第133話 【閑話】勇者ゼクトのやり直し⑭ バンパイアと闇の羽衣



屋敷はあっさりと手に入った。


お金が余り掛からなかったから、その分のお金をリフォームに掛ける事が出来る。


そう思い冒険者ギルドを通し、大工を頼もうと思ったら…


「それなら、代金は王宮が持つと連絡を貰っている。いったんギルドで受けるから、早速大工を手配しよう!」


そうギルマスに言われてしまった。


明日には大工が来るから要望を伝えてくれだと。


随分待遇が良いな。


この分もまた借りか。


余り借りは作りたくないな。


まぁ生活の基盤が出来た事は良い事だ。


これからは帝国周辺を活動地域にして地域に根ざした活動をしていけば良いだけだ。


◆◆◆


今現在、魔族と停戦状態だからか、魔族や魔物も好戦的じゃない。


殆どの魔族や魔物は魔国に帰っていったが、逆に知能の高い魔族の中で人間に興味のある魔族は人間と話をしたがる者もいると聞いた。


俺はこの機会に『魔族と話してみたい』そう思うようになった。


「魔族と話してみたい? 勇者様がですか?」


困った時の冒険者ギルド。


冒険者ギルドには情報交換の場所、そういう意味もある。


「そうだ、なにか情報は無いか?」


「それなら、帝都の門から出て数キロ行った所に交易場所を作っているそうですよ? 行ってみては如何でしょうか?」


「そうか、ありがとうな!」


 俺は銅貨1枚カウンターに置いて冒険者ギルドを後にした。


◆◆◆


こんな物が出来ていたのか?


幾つものテントが張ってあって人間側、魔族側でお店を出している。


確かに、敵じゃ無くなったのなら、こういう場所が出来ても良いのかも知れない。


「いらっしゃいませ! 人間の皆さん! げっ勇者!」


「元勇者だ! それに俺はマモンに負けて地獄を見たんだ、いわば被害者だろうが!」


「そう言われて見ればそうだな…最後はかなり悲惨だった。うん、あれは酷かったな」


セレスが親友という事を黙っていれば『俺は被害者』で通るかもしれない。


「それで勇者、お前は何が目的でここに来たんだ?」


「勇者は止めてくれ! 頼むからゼクトと呼んでくれよ! 勇者と呼ぶのは人間が魔王と呼ぶのと同じだぞ!」


「確かにな…悪かった停戦している今、物を買ってくれるならお客だ! それでお前は何が欲しいんだ?」


「ルシファード様が持っている『闇の羽衣』みたいに光を遮断するような物はないかな?」


光を遮断する『闇の衣』が手に入れば、ルナも自由にお日様の下で動き回れる。


ルナが自由にお日様の下で暮らせる生活を俺は諦めたくはない。


「勇者のお前…あっ悪いなゼクトが魔王様に『様』をつけるとは平和になった物だな『闇の衣』は人間側でいう聖なる武器に等しい、無理だな! だが聖属性のゆう…ゼクトが何故それを欲しがるんだ?」


もう魔族は敵じゃない。


俺は自分に事情について説明した。


「驚いたな、勇者が半魔みたいな容姿の女の子を保護しているなんてな、それなら『闇の衣』は要らないな『闇の羽衣』で充分だな」


闇の衣と闇の羽衣?


なんだか紛らわしいし、どう違うんだ。


「その二つはどう違うんだ?」


「『闇の衣』は光魔法から聖魔法、果ては聖剣ですら斬れない魔族究極の防具だ、それに比べて『闇の羽衣』はアンデッドやバンパイア等日に弱い種族が日を遮る為に身に着ける物で魔法に耐性は無い、名前は似ているが、似て非なる物だ」


