第128話 1人の時間




久々の一人だ。


だが、思ったより楽しくは無いな。


今は嫁達と過ごしていて一人になる時間が無かった。


昔も、今思えばゼクトを含む幼馴染と一緒に過ごしていた。


一人で過ごしていた時間は、パーティを追放されて静子と出会うまでの僅かな時間だけだ。


村でもいつも誰かと一緒だった。


俺は一体、何がしたいのだろうか?


いざ一人になって見ると、やりたい事が頭に浮かばない。


俺はお酒は前世も含めて余り好きではない。


一緒に飲んでいると仲間同士楽しい時間を過ごせるから飲んでいただけだ。


飲んでいたのはビールかホッピー。


しかも味覚という意味ならただ苦いだけ。


高級ワインも安物のワインも味の違いは解らない。


目の前に酒場があるが、1人で行く気にはなれない。


流石に今から何処かに観光っていう訳にもいかない。


カジノに行っても俺は黄竜だから絶対に負けない。


また大事になっても困るから出来ない。


魚釣りでも?


止めておこう、多分リダに文句言われる。


こうして考えると俺って、自分がやりたいって事が余りないんだよな。


前世の俺は一体どんな趣味があり、何を好んでいたんだろうか?


酒は好きじゃなかった。


ゲームは少しだけ。


あとは…虫食いで余り覚えていない。


この世界に生まれ変わってから、今まで過ごしたからか、今となっては余り思い出せなくなってきた。


まぁ、別に忘れてしまっても問題は無い…多分そうだ。


ジムナ村と違い、知っている場所は何も無い。


仕方が無い。


食べ歩きでもして、市場で食材でも見て歩くか?


さっき食べた店と違う串焼き屋に来た。


流石はコハネ、観光地だ。


まさか、これがあるとは、串にソーセージを刺した奴。


フランクフルトだ。


「おじさん、それくれるかな?」


「おおっ! これを選ぶなんて通だな…ほれ」


俺は代金を払ってフランクフルトもどきを貰った。


腸詰めがあるとは、俺は収納袋から持っていたケチャップを出して掛けた。


「変わったソースだな」


「俺のオリジナルだ」


「なんだか血みたいで生々しいな」


「トマトから作ったんだ」


凄く美味そうに見える。


「いただきます!」


早速、噛り付いた。


「うっ」


駄目だ、何だか凄く血生臭い。


血の味がするし、何だか少し生臭い感じがする。


余り美味しく感じない。


「どうだい!兄ちゃん!変わった味だろう?」


「確かに、血の味がするし変わった味がするな」


「通はそれが好きなんだよ!ただそれが苦手な人は更に良く焼いて食べるんだ」


商売上手だな。


「だったら、その良く焼いた奴をくれ」


「あいよ…ほら」


俺はまたお金を払いフランクフルトもどきを貰った。


今度のは焦げ目がつく位焼いてある。


同じように自家製ケチャップを掛けてパクついた。


パサパサしているが美味い。


ソーセージというよりはレバーに近いかも知れない。


だが、美味い。


「確かに美味いな、ところで俺も腸詰めを作ってみたいんだが、これは手に入るのかな?」


「他では珍しいが、コハネなら市場で売ってくれる店があるぞ」


「ありがとう!」


「どう致しまして」


◆◆◆


市場に来た。


流石はコハネって事だな。


規模が凄く大きくて活気がある。


何より、海が近いから海鮮が売っている。


ワカメや昆布みたいな物が普通に売っていた。


「これはどんな料理に使うのですか?」


「スープに入れて食べると独特な風味が出ます、好みは別れますが」


「それなら、5つ貰おうか」


「ありがとうございます」


こうしてみるとやはり海が近いのは凄いな。


この世界は貯蔵の関係なのか今迄海鮮なんて目にした事も無い。


だが、この場所には当たり前のように売っている。


本当に凄いな。


「その干物22枚くれないか?」


「毎度ってお客さん凄いな」


「家族が多いからね」


凄いな干物まであったよ。


だけど、やはり醤油は無いみたいだ。


これで、醤油と味噌と米があれば最高なんだけどな。


残念ながら無さそうだ。



「凄いな、こんな川魚もいるんだ」


見た感じニジマスに似た魚が売っていた。


「コハネには湖と川もありますから、海の物だけじゃ無いんですよ」


「それじゃ、その魚を塩焼きにしたのものをくれ」


「はいよ」


うん、この味はほぼニジマスだ。


「これは何という魚ですか?」


「二ージーマースという魚ですね」


名前も凄く似ているけど、突っ込まないでおこう。


結局、俺は美味しそうな物を食べて、家族で食べる食材や調味料を買い漁っていた。


今迄の俺は『誰かの為に』そう思って行動する事が多かった気がする。


今は世界は平和だし。


時間もタップリある。


自分が本当にやりたい事を探しても良いのかも知れない。



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