザー!此奴をどうするのじゃ?余に逆らう逆賊じゃぞ」


「シルフィード様」


はぁ使えない。


「フェザー、魔王様の意思も解らぬとは『四天王』としてまだまだだな…シルフィードを殺せという事だ!」



「待って、待って下さい! 翼を失った私は今や普通の女魔族、えっ!」


「仲間だった、だからせめて楽に殺してやった」


「フェザー、余は落胆したぞ、四天王に取り立てたお前が何故処刑をせぬ、ダークゴルダ―の手を煩わせおって、それで『鳥』を纏めるフェザーは文句はあるのか? 余の命令に逆らうのか?」


「逆らいません…」


「それなら下がって良いぞ!」


「はっ」


今迄余が甘すぎたのじゃ。


力で本当は縛りたくなど無い。


ゆえに優しく接しておればこの始末じゃ。


「それで、スカルキングお前はどうじゃ? 余の命令に逆らうのか?」


「いかに魔王様とて賛成しかねる、魔族の秩序である掟を破るなど王であっても許される事ではない」


此奴は『不死』というだけあって余より年上。


更に言うなら『不死の王』というだけあってスケルトンや一部の者は余より優先して此奴の命令を聞く。


シルフィードと違い替えはきかない。


「そうか? 其方は余より前から生きており、替えが聞かぬ存在と思っていたのに残念だ」


「魔王様…」


余はスカルキングの後ろに回り首を引きちぎった。


「ダークフレアー」


そして体を黒い炎で焼き尽くした。


「魔王様、何を、まさか私も」


「どうせ!お前は死なない、だが首だけになれば体が生え、動けるようになるには数百年掛かる、充分だ」


「まさかミスリルより硬い我が骨を千切り体を燃やせるとは思わなかった。流石は魔王、今は大人しく眠りにつくとしよう」


「それではスカルキングの頭を丁重に保管しておくのじゃ」


「はっ」


四天王のうち1人は死んだ。


そして1人は数百年は復活しない。


痛すぎる損害じゃ。


◆◆◆


流石は魔王というべきか我が強靭な体を破壊するとは...だが、若すぎる。


何故『不死』と呼ばれているのか?


真の不死に肉体は関係ない。


体が欲しければ何時でも復活は出来る。


『替えは幾らでもある』


今は、お主に花を持たせて置いてやろうぞ。



◆◆◆


「幾ら魔王様でも、横暴すぎます!」


「ゴルバは命を懸けたんだ! それをこんな方法で…」


「余は魔王ルシファード、魔王だ! 魔王とは本来、恐怖で支配する存在…これで正しいのだ! 今迄寛大寛容にしていればつけあがりおって、解っているのはダークゴルダーだけじゃな、余に逆らう存在は死をもって償わせる…それで良い筈じゃ!」


「だが、マモン様は死に、ゴルバの死の願いを…」


「もう良い、それは許す事にする。だが、魔王に逆らうは魔族にあらず、金輪際魔族を名乗る事は許さず、此処を出て人間に戦争を仕掛けるが良い!マモンを殺した英雄セレスは王国の人間、王国に戦争を仕掛けるのが筋じゃ、そこは忘れぬなよ」


「そんな…」


「「「可笑しい」」」


「もう顔も見たくはないわ! だが気持ちは解らんでもない! 人間と戦い死ぬが良い!」


マモンですら殺した存在が居る。


もう、此奴らに会う事もなかろう。


余りにも痛すぎるが仕方が無い。


魔族が滅びるよりはましだ。


「ダークゴルダー!『マモン軍の残党が戦を仕掛ける、この残党は魔族から除名した者ゆえに無関係』と王国に伝えよ!」


「はっ、すぐに」


余はさぞ我儘で暴君に周りの目には映るであろうな。


もう、昔の様な笑顔で接してくる魔族は少なくなるだろう。


魔王故の『孤独』に戻るのは辛いが…我が民が死んでいくのに比べたら…


まだ、マシだ。







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