「『闇の羽衣』で充分なんだがあったりしないか?」


「新品なら魔国に行かないとないが古着で良いなら聞いてみても良いよ」


「なら、頼む」


「ああっ任せろ」


店主は奥に引っ込むと青白い女をこっちに連れてきた。


多分此奴はバンパイアだ。


銀髪に整った顔、よく見ると見える八重歯。


多分、間違いないな。


「闇の羽衣が欲しいって言うのはアンタかな? 勇者じゃないかアンタ」


「元な!」


「そうさぁねぇ、私はそろそろ魔国に帰るから、4着までなら譲っても構わないよ」


4着あれば着回しが出来て楽だな。


「それなら4着欲しい、それで幾らだ?」


「アンタ此処は物々交換だよ? 知らなかったのかい?」


「物々交換?お金じゃ買えないのか?」


「そりゃそうだろう? 私達は停戦したと言っても人間の街には入れないし、人間のお金は魔国じゃ使えないし価値は無いからね」


言われて見ればそうだな。


「それじゃそちらの欲しい物を言ってくれ、もし調達できるなら調達してくる」


「アンタついているよ! 運が凄く良いね!私は吸血鬼、まぁバンパイアさぁ、欲しいと言えば血さぁ…勇者の血はさぞかし美味いんだろうね?どうだい?10分間血を吸わせてくれるなら、闇の羽衣を渡そうじゃないか」


普通なら怖くて出来ない事だが、幸い俺のジョブは『勇者』だ勇者は血を吸われても吸血鬼の眷属に成ることは無い。


「解った、乗った!」


俺がそう答えるといきなり女バンパイアは俺の首筋に噛みついてきた。


勇者は痛みにも耐性があるから痛くない。


しいて言うなら美女に首筋にキスされている様で何とも艶やかな感じだな。


バンパイアは美男美女が多いと言うが、この女バンパイアも多分に漏れず美人だ。


銀の髪にルナと同じような赤い目。


そして雪の様に白い肌。


ルナが魔族の仲間に思われるのは案外バンパイアに似ているからかも知れないな。


「ぷはっ!美味いわ、この血凄く美味しい…まさかプラチナブラッド?」


なんだ、プラチナブラッドって?


首筋に吸い付かれて後ろからバンパイアとは言え美人に抱き着かれるのはあるご褒美ではあるな。


そろそろ時間だ。


「おい、もう10分は過ぎたぞ」


「もう少しだけ…お願い」


「それならあと3分プラスでもう1着つけて5着でどうだ?」


「ハァハァ解ったわ」


◆◆◆


「おいもう15分だぞ、離れてくれ」


「ハァハァ、解ったわよ、だけど勇者だからなのかしら? まさかのプラチナブラッドとはね、もう最高!」


「その、プラチナブラッドってなんだ?」


「バンパイアにとって極上の血の事よ! その血の一滴は金や宝石よりも価値があるの! 良かったら私と血の契約をしない?私の名はユキネ、その血をくれるだけで今なら使い魔になってあげるわ!」


確かに凄い美人だとは思う。


昔の俺なら『お願いしようかな』と馬鹿な事を言ったに違いない。


だが、ハーレムって凄く大変なのが良く解る、仲の良かった幼馴染でさえも大変だった。


今、三人で上手く暮らせているのも2人が余り自己主張をしないタイプだからだ。


俺は恐らく『愛』とか『恋』が上手く理解出来ていない。


今の俺には無理な話だ。


「凄く魅力的な話だが遠慮しておくよ!」


「聞き捨てならないね!私に不満があるのかい? これでも美しいと言われるバンパイア族の中でも飛び切りの美人と言われているんだけどね」


確かに言うだけある。


美姫と名高いマリンよりも綺麗だ。


「それは認める! 俺はアンタより綺麗な女は見たことが無い」


「なら良いじゃないか? その血を日に何度かくれるだけで私はアンタのものになるんだよ?」


「昔の俺なら飛びついたと思うよ!だが、今の俺は色々あってなそう言う事は避けているんだ」


「ふ~ん、そうかい? まぁ良いや、私がアンタにとってとびっきりの美女だと言うのは解ったよ! バンパイアは不老不死だ、アンタが気の変わるまで10年でも待つとするよ」


「待っても無駄だ」


俺は約束の闇の羽衣を5着受け取り、その場を後にした。







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