第131話 メルと開かない魔導書



俺はサヨとメルを今度は探した。


本屋巡りをすると言っていたから古本屋にきっといるのだろう。


この世界では本=古本屋だ。


活版印刷がまだない世界で未だに手書きの本が多く精々が版画位しかない。


だから本は凄く貴重で、新刊など手にする機会は余りない。


本屋巡り=古本屋巡りという事だ。


懐かしいな。


そういえば、昔神保町で古本屋巡りしたな。


まぁ二人と違って推理小説の全集を探していたんだけどな。


居場所がすぐわかる。


この能力は凄く便利だ。


メルとサヨは遠くから見ると良く似ている。


背丈が同じ位のせいもあるな。


「サヨさんメル!欲しい本は見つかった?」


「セレスさん、本は凄く沢山有るけど新しい本ばかりよ、もう少し古い世代の本が欲しいんだけどないわね」


サヨの持っている収納袋は大きくて千冊以上の本を蔵書として持っている。


そう聞いたことがある。


そしてその本の殆どを記憶しているのだと言う。


静子、サヨ、ハルカ、ミサキの4人は皆頭が良い。


だが、その中でもサヨは学問という事ならダントツだ。


最も魔法使いだから当たり前と言えば当たり前だ。


「確かに古い本は価値が高い分なかなか無いからね、そう簡単に良い本は見つからないよ」


「そうよね、だけど見つかった時が凄く嬉しいのよ」


「そうだね」


「それで?メルはどんな本を探しているの?」


「私?私は特に探している本は無いよ」


「無いの?」


「私は母さんに付き合っているだけだもん…賢者だから読まない訳にはいかないから義務感から読んでいただけだから」


賢者は賢い者。


だから、どうしても知識が豊富だと思われる。


だが、勉強もしないで知識が身につくわけが無い。


賢者のジョブは頭の回転を良くして更に記憶力が上がると言われる。


だが、それでも知りもしない知識が手に入るわけじゃ無い。


学ぶ事は絶対に必要だ。


確かにメルは小さい頃は本が余り好きじゃ無かったな。


本が好きなら俺と一緒にシュートの所に遊びに行っていた筈だ。


「確かにそうかも知れないけど」


「折角、賢者を辞められたんだから少しは本から離れたいのよ」


「確かに」


結局サヨの欲しいような本は見つからなかった。


◆◆◆


今、俺達は門から外に出て原っぱに来ている。


サヨからの提案でメルがこの間手に入れた『偽りの魔導書』を試す為だ。


「あのお母さん、こんな本で本当に戦えるの?杖の方が使いやすいと思うんだけど?」


メルはよくサヨの呼び方が『母さん』『お母さん』と変わる時がある。


使い分けが良く解らないけど、割と真剣な時に『お母さん』になると言うような気がする。


この辺りは微妙だけどな。


「うふふっ、お母さんも実は本を使った戦いはした事が無いのよ! 残念ながら私を選んでくれた本は無かったから、良い?本に選ばれるこれは凄い事なの」


「お母さん、そんなに凄いの?」


「そうね、その本は貴方が亡くなるまで他の人には絶対に読めないし、幾つ呪文が記載されているかは解らないけど、それはオリジナルスペルの可能性が高いのよ」


「「オリジナルスペル?」」


「そうよ!くだらない物から素晴らしい魔法迄あるの、ただそれは唯一無二の物の可能性が高いのよ」


「そうなんだ」


「凄いな」


「そうよね!羨ましいわ」


「だけど、お母さん、この魔導書開かないんだけど」


「前にも話したけど、必要な時にだけ開くのよ、必要ない時には開かないわ」


その必要な時がいつなのか解らないんだよな。


「どうすれば良いのかな?」


「それはどうしようも無いわ、その手の魔導書はぶっつけ本番なのよ。だから最初の1回は『その時』まで開かないし使えない。その1回が使えたら、そこからは自由に使えるんだけどね」


「それじゃなんで原っぱになんかきたのかな?」


「簡単よ?私と魔道戦、セレスさんと直接戦闘をすれば使えるようになるんじゃないかな? そう思ったのよ!」



「お母さん止めて」


「これはメル貴方の為なのよ…まずは私ね行くわよ」


だが、サヨが氷結系の魔法を使っても、俺が斬りかかっても魔導書が開くことは無かった。


「ハァハァゼィゼィ…もう無理だよ…」


「そうだね、これ以上は止めた方が良い」


「やはり、命の危険な状態じゃ無いと無理なのかしら、それじゃ氷結魔法の奥義…絶対」


「サヨさん、それは不味いよ!」


「お母さん止めてっ」


「あっごめん!セレスさん、メルこれは冗談、冗談よ」


「お母さん」


「メルそんな目で見ないでよ、本当に冗談なんだから、そうよねセレスさん」


流石に冗談だよな。


うん、そうに違いない。


「そうだね、メル多分冗談だよ…そろそろ街に帰ろう」


「「そうね、帰ろうか」」


気まずそうな二人と一緒に俺は街に帰っていった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